プロローグ
「あぁっ、取ってー!」
ここから、少し遠い未来。
和歌山県の潮岬。
夏の太陽が照り付ける海岸沿いの岩場。
そこで、何人かの少年少女達がボールを使って遊んでいる。
「あまり、遠くに行かないようにね」
20代であろうか、若い女性が声を掛けると、
「わかってるよ、ユカねぇちゃん!」
集団の中の一人が返事をする。
「もう、みんな、ボールで遊ぶ年でもないのに」
ユカねぇちゃん、と声をかけられた女性は、楽しそうに遊ぶ7人の少年少女を見つめていた。
「すっかり、平和になったなぁ……」
そう独りごちながら見せた笑みは、少し憂いを帯びたものであった。
彼らは、東京にある白クローバー孤児院に暮らす子供たちだ。その多くは、7年前に勃発した世界大戦の戦災孤児である。
ユカと呼ばれた女性ーー三上有香もその孤児院出身の戦災孤児である。ユカは、大学を出て、博士課程まで進んだ後に、白クローバー孤児院にて先生をしていた。
そんな彼らは夏休みの余暇を利用して、和歌山県へ遊びに来ていたのである。
「ユカ姉!」
ふと、集団の中の男の子が、ユカを呼ぶ。
「そんなとこで一人で居ないで、ユカ姉も遊ぶっすよ!」
そう言いながら、その男の子は、ユカを手招きする。
「わかったわかった。今行くから、待っててね」
ユカも返事をしながら、声をかけた少年の下へ向かう。
そして、ボールで遊ぶ子供たちの下へユカが辿り着いた、その時だった。
突如、地面から地鳴りが響き渡る。
「え、なに?」
ユカは一瞬戸惑い、すぐにこの地鳴りが地震によるものだと気付く。
「みんな、私の下に来て!」
そう叫んだ次の瞬間。
ユカ達の居た地面が、鋏で切られた折り紙の様に裂けた。
「……え」
ユカが気付いた時。
ユカを含めた少年達8人は、叫び声を上げて、奈落の底へと落ちて行こうとしていた。