目覚め
木漏れ日が私の鼻を射す。暖かな光と昨夜降り続いた雨粒の湿り気が私の感覚を刺激する。
今日はいい天気だ。
私は伸びをして起き上がった。
こんな日には、私は決まって森の見回りをする。好きではないが、先祖代々受け継がれた森だから勝手に怠る訳にもいかない。
歩き慣れた道を進むと開けた場所に出る。ここも見慣れた場所だ。苔むした地面の水たまりには私の姿が映っている。
実を言うと、私は人ではない。
姿を見れば誰もが気付くだろう。人はこんなに毛深くはないし、飛び出た耳も長い尾も生えていない。故に私は獣人と呼ばれる存在だ。
私を『アラモーン』と呼ぶ者もいる。これは遠い昔に祖先が人間から頂いた名前らしい。今、人間との関わりを持つアラモーンは私一人なのでこれは実質私だけの名前だ。
見回りを終え、住処へ帰るといつも決まってする事がある。それは住処に並べてある大量の持ち物の整理だ。ここには私でも使える物や、使えない物。使い方の分からない物やら何やらが山積みになっている。
どれも人の道具だが、決して奪った物ではない。全て人間からの好意で送られた代物だ。
人間は非常に優れた存在だが、森に関してはあまりにも無知すぎる。彼らは森の声が聞けず、多くの者が誰の案内もなく奥深くへと迷い込み、最後には森の一部と成り果ててしまう。
そんな彼らを哀れみ、森の案内を始めたのが私の祖先だった。
私は自分の祖先がどんな匂いをしていたのかは知らない。ただ、物心ついた時から両親が森の案内をしていたので、自分もいつかああするんだなとは思っていた。
カーンカーンと鐘の音が森中に響く。
数日ぶりの仕事だ。