出会い
聞こえたよ。
私は長い声で返事をした。
そして手に持っていた道具を丁寧に並べ直すと、急いで鐘の鳴る方角へと駆け出したのだ。
人は森を西から東へ、東から西へと抜ける。
祖母の話によると西と東にはそれぞれ人間の国があり、私の住む深い森は二つの国を分かつようにして大きく広がっているのだそうだ。
もちろん、森だけが二つの国を繋いでいる訳ではない。深い森を北へ抜ければ見晴らしのいい草原が広がっている。そこを通れば森を抜けるよりも簡単に二つの国を行き来する事が出来るだろう。
鐘の根本にたどり着いた私は、少し離れた場所にいる依頼人を見つける。少し空気を嗅ぐと、それが人間である事が分かる。
だが、今日の依頼人はこれまでの依頼人と比べるとどこか妙だ。馬が無ければ馬車もなく、私に捧げる食料すら持っていない。それどころか依頼人は私を見るなりいきなり長い牙を剥いて威嚇してきたのだ。
私は依頼人に近づいた。すると依頼人は下がり、一定の距離を保とうとする。また近づく。また距離をとる。
近づく。距離をとる。
そうこうしているうちに、私は鐘の近くの木に打ち付けられている板の元までたどり着く。この板は私の為に人間たちが設置してくれたものだ。
板を見た人間は、この鐘が私を呼ぶためにあるものだと理解することが出来る。方法は分からないが、これは正真正銘本当の事だ。
板に刻まれている模様は前に人間から貰ったいくつかの道具の模様とよく似ていたので、それと何か関係があるのかもしれない。
人間は板の傍に立つ私を見た。それから板に目を移し、もう一度私を見た。
「もりのさきびと。」
私は精一杯の気持ちを込めて言った。
この人間を森の反対側へ送り届ける為に。