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第2章 里に帰る。

 第2章 里に帰る。


 少年の笑顔が脳裏に走る──


「俺スゲー、幸せ!イレーヌは俺の人魚姫だ、大好きだよ、絶対に幸せにするから!」

「うん。私も幸せだよー!直人、愛してる!」

 今まで、彼と過ごした良い日々の思いでが、彼女の脳裏に走馬灯の様に流れていく。


 ……………………!

 ……良い事だけ思い出せば良いのだが、そうはいかない。

 特に先程の直人の、血まみれになりながら、のたうち回る姿。そして自分自身に助けを求める姿が、昔の良い頃の思い出を脳裏に描いても、何度も何度も下記消すのだ。


「すいませんでした皆さん。これが先程の謝礼です」

「おおお、すいません。こんなに頂いて」

「へへへへへ……有り難うございます」

「おおお、ありです」

「これわこれわ……」

「へへへへへ……旦那、また何かありましたら、声をかけてください」


 自分自身を金で囲った男。その男から頼まれて、直人を私から遠ざけた男達。

 皆の会話を聞きながら、直人への罪悪感が募る。

 今から戻り、謝罪すれば直人なら自分自身を許してくれるのではないか!?

 いや謝罪よりも、先治療をしなくては……でもあの状態だから生きているのだろうか!?

 イレーヌ自身が、直人の生存事態を不安になってきた。


「……それはそうと、あの男死にましたか?」

「あああ、旦那。あの調子なら、まず間違えなしに死んだと思いますよ……生きていても二度と近寄らないと思いますよ」

「へへへへへ……馬鹿だよなあのガキ、向きになりゃがって」

「あああ、しつこいから、半殺し?というか本殺しにしてやりました」

「わっ、ははははは……マジで、女取られて向きになりゃがって、女の方はとうに気がないのによ〜、アホでやんの」

「うんだ、うんだ」

「ま、旦那に頼まれた通り、処分の方はしておきました」

「あ、ははははは……本当に助かりました」


 直人を嘲笑する男達。イレーヌはだんだんと苛立ちを覚える。

 それに話しも違う。自分自身と直人をセットで面倒を見てくれと、言った筈なのだこの男は、だからイレーヌは、こんな中年のお腹もド〜ンと出ている様なタヌキオヤジでも、生活の糧の為に囲われても良いと考えたのだが。


 男達の話しを聞いていると、どうも違うのだ!?

 イレーヌは直人を、家から追い出してくれと頼んだだけで、けしてあんな暴力を加えてくれとは、頼んでいないのだ。

 それに虫のいい話しかもしれないが、あの時は、イレーヌ事態もかなり、いきり立っていて、ついついと暴言を吐いてしまったのだ。


 ……だからどうしょう?


 自分が行った行為━━取り返しが付かない━━大変な事をしてしまった。

 だから自分の行った行為を誤魔化す為に彼女は、男達を責めた!


「……あんた達、誰があんなになるまで、うちの旦那を殴り回せと言った?それに顔ナイフで斬ったりしたけど、死んでたらどうするの?それにうちの旦那も一緒に面倒見るといったじゃない。……先程からあんた達の話しを聞いてると、最初からうちの旦那を殺すきだったの?」

 イレーヌ、憤怒して、男達を怒鳴り回すと━━

「はぁあ?お前が家から追い出してくれと言ったんだろうが? それにお前が望んだ事だろう? わしと暮らすのに、旦那が邪魔だし、今家にいるから何とかしてくれと言ったのはお前で、俺はお前が頼みここんでこなければ、放置して置くつもりだったぞ。お前が助けてくれと言ったから、お金を使ったのだろうが……これまたおかしい事を言うやつだな? そんな訳解らない事を言わなくてもいいから、早くこっちにこい。可愛いがってやるから」

 と、言いながらニヤニヤと、スケベそうな微笑みを浮かべて、イレーヌを手招きして呼ぶ。


 ━━そのいやらし微笑みを見てイレーヌ。急に気持ち悪くなり、男に触られるのも嫌になった。

 特に人魚の女は、発情期以外は、男性との行為をする事を基本嫌がるのだ。

 だから朝まで直人にされた事が嫌になり、ついついとこの男に愚痴を言って、何とかならないかと言った事が取り返しの付かない事になってしまったのだ。

 そして今更言い訳になるかもしれないが、時間が経てば冷静に考える。

 すると直人の容態が気になって気になって、仕方がない!


 ………………

 爪を噛みながら考えるイレーヌ!?

 爪を噛むのを辞めると、直人が気になるので、男に別れ話しを持ちかける!

「……旦那の事が気になるからもう帰る……あんたとは別れるから、付きまとわないでね」

 女心と秋の空とは良く言ったものだ。

 朝は直人が気に入らない。

 そして今度は、中年のタヌキオヤジが、気に入らないと言って帰ると言ったもんだ!

 だからタヌキオヤジ。真っ赤かな顔で怒りだした!


「お前、何を考えてるんだ!お前にいくら掛かっていると思っているんだ!いい加減にしろ。……手荒な真似はしたくはないが……すいませんが、あの女を捕まえてもらいますか? 他の部屋に連れて行き、わしの言う事を聞くようになるまで閉じ込めて置くので、お金はまた別料金払います!」

 そうタヌキオヤジが告げると、先程直人痛めつけた男達。「えへへ……」とキモい笑い顔をしなだら、指をならし、イレーヌに近寄ってきたのだが、等のイレーヌはその様子を見ても──後ずさりなどせずに、一歩も引かない!

 それどころか、タヌキオヤジと男達に、憤怒して怒鳴りまわした──!

「あんた達いい加減にしなさいよ、私に手を出すと許さないよ、役人にあんた達に、旦那を殴りまわされて無理やり屋敷に連れてこられたとでも言ってやるから。それにこの国は、不倫や人の女房に手を出すのは重罪だから知らないわよどうなっても!」

 イレーヌの威勢の良い話しを聞きタヌキオヤジは笑い出した。


「わ、はははは……お前は馬鹿か、役人に言えばお前も重罪だぞ!だからまずいと思って、わしは旦那を処分してくれと頼んだのだのが解らないのか?……それにな役人連中になら顔が利く、だから上手く誤魔化してもらうから心配ない。だから痛い目に遭いたくなければ、言う事聞いてこちらにこい。……でないとお前の娘も旦那といしょで、どうなっても知らんぞ?」


 娘のすみれに、手を出すと言い出したタヌキオヤジにイレーヌはさらに憤怒した!

「あんた達、娘と私に手を出したら殺すわよ。それにあんたが役人に知り合いいるならいいわ、私は母さんに頼んで、ここの領主かこの国の王様に、お願いしてもらうから」

「はぁ?なんでお前風情が領主様や王様を知っている?おかしいではないか?ハッタリモいい加減にしろ!」

 貧乏暮らしをしていたイレーヌ夫妻。母親に言いつけて領主と王に告げ口をしてもらうと、言い出した言葉を聞いて笑い出す男達。そしてタヌキオヤジはいい加減にしろと、呆れた口調で言ってきた。

 それを聞きイレーヌ!

「あんた達笑ったわね?絶対に許さない……私を誰だと思っているの?……私は人魚の長の娘よ。それにあんた達先程殴り回したのは、次の長よあんた達どうなっても、知らないからね。人魚がアマゾネスだって事ぐらいは知っているでしょ?それに娘に手を出すと言ったわね?……殺してやる……私はセイレーンだからあんたら風情が十人そこらいても殺せないわよ」

 そうイレーヌが言い出すと、部屋全体が、真冬の雪山のように冷えてきた。

 ━━だんだんと、部屋の所処が氷り出し、氷柱迄もが垂れ下がりだした。

 そして彼女から、風が吹くように湧き出てくる、冷気と白い粉。

 それを肌で感じ、部屋の所々が凍り付く様を見た男達は、逆に後ずさりを始めた!


「悪かったよ、本当に済まなかった、勘弁してくれ、俺達はただただ頼まれた、だけだから、二度と関わらないし、目の前に現れないから許してくれ」

 男達のリーダー格の男が言い出すと、残りの者達と一緒に、慌ててドアを開けて部屋から飛び出した。

 その様子を目で確認すると、イレーヌ。今度はタヌキオヤジに視線を代えて迫った。

 ──するとタヌキオヤジ、自分自身に、危機が来たと感じて、尻餅を付きながらも、後ずさりを始める。そして怯えながらもイレーヌに反論を始めた!


「……お前、わしと別れて旦那の元に戻るのはいいが、帰っても旦那は生きているのか? それに生きていたとしても、セイレーンのお前を許してくれるのか?……お前ならあの時、あの場所時で、本当に旦那の事が好きで大切なら、治療が出来たはずだ……それなのにお前はしなかった……俺がお前の旦那だったら絶対にお前の事は許さん!……本当にお前は酷い女だ……人魚の女は一度連れ添うと死ぬまで尽くすと聞いたことがあるが、あれは嘘だったんだな……まあいい。早くここから出ていけ、わしの方もお前のような女の顔など見たくない……クソッタレメ……」

 タヌキオヤジは、イレーヌを冷酷な女だと蔑むと、片腕を上げて『シッシ……』といった素振りを始めた。


 ──その様子を見ていたイレーヌ。魔力を上げるのを止めて俯いた。そして「ごめん……」と言葉だけを残して、慌てて部屋を飛び出した。


 何故だか涙が出ている!? またまた男を騙してしまった。なんだか自分自身が凄く嫌な女に見えてくる。

 先程までタヌキオヤジだと言っていた男に、本当に悪い事をしたと何度も何度も心の中で謝罪した。

 そして今は、慌てて家に戻っている━━直人は無事なのか? 間に合えばいいが? 帰ったら何度も何度も謝ろう。

 もうこんな街から出て行きたい。傷の治療が終わったら里に帰ろう。そして直人と、一からやり直すのだと思いながら、すみれを抱き、慌てて帰途に付くのであった。



 ◇◇◇◇◇



「お、おい、おい、直人。生きてるか?」

 直人は、完全に薄れる筈であった意識を、今の声で何とか思い止めた!

(誰だろう? こんなみっともない俺に声をかけてくれる、お人好しの人は……)

 声のする方に顔動かすと、近所のドワーフのホロさんだった。

 日本にいたころの引きこもり生活は、近所の人とは会うこともないし、話しをする事もなかった直人だが。

 こちらにきてから、人魚の女性達が、ひっきりなしに話しかけてくれたのおかげで、引きこもりぱなしといった感じではなくて、誰とでも、話しを出来る様にはなったのだ。


 だからこの街に来ても、引きこもっていたと言っても、近所の人達とは比較的友好で、外に出ては、良く話しを交わしていたのであった。

 特にホロさんは、加治屋を生業としていて、直人は娘をあやす次いでに良く作業を見させて貰っていたり、世間話しをしたりと、仲良くして貰っていたのだ。


 だからか!? 女房に放置された直人だが、ホロさんが声をかけてくれたお陰で、永久に目覚めないといった事だけは、防ぐ事ができたのだ。


「う、ぅううう……いたたたた……あ、あ、ありがとう、ホロさん何とか意識が戻ってきたよ、マジで身体中が痛くて痛くて……」

「大丈夫か? これだけ殺られたんだ、役人に言った方が言い。生きているのが不思議なくらいだ。この国は不倫は重罪だ、特に男の方は、旦那がいる女に手を出したら、かなりの重い罰がある。だから言った方がいいよ……」

 直人の事を心配してくれるホロさん。直人は本当に有難いと思い。涙が出てきた。

 更に他の近所人達、人一人乗っかりそうな板を持ってきて、直人をその板に乗っけてくれた!

「ホロさん、役人の所に行く前に、先ずは病院だよ」

 そう言ってくれる近所のおばさん。

「いや……病院はうちらみたいな者は見てくれないよ。それよりは魔法婆さんの方がいいよ」

 近所のおかみさんが、皆にそう言うと━━

「そうだね……」

「うん。その方が良いかも!」

「あああ、じゃ運ぼうか、直人を……」

「うん、そうだね」

 周りから近所の女性陣達の声がする。見える右目のみで、周りを確認しょうとするのだけれども、涙が目のレンズを覆い被さるので、良く確認できない。

 だけど、声を聞いていたら、何処の誰だかは確認できる。

 本当に貧乏暮らしの長屋生活ではあったが、人情味のある良い所で暮らせたと思う。

 本当に有難い。何度も何度も感謝しても足りないと、直人は思っていた。


「う、ぅうううう……本当に皆ありがとう、お、俺、皆になんてお礼を言えばいいか……」

 涙を流しながらお礼を言う直人に、近所の皆は。

「いいよ別に」

「困った時はお互いさまさ!」

「うんだうんだ気にするな」

「それより、あんたは、大丈夫なのか?」

 皆が直人に優しい声をかけてくれる。

 先程、自分自身の女房に、冷たくあしらわれて、人間不振になりかけた直人なのだが、近所の皆を見てると、体の中の命という文字が温かくなる。

 良かったー!最後に人の良い所が見れたー!

 そう思う直人━━だんだんと意識が薄れていく。



『ドン、ドンドンドンドン……』

「婆さんいるか?」

「なんじゃい騒がしい?」

「お、いたいた。怪我人がいる見てくれ!」

 家の中に慌てて入る。板の上に人を乗せて運んで来た、複数の男女。

 ━━薄暗い部屋の中に座っている老婆に話しかけているようだ。

 老婆の前に置かれた、板の上に置かれている男。

 老婆は、座っている椅子から立ち上がり、男の前に立つと━━

「この男生きているのか?」

 そう老婆が皆に尋ねると!?

 すると男女の内の一人が、「先程までは、生きていた」と答え返すと、周りから。

「死んでいるのか直人わ?」

「間に合わなかったか……」

「かわいそうにの」

 などと、複数の声が帰ってくる。

 そう皆の声を聞いてた老婆。

「大丈夫じゃまだ微かに息がある。ギリギリだと思うが、回復魔法をかけてみるわ、間に合わなければ済まんの」

 とだけ言い。魔法を直人に浴びせた。


 ………………


 長く感じる時間、あれからどれくらい経ったのであろうか?

 もしかして、自分達が考えているより、時間は経っていないのかも知れないと、ホロは思う!?

 そして直人の顔色を見ていると、赤身が戻りつつある。

 ━━取り敢えずは、大丈夫そうだ!

 自分の周りにいる、近所の人達も、取り敢えずは安心した様な顔になる。

 その様子を見て、ホロは皆に「皆用事あるだろうから、先帰っていていいよ。後は俺が見てるから」と告げると━━「そうかい? じゃお言葉に甘えて先帰るね」━━「後は宜しく」━━などの言葉をホロにかけながら、部屋から外へと出ていった。

 その言葉を聞き、皆の背を見ながらホロも「皆お疲れさま」と言葉を返した。


 後部屋に残るは、魔法婆さんと直人、それとホロの三人だけとなった。

 それを見計らった様に、魔法婆さん━━「この男は、一人物か?家族はいないのか?」と尋ねてきた。


 それを聞きホロは━━「いや、奥さんいたんだけど、直人を放置して他の男の所に……その男達に、直人殴られてしまって……」

「フム……そうだったのか……じゃ見てくれる者もいないし、死んだ後、葬ってくれる者もいないか……」

「え? 顔色良くなって来ている様にも見えるが、直人不味いのか、婆さん?」

 慌ててホロが直人の容態を、魔法婆さんに尋ねると!?


「……今日が峠じゃな……ここでこのまま様子を見ててもいいが、墓場に連れて行って、引き取って貰うのもいいかもな……後はあちらが、無縁仏として片付けてくれると思うぞ」

 魔法婆さんの話しを聞き、ホロはどうしたら良いかと、判断に悩んでしまう!?

 家に連れて帰るか?

 でも誰もいない部屋に置いていても、看病もできないし、ただただ死を待つだけだ。

 それならば、いっそうの事、墓場に連れて行って預けるか!?

 でもそれならば助けた意味がなくなる。

 では、自分の家に連れて帰るか!?

 それでダメなら、墓場に連れて行こう━━そして皆で葬儀をしてやれば良いかと思い考える。


 そしてホロ、魔法婆さんに━━「俺の家に連れて帰るわ……」と告げると、魔法婆さん。「そうか、そうしてやるがよいぞ」とホロに言ってきた。

 ━━魔法による治療も終わっている、魔法婆さん。その顔を見て微笑みむホロ━━

「ありがとうよ、婆さん」

 と、言って直人を抱える為に近寄ると━━

「う、うううううう……」と声が漏れてきた!

 奇跡か? ホロはそう思うと、直人に「お、おい、直人?直人? 大丈夫か?意識はあるのか?」と尋ねると━━

「う、ううう、あぁあ、まだ何とか生きてるみたい……ここは、何処なんだろう……」

 直人が尋ねて来たので━━ホロは「ここは魔法婆さんの家だよ……直人と怪我が酷いから、近所の皆と運んできて、治療して貰っていたのさ」

 その話しを聞き直人。右目から涙を流しながら、何度もホロに「ありがとう、ありがとう」とお礼を告げる。


 ━━そして今持っている、ありったけのお金、三万ギガスをホロに渡して、お願いを始める!?


「……ホロさんお願いがあるんだ、これで魔法婆さんへの謝礼と、出来れば、残りのお金で荷馬車を借りてきてくれないか?」

「……荷馬車?」

 何に使うのか荷馬車?不思議に思い。ホロは直人に問いかける!?

 すると直人。ホロに何の為に荷馬車を使うのか、説明始める。

「……う、うぅう……お、俺を人魚の里まで連れて行ってもらえないかな……?」

 直人の言葉遣い。顔色もだんだんと青ざめて、悪くなって来ている。人魚の里あんな遠くまで体力が持つのか? 魔法婆さんは、直人は今晩が峠だと行っていた。


 ……大丈夫なのか? その言葉がホロの脳裏を走る!


「何でまた嫁さんの里に? 直人あの場所は、普通の者では、入れんぞ? お前入れるのかあの里に?」

 ホロが直人に、里へ入れるのか?と尋ねてきたので━━

「た、たぶん、大丈夫だと思う、ゴメン内緒にしてたけど、俺、まだ里に嫁さん二人と、子供が二人いるんだ、だから謝れば入れて貰えると思う?……だから、出来れば死ぬ前に、二人に謝罪したい……いい加減な奴だとは思うが、お願いできないかな……?」

 涙を流しながら、何とか力を入れて喋る直人━━その様子を見ていたホロ、かわいそうになり、直人に「解った直人、貸してくれそうな人、探してくるわ!」と告げて、慌てて部屋のドアを開けて、外へと出ていった。


 ━━その後ろ姿を見ながら直人! 何度も何度も「ありがとう、ありがとう」とお礼を言った。

 そして今度は、先程まで、直人とホロの会話に参加しなかった魔法婆さん。口を開き直人にイレーヌの事を尋ねてきた!?


「お前? 女房は人魚か?」

『コク!』と首を上下に振る直人。イレーヌの事を尋ねて来たので、黙り混む。

「女房の職は、どっちだ?」

 職……?その言葉を聞き理解に悩む直人!?

「……売り娘?」と言ってしまう。

「いや、そうじゃなくて……クラーケンか?それともセイレーンか?どっちだ?」

 耳にしたこともない言葉!? 直人は魔法婆さんに「クラーケンとセイレーン」とは、何かと尋ねた!?

 すると魔法婆さん。クラーケンとは武力が高い種でセイレーンとは魔法に優れた種だと教えてくれた。

 そして人魚とは、元々海賊を生業としていたアマゾネスの種族で、大変気性荒く。この辺りを昔は、荒らしまくっていたと教えてくれた。

 そして、言う事を聞かない人魚達に、手を焼いた時の王が、爵位を与え、領地安堵と海路の警護による、税を取っても良いと許可して大人しくなったのだと言っていた。

 特にクラーケンなら、たかが街のチンピラ風情なら、十や二十人ぐらいど〜にでもなるらしい。だから何故、女房に助けて貰わなかったのかと、聞かれるし。

 セイレーンなら、魔法婆さんが魔法治療するより、断然に回復するみたいで、目は見えないままだが、傷は治っていたと言われ、もう完全回復をしているとまで言われた。

 その話しを聞き直人。イレーヌの職がどちらかは、解らないが、彼女が完全に自分の事を、何者とも気にもしていないし、憎悪と毛嫌いの対象なのだと気がついた。


 そして、魔法婆さんの説明を聞き終えると、体を小さく丸めて、まだ何処かに残っていた彼女への想いが、もう思うだけ無理なのだと解ると、小さな声を出しながら、涙を流すのであった。



 ◇◇◇◇◇



『ガシャガシャ、ドンドン……ガラガラガラガラ……』

「ヒヒヒ〜ン!」

『パシンパシンパシン……』

「直人大丈夫かもう少しだ頑張れよー!」

「う、う、ううううううう……」

 ホロの直人を励ます声がする。

 荷馬車を借りて、魔法婆さんの家に戻ってみると、直人の容態が急変していたのだ。

 何でも魔法婆さんが言う事には、人魚の事を色々と説明してやったら。急に泣き出して、それから容態が宜しくないらしい。

 余程ショックを受けたのか!? 人魚の事など全然知らなかったみたいだし、基本人魚の女は、一度添い遂げると、夫が死ぬまでは、一途であるらしい!?


 だからか……?

 かなりショックを受けたて、生きる気力が無くなったのかも知れないのだ?


 だから馬にムチを打って━━気を入れる!

 風を切り、空を裂くムチと音━━

 風のに、もっともっと早く走ってくれと願うホロ……


 ━━━━━━


 だいぶん、日が欠けてきた。夕陽に向かい西へ西へと風のように走る!

 確か人魚の里は、西へ向かえばあると聞いた事がある。

 だからこちらで言い筈だが……!?


 所処で荷台を確認するのだが、もう直人は、息をしてないかもしれない!?

 先程までは「う、ううう……」と唸っていたのだが、唸り声をやんでしまった。

 止めて確認を取ってみるかも考えたが!? 取り敢えずは今は、時間が欲しい。

 それに止めて見て、もしも直人が息をしていないと、解れば自分の少しでも早く連れて帰ってやろうと、気も失せてしまうかも知れない。

 それどころか、この辺りで、良いかと思って、埋めてしまう可能性もある。

 だから確認を取らない様にしているホロなのだが。


 ━━未だか未だか!?と先程から想い考えている!

 ……焦るホロ、直人よ頑張れ頑張れよと━━ひたすら心の中で叫び続けていると━━

 海沿いの小さな小山に、砦のある集落が見えてきた!


「━━あれかー?」ホロは、思わず叫んだ!

「直人!直人!着いたぞー!」

 荷台に向けて叫びながら、砦へと走らせる!



 ━━門の前に着いたホロ!門に向けて大きな声で叫び出す!

「誰かー?誰か、いませんかー?」

 何度も何度も叫ぶと、門の上の櫓から人の姿が見え、確認できる。

 その人影に向かってホロ「すいません?すいません」とまたまた叫びだした!

「誰です貴方は? 何用ですか?」と女性の言葉が返ってくる。

 おおお、女性だここで間違いないとホロは思う。何故ならば人魚は、アマゾネスであり、女性ばかりだと聞いた事があるからだ。

 だからホロは、櫓の人影に向かって大きな声で━━

「すいません。お尋ねしたい事があります?直人という名の男を知りませんか?」

 人影に尋ねてみると━━

「え?」と声が返り「知っていますけど、何か?」と逆に尋ねられた!?

「……あの、ここに連れて帰ってくれと、直人に頼まれたのですが、もう虫の息で……荷台へは直人本人がいるのですけど……もしかすると、もう死んでいるかもなんですが……」

 ホロが櫓に向かってそう答えると━━

「ちょ、ちょい、お待ち下さい」

 慌てふためく声が……櫓の上でも大騒ぎが!?


「だ、誰かー? 長を呼んで来てー?」

「直人が帰ってきたみたい?」

「ユーリーとヴィルナも呼んで来てくれる?」

「え〜と、え〜と、えと、あ、それとセイレーンの者を……ってユーリーがそうだった」

 とにかく大騒ぎしている。櫓の上と門の裏。


 ━━『ギギギギィィィィィィィ……!』と音を立て門が開いた。

 櫓の上にいた女性なのか?

 声が同じなので、そうだとは思うが?ホロに「門の中にどうぞ」と案内してくれる。


 ━━馬にムチを入れて、ゆっくりと中へと移動するホロに、慌てて二人ほど女性が詰め寄る!


「キャー、直人!どうしたの?」

「え?ぇぇぇぇぇ……直人死んでいるの?」

 二人の女性は、かなり動揺している。直人の生死を正確に確認できない程だ。

 ホロは立ち上がると、荷台へ移動して、直人の口へと、耳を当てる!


「スウスウスウスウ……」

 微かだが、息をしている音が聞こえる。

 まだ息がある!でも予断は許されない!早く治療をしないと!

「まだ直人、微妙ですが息をしています!早く治療をしてやらないと!」

 ホロは、慌てて周りにまだ、直人が僅かだが、息があると告げると━━

「ユーリー、直人に回復魔法を!」

 そう女性が告げると、慌てて一人程、女性が荷台上がり、魔法を掛け始めた!

 不安な顔で念を唱える女性、今にも泣き出しそうだ。

 すると荷台に又一人女性が上がってきて、直人の手を両手で握り始める。

 二人揃って不安な顔、そう言えば人魚の里に戻れば、奥さんが他に二名程居ると、直人が言っていた事をホロは、思い出す。

 彼女達か、直人奥さんは……

 ホロは、ホッとして胸を撫で下ろす、何とか間に合ったかも!?

 ホロもその場て、へたへたと座り込んでしまう。


「あの〜?」と、声をかけられたホロ。声の主を見てビックリしてしまう!?

 そこにはなんと、直人の嫁である、イレーヌに良く似た女性が、立っているではないか!


 ………………!

 ビックリしているホロに、その女性は━━

「あ、あの……直人と一緒に女性はいませんでしたか?」

 と、尋ねてきたのだ。


 どうしょう……!?

 言って良いものかどうだか、悩んでしまう!?

「あの……娘なんですけど……直人は、女性といませんでしたか?」

 ……どうしょう?どうしょう?言って良いのか?


 ……でも言わない訳には行かないか……!?


「あの……娘さんは……子供を連れて、他の男の所に……直人は、娘さんが連れてきた男達に……暴力を加えられて、こんな状態に……」

 その話しを聞いて、周りにいた者達が、一斉に黙り込み、直人の女房である、イレーヌの母親も、両手で口を抑え、黙り込んでしまった。


 静まり返るこの空間、夜鳥の声だけ響く。

 そんな中、この静けさを破壊する。憤怒した声が聞こえてきた!

「ちょっと、直人を連れて来てくれた人。イレーヌが連れて来た男達が直人をこんなにしたの?……イレーヌは知らん顔してそれを見てたの?」

 直人の手を握り、体を擦っていた女性が、ホロの話しを聞いて、急に怒りだし、質問をしてきた!


 直人の女房であるイレーヌも、容姿も良く、綺麗で有名ではあったが、今魔法治療をしている女性、そしてホロに詰め寄っている女性も、負けず劣らず美しいと思ってしまった。

 だが、今憤怒している女性は、美しいは、美しいが、かなり気が強そうだと、ホロは思ってしまった。

 そして、その勢いに圧倒されてホロは、しどろもどろとなってしまつた。


「……あ、あの、じ、じ自分も外が騒がしいから、出てみたら、直人が複数の男達に、蹴っり回されている様子を見ただけだから……あまりよくは……ただ最後にその男達と一緒に人混みの中に逃げていったから……たぶん……?」

 ホロは憤怒している女性に、自分が見た様子だけを説明すると━━

「ぶっ殺してやる、イレーヌと男達。いいでしょ長!あいつは、人魚の恥さらしだ!男達ともども、殺してやる!」

 彼女は立ち上がると、感情をあらわにした!

 そして荷台から飛び降りようとしたその時。


「う、ううう、ヴィルナ、違うんだ、イレーヌが悪い訳じゃないんだ、俺が悪いんだ、ううう、だからお願いだから、シュトリーさんを困らせないでくれ……本当にお願いだから……」

「あ!な、な直人……意識戻ったの……」

「ふぇええええええん、貴方!」

 立っていたヴィルナという名の女性、またまた座り込んで手を握り始める。

 そして魔法掛けてた女性は、泣き始めた。

 その様子を見てたホロは、意識が戻った直人を見てホッとした。

 そして当の直人は、イレーヌの母親に謝罪を始めだした。


「俺がだらしないばかりに、イレーヌと娘は他の男に取られてしまいました。長、誠にすいませんでした、許して下さい。……本当にごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 泣きながら謝罪する直人の声━━それだけが辺りに響き渡るのであった。

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