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鐘を打つ仕事

作者: 奈多来 日和

「……あ」


 二十四時の鐘が鳴った。夜中に鳴るには陽気な音楽が流れだす。それもそのはず、この時計は六時から二十二時の〇分ピッタリに鳴りだすようになっている。

 しかし……この時計は少しおかしいのか、よく鳴らないはずの鐘が鳴る。

 じっとしていると曲が終わって、きんこーんと何回か小人の人形が鐘を打つ。ここも、本来なら時刻に合わせた回数なるのだが―――。


「……一五回鳴ってるし」


 人形たちは頑張りすぎたのか、なんと一五回も鐘を打っていた。最大十二回しか鳴らないのに。軽くホラーだ。


「お母さーん。また時計が変になってるー」


 と、母に一応言ってみると、もうしょうがないからほっときなさーい、と返ってきた。そういえばこの前、朝の四時に六回鐘が鳴って慌てて跳ね起きたって話、母から聞いたんだっけ、と思い出し。ああ、物心ついたころにはすでにあったこの時計も、もう寿命なんだなあと思ったりする。

 私は時計とテーブルを挟んで座っていた。なんとなく、時計の針を見つめていたら、次第に船をこぎ、ついにはテーブルに突っ伏して、起きていられなくなった。



 カチッと音が鳴って目が覚めた。時計を見ると針が一時を指していた。今度は鐘が鳴らない。気まぐれな時計だな、と思って下を見たら、目の前に時計の小人がいた。あの、いつも時計にいて、鐘を鳴らす人である。


「やあ」


 と、彼は言った。私はぼぉっとして、


「私はまだ、夢を見ているのかな?」


 と聞くと、彼は、


「君が思うのなら、きっとそうなんだろう」


 と言った。変わった奴である。

 だけど、私は彼を疑わなかった。聞きたいことがあったからだ。


「ねえ」


「何故、最近の貴方はでたらめに鐘を鳴らすの?」


 小人は、私をまっすぐ見つめて答えた。


「この仕事を初めてかれこれ二十年。人間にとっちゃまだまだいける年齢かもしれないが、機械のわたしらにとっちゃあ、もう老いぼれもいいとこさ。時間が来ても動けない時が多いから、動けるときに出来るだけたくさん鳴らすのさ」


「でも、それじゃ困る」


 私が言った。


「みんな貴方の鐘を頼りにしてるから」



「困ると言われても」


 彼は言った。


「私にはもうそれしか出来ないのだよ」


 だから、勘弁しておくれよ。と私よりもずっと困った様子の彼に言われてしまった。



「……もうすぐ二時だね」


 そろそろ寝なくては、と私はテーブルから立ち上がり。


 さあ仕事の準備だ、と彼は私に背を向ける。


 ふと、声をかける。


「あのさあ」


「なんだい?」


 そいつが振り向く。



「さっき、十五回鳴らしたのは面白かった」





「そうかい」


 そいつはニッと笑うと時計に戻っていった。



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