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第1話 "森の玄関"アトラスの村 その3

「な、何ですか?」


 家の中を見回す。しかし、何か異常が発生したようには見えない。


 追い打ちをかけるかのように再び轟音が響く。今度ははっきりと家の外で爆発があったものだと理解できた。


「これは……魔王軍じゃ!」


 ウォルターは叫んだ。それを聞くや否や、ミリィは急に立ち上がった。


「ミリィさん!」

「私がどうにかするわ! アスマとユウカは、おじいさんと安全なところへ!」


 ミリィはドアを開けて、外へと飛び出した。


「安全なところって言ったって……」


 優香はそう呟く。


 明日馬も頭を抱えた。

 魔王軍。その名前からして、やはり凶悪なモンスターを思い浮かべる。魔法なんかも使うのだろうか。

 村を見た限り、魔法めいたものは何もなかったが、やはり魔王軍と言うくらいだ。魔法の一つや二つ使えてもおかしくない。

 そもそも、アトラスの村を今日一日見て回ったが、何か特別なものがあったとは思えない。こんな村になぜ魔王軍なんて仰々しい名前の軍隊が攻めてくるんだろうか。


 色々疑問はあるが、四の五の言っている暇はない。


「とりあえず、おじいさんを連れて外へ逃げるっすよ」


「けど、ミリィが……」


 優香は出て行った方角を見やる。だが、明日馬として一宿一飯の恩があるこの老人に対し、指を咥えて見殺しにするつもりはない 。


「ミリィのことは心配っすけど、家の中に居ては捕まりかねないっす」


 明日馬だってミリィが心配だ。魔王軍みたいな得体の知れない団体をミリィ一人でどうこうできるとは思わない。けれど、ミリィには何か手が有るかのように見えた。それを今は信じるしかない。それよりも、この老人の命を助ける方が先だ。


「わかった。行くよ、おじいちゃん!」


 優香は明日馬の言葉を承諾し、ウォルターの手を引いた。そのまま二人は老人を連れて、外へと飛び出す。


 ――その時、明日馬と優香の目に、謎の物体が飛び込んだ。


「えっ……」

「……何っすか、あれ」


 二人は言葉を失う。


 二人の目の前には――巨大な人型の機械が二体、対峙していた。


 この村の建物と同じくらいのサイズ。まず、機械には頭部や顔があった。

 胴体こそ短いものの、その胴体に二本の腕と二本の足。

 肩もある。

 少し人体とは遠いが、少なくともその特徴を捉えた姿をしていた。

 例えるなら、御伽噺に出てくる小人が、西洋甲冑を纏ったような姿。もっと具体的に言えば言えば、ハンプティ・ダンプティに、鎧をかぶせたような姿。


 しかも二体は、それぞれ微妙にデザインが異なっていた。

 一方は手に何も持っていないものの、その全身が金色の輝きを放っている。

 しかしもう一方の緑色の機械は剣を持っており、その体は木の枝や蔦で覆われている。


 やがて、緑色の機械が金色の機械めがけて剣を振り下ろす。

 しかし、金色の機械は左腕でそれを受け止めたかと思うと、そのまま右腕で相手の腹部を殴打した。

 吹き飛ぶ緑色の機械だが、すぐさま立ち上がったかと思うと、逃げるようにして森の方向に立ち去っていった。


『二人とも!』


 そんな二人が呆気に取られていた時、機械から先程まで話していた人物の声が聞こえた。


「その声……ミリィっすか?」

 先程まで二人と話していたミリィの声であった。金色の機械には、ミリィが搭乗していたのだ。


『村の南に走行車両があるわ! そこに走りなさい!』


「あっ、ちょっと」


 そう言って、ミリィが乗っている機械は、逃げた相手を追う。


「お兄ぃ、どうしよう」

「……今は向かうしかないでしょう。ミリィを信じましょう」

 ミリィの向かった方向とは逆に、明日馬と優香、ウォルターは走って行った。




***




 村の南。そこには、小さな湖があるだけであり、後は砂漠が広がっていた。


「これっすね……」


 装甲車両と呼ばれた車両は、サイズこそ巨大なものであったものの、小さな運転席と大きな荷台が分離されており、トラックに近い形状をしていた。

 銀色の荷台部分は少し傷がついている。


「異世界、って言ったら魔法とか剣とかそんなイメージあったけど、車みたいなものもあるんだね」

 少し笑みを浮かべて優香は告げる。


「とにかく乗りましょう」

 そう言って、明日馬は運転席に乗る。優香とウォルターもそれに続く。

 運転席には、前後で4人分座れるスペースがあった。真ん中には荷台へと続く通路がある。


「これ、シェルターみたいな感じなのかな」

「そのようじゃな。もっとも、こんな大きな車両、なかなか見ないんじゃがな」


 ウォルターは少し驚きつつ答える。


「おじいさん。ミリィが乗っていたあの機械は何っすか? ここにはあんな機械がいっぱいあるんですか?」


 明日馬は不思議そうに尋ねた。


「お前さん、機兵を知らんのかね?」


 すると、ウォルターは驚きの目で質問を返す。


「キヘイ? なにそれ」


 優香も怪訝そうに声を上げた。


「嬢ちゃんも知らないのかね。機兵、ルートブレイカーじゃよ」


 さも知ってることが当然であるかのような言い方。しかし、異世界の事情など知らない明日馬は、さらに尋ねる。


「その、ルートブレイカーって言うのが、あの機械の名前なんすか?」


「いかにも。あれが戦闘型機兵、ルートブレイカーじゃ。魔王軍との戦争で用いられておる兵器じゃな」


「ルートブレイカー……」


「知らんのかね?」


「……」


「ふむ……」


 何か納得気な表情を浮かべるウォルターに対して、明日馬と優香は、聞きなれない単語に戸惑った様子を見せた。


 明日馬の居た時代の日本には、二足歩行型のロボットが存在していた。

 しかしそれは明日馬達と同じ程度の大きさであり、まして戦争で使われるイメージは明日馬達には無かった。

 明日馬たちの時代においても、一般に戦争兵器と言えば、戦車と戦闘機、それに戦艦であり、そもそも戦場に存在するかどうかと言う前に、家の大きさほどの巨大なロボットが存在すること自体があり得なかった。


「各国はルートブレイカーを開発するために、昼夜惜しまない努力をしておる。何なら、今はこんな辺鄙な村で暮らしておるが、昔はワシも……」


 ウォルターが武勇伝を語ろうとしたその時だった。



 車両に振動が走った。



「きゃっ」

「な、何じゃ?」

 三人揃って外を見る。


 すると、緑色の機体が、車両を攻撃していた。


『これが、例の……』


 機体には、誰かが載っているのだろうか。そんな声が聞こえる。

 そしてその機体は手に持った剣で、再度攻撃を加える。


 2度目の振動。車両の荷台を覆う銀盤自体に傷は付いたものの、車両が大破することは無かった。

 しかし、攻撃の威力を身を以て感じた三人は、車両が大破するのも時間の問題である、と感じていた。


「や、やばいっす。逃げないと」

 明日馬は車両を動かそうとする。しかし、鍵すら持っていないのだ。車両が動くはずもなかった。


「ど、どうしようお兄っ!」

「何か、何か手は……」


 焦って色んなキーを操作する明日馬。そんな中、


「お前さん達! 荷台を見るんじゃ!」


 ウォルターは荷台へと繋がる扉を開けて叫んだ。



 二人が荷台を見ると、そこには……。




二つのルートブレイカーが佇んでいた。





***




「これは……ルートブレイカー……? うわっ」


 呆気に取られていた二人を、さらに振動が襲う。



 窓から外の様子を伺うと、緑色の機体が、絶えず車両に攻撃を加えていた。


 先程ミリィの機体と戦っていたものと同じかは分からない。

 ただ一つ、自分達が攻撃されて居ることだけは確かだ。


「何で、私たちを……」


 優香は呟くが、そんな疑問を考える時間はない。大事なのは、ここからどう助かるか、だ。


「お前さん達!」


 ウォルターが叫ぶ。


「あれに乗るんじゃ!」


「「えぇっ!?」」

 兄妹二人揃って反応した。


「そんな、乗り方もわからないんすよ?」

「そうよ、無茶よ、おじいちゃん……ってきゃぁっ!」


 大きな振動が車両に伝わる。


「操縦なら簡単じゃ、すぐに分かる! それより、機体に乗らんとワシら揃ってお陀仏じゃ! もう選択肢はないんじゃぞ! 若いお前さん達なら乗れる、頼む!」


 ウォルターは叫びながら乗るよう指示する。


「……どうしよう、お兄」

 優香は不安な表情で肉親を見つめる。


 外では、攻撃が断続的に加えられている。この車両は数回の打撃では破壊できない程度の装甲ではあるようだが、いつまで持つか分からない。それに、車が動かせない以上、ここから逃げることも不可能だ。


「……どうしようって言ったって、戦うしか無いじゃないっすか」


  明日馬も優香と同じく、不安そうな表情で、ルートブレイカーを見つめる。

 あれやこれやと言ってるうちに、この車両が壊されるかもしれない。そしたら、明日馬だけじゃなく、優香もウォルターもタダでは済まされない。

 それなら……。


「ちょっと、お兄!?」


 歩みを進める兄に、妹が叫ぶ。


「優香はここにいるっす! 俺は、このルートブレイカーでどうにかするっす」

「そんな、動かし方もわかんないのに!」


 妹の静止も聞かず、明日馬はルートブレイカーの一体の前に立った。


「おじいさん、どうやって乗るんですか!?」


「ルートブレイカーの後ろに行くんじゃ! 最初は左足が、搭乗口になっておる!」


 そう言われ見ると、左足に扉の様なものがあった。




 ――言われるがまま、明日馬は中に入った。

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