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第3章 憎悪

(本文)


「あ、あの〜……今日こちらの方に左目に刀傷と打撲の多い怪我人が来ませんでしたか?」

「どんな感じの種族の人かな?」

「……あの〜ですね、黒髪に黄色の肌をしたヒューマンの男性なんですけど、名前は直人といいます。こちらの方に治療に着ませんでしたか?」

「……ん……直人と言った名の男性は来てないし、そんな傷を負った怪我人もきてないが?」

「そうですか……すいませんでした……お手数おかけしました……」

 高齢な人種の医者から、そんな患者は着てないと告げられたイレーヌ。思いっきり落胆してしまう。

 ここがこの街最後の病院なのだが。どの病院も直人など着ていないと告げられた。

 特に直人の髪の色と肌の色とは、この国では珍しく、まず一度見かけると印象に残るはずなのだが……着てないと……。


 先程イレーヌ。金持ちの中年男性と別れて、その屋敷を飛び出た。

 慌てて家に帰って扉を開けてみると、大ケガをしているはずの直人が居ないのだ。

 可笑しい……? あれでもと思い、奥の寝室を覗いて見てもやはり直人の姿がない。

 慌てて娘のすみれを抱いたまま、外に飛び出し隣の住人達に尋ねてみるが、知らないとしか言われない。


 どうしょう?

 どうしょう?

 どうしょう?

 直人が居ない……。

 ……まさか直人死んでしまったの?

 ……嫌々そんな事は無いはずよ……。

 ……では何処にいるの?



 イレーヌは真剣に考える。

「………………」

 そしてある事を思い出した!?

 あ、もしかしたら、怪我で病院にいるのかも!?

 そう思うと彼女、居ても立っても居られなくなり、慌ててこの街の病院を手当たり次第周り始めたのたのが。

 全くもって直人が見当たらない。

 それに今出た病院がこの街最後の病院なのだが、とうとう直人の姿は無かったのだ。


「貴方何処?……帰って来てきて……もう二度とあのような真似は、いたしません、だから許してください。……そして生きて帰ってきて……」

 イレーヌ、目を瞑り一人娘のすみれを強く抱きしめ、懇願のような願いを込め独り言を呟くのだが……。



 ◇◇◇◇◇



「う、ぅぅぅぅぅ……」

 目を開けると薄っすらとだが、見慣れない風景の天井が写っている!

 直人ここは何処なのだと悩んでしまう!?

 確か直人自身の最後の記憶には、自分が人魚の里になんとか無事に帰れた所迄は覚えているのだ。


 可笑しい……?

 あれは、夢であったのか?


 そんな事を考えている直人に、女性の優しい声が聞こえてきた。

「起きましたか……?」

 その女性の声はとても懐かしい声。そして直人の憧れの君でもある声。

 直人は慌てて、その美しい声の主へと目を向ける。


「………………」

 そこには直人の憧れの人でもある、イレーヌの母であるシュトリーが椅子に座り自分を見ていた。


「え? あれ? ここは何処ですか?」

 直人とシュトリーと目が合うと、ここは何処なのかと尋ねた!?

 するとシュトリー黙って直人に微笑むだけ……。


「………………」

 だが直人。その微笑みを見てホッとする。

 それに今迄は大変に緊張していた自分自身だったのだが。

 彼女が微笑んでくれた事で取り敢えずは、胸を撫で下ろし緊張感が解けていく……。


「………………」

 取り敢えずはシュトリー自分の事を怒っていないみたいだ!?


 直人思わず沈黙して、慌てて周りをキョロキョロと確認しなから、場所の特定を図る。

「ここは長の屋敷で私の部屋ですよ。お忘れですか? 貴方もイレーヌとここに住んでいたではないですか」

 今迄黙り込んでいたシュトリーだが、直人に優しく説明をしてくれた。

 その話を聞き直人。辺りを注意深く見てみるが、前にイレーヌとこの屋敷住んで居た時でもシュトリーの部屋など入った事などないので全く持って解らない。


 でも広い寝室の割には、クローゼットと机、書斎が一つあるだけの殺風景な部屋だと思ってしまう。

 それに妙に可笑しく思うのは、今直人が横になっていたベットが妙に大きいのだ。

 特にこのベット、楽に大人が四人ぐらいは横になれそうな大きさがある。

 それにとてもフカフカでクッションも良く、肌触りも大変に良い。

 街で直人とイレーヌが使っていたベットと比べると、雲泥の差があると彼は思ってしまった。

 そして伯爵位があるとは聞いていたのだが。半信半疑ではあった彼もこの大きなベットを見て、本当なんだと思ってしまう。


「調子はどうですか?」

 部屋の中を確認していた直人にシュトリーが尋ねてきた。

「あ、すいません。本当にお騒がせしました。何とか動けれそうです」

 直人、そうシュトリーに答える。

「そうですか、それは良かった」

 直人の体調が良好だと解ると、とても安堵した表情のシュトリー。それを見た直人は自分の事などより、娘のイレーヌや孫のすみれの事の方が心配のはずなのに、直人自身の事を気に掛けてくれるシュトリーに、大変に申し訳ないと思ってしまう。

 そして申し訳無さそうに直人。シュトリーに再度謝罪を入れる。

「有り難うございす……それに……イレーヌの件は、本当にすいませんでした……僕がだらしないばかりに……娘のさんと孫を取られてしまって……本当にどう謝ればよいのか……誠にすいません」

 シュトリーに謝罪を入れると、自分の情けなさに又々涙が漏れてしまう。

 あれから何度、男泣きをしたのだろうか?

 直人、自分自身の涙腺が本当に弱くなったと確信する。

 そして考えれば恥ずかしくなる直人だが。

 横になったままだが、シュトリーに鳴き声を聞かれたくないので、声を漏らさないようにしながら、彼女に背を向け丸まってしまった。

 そんな小さく見える直人の背にシュトリーは、優しく声を掛ける。


「いえいえ、娘の事は気にしないでください。もう死んだと思って諦めました。それに直人はこの里に帰って来てくれたのですよね? まさかイレーヌをまた求めて街に戻るとは、言いませんよね?」

 最初は優しく話を進めていたシュトリーではあるが、直人が人魚の里に残るのか、残らないかと言った話題に切り替わると、急に声が荒々しく変化していっのだ。

 その言葉の変化を聞き取った直人。

 もしかしたらシュトリーは、自分に里に居てもらいたいと思っているのではないかと、思うようになりだした。

「………………」

 試してみるか……?

 そう思うと直人。いつの間にやら涙も止まり。思わず口の端が悪魔のようにつり上がる。


「シュトリーさん。俺、ここに居てもよろしいのですか?」

 わざとらしく、不安そうな声で尋ねる直人。

「貴方の里ですからいいのですよ。いつまでいても……と、言うか……居ても貰わないと、本当に私達は困るのですよ……」

 本当に困った声を漏らすシュトリー。

「……俺の里? 居て貰わないと困るとは、どういう意味ですか?」

 直人『貴方の里』、『私達は困る』と言ったシュトリーの言葉が気になり尋ねてみた!?

「この里に残っている男性は直人、貴方だけなの……それに貴方達がこの里を出て行く前にイレーヌにも言ったのですけど、貴方が今この里の長なの……だからイレーヌが独り占めして一緒に逃げたものだから、その後は大変で大変で……このままだと、人魚の人口が増えませんし。私達の種が滅んでしまいます……」

 目を潤ませながら説明してくれるシュトリー。直人その様子を見て、自分達か夜逃げした後に、本当に大変で困っていたのだと思ってしまった。


 それに今迄知らなかった事だが、俺が長だと……?

 直人、全くイレーヌに聞かされていないし、知らなかった事なので、思わず動揺してしまう。


「……俺長だったんだ……」

「そうですよ、長!」

 少女のように嬉しそうに直人を長と呼ぶシュトリー。

 そんなシュトリーを無視して直人、沈黙を始める。


 その様子を見ていたシュトリーだが立ち上がると、直人の寝ている横に座り込み。

 艶やかな声で、直人に話し掛けながら、彼の頭や背を撫で始める。

「………………」

 官能的な手つきで直人を撫で回すシュトリー。まだまだ若い直人には、彼女のその行動が思わずドキッとするし、動揺迄して反応してしまいそうにもなる。

 ドキドキしている直人にシュトリーは━━

「お・さ〜、……お腹空いているでしょう〜?……何か作ってきますね〜」

 と、甘い声を放ち立ち上がると、ドアを開けて直人の食事の準備をするために部屋を出て行った。


 そんなシュトリーの後ろ姿を見送る直人。彼女が部屋から出たのを確信すると、部屋の隅に置いてある鏡台へと移動する。


「………………」

 鏡に写る、自分自身の顔を見て、沈黙してしまう直人。

 先ずは、左目には縦に切り傷が残っているのに気が付いた!

 そしてその後気が付いたのが……割と鼻も高く、真っ直ぐな鼻だった筈の自分なのだが……。

 殴られた時に折れたのであろうか?

 微妙なのだが、変な方向に曲がってくついているようだし、鼻の根本も腫れぼったく見えるのだ。

 直人、今度は先程から違和感のある口を開けて見てみる!?


「………………」

 は、は、歯が無い!

 直人、自分の前歯が無くなっている事にも気が付いたのだ。

「………………」

 直人、更に自分の容姿を確認する。

 まだまだ若く、二十歳そこそこの年齢の筈なのに、髪の方も前髪や所々がメッシュを入れたように、白髪にもなっているのだ。


 ……愕然とする直人。元々童顔な顔の筈なのだが、目が覚めてみると年齢よりも老け顔に変わり。

 見方によれば、中年層にもにも間違えそうな容貌なのである。

 そんな容姿の自分を見た直人、愕然としてしまう。

「何故俺がこんな目に遭うんだ……俺が何をしたと言うんだ……親子で普通に暮らしていただけではないか……くそ、くそ、くそ、ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」

 呪いと怒気を含んだ声を吐く直人。心の底から闇と憎悪が湧いてくる──。

「……ぜ、ぜ、絶対に許さねぇ、何もかも……俺の小さな幸せを奪ったこの世界……それと俺をこんな姿にした男達……絶対に絶対に許さねぇ、力を付けてやる。そして復讐してやる……」

 鏡の前にへたり込んで、呪いと憎悪の言葉を唱えながら両手で顔を抑える直人。最後に女房への復讐心を唱え始めた──。

「……俺を裏切ったイレーヌ、お前だけは絶対に許さねぇからなぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 心の中から、裏切った女房イレーヌへの憎悪を叫ぶ、直人であった。


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