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わがまま王女の騎士道物語  作者: もっこす
騎士になりたい王女
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アルベティーナと不思議な旅人.2


「何よ……髪を切ったからってあんなに怒る必要ないじゃない。」

アルベティーナは一人ブツブツと呟きながら大きな廊下を歩いていた。


「これは私の人生なのよ? お父様にとやかく言われる筋合いはないわ。」

先ほどとは打って変わり、今度はアルベティーナが顔を真っ赤にさせていた。


大股で威圧的に歩くその様は姫とは、ましてや騎士とも言えない。

まるで機嫌の悪いガキ大将の様であった。



「今日の姫様はずいぶん荒れているようね」

「ほら、あの美しい髪を切ってしまったから。エリオ大臣とディオレ王から普段より厳しく説教されたんじゃない?」

廊下のわきに立つ2人の侍女がヒソヒソと小声で会話をする。


「……」

アルベティーナは侍女の方を向かず、黙ったままズカズカと歩き続けた。


「女の命ともいえる髪を切ってしまうなんて、本当に姫様は騎士になるおつもりなのかしら」

「ホント・・・。昔はとても可愛らしい女の子でしたのに、最近は町の男の子も顔負けのわがままになってしまわれて・・・」

「エリオ大臣やディオレ王、そしてマリア王妃が可愛そうだわ。手塩にかけて育てた娘があんな風になってしまわれて」

「やっぱり『アーサー騎士』の事で頭が一杯なのかしら・・・。確かにあのお姿はたくましく、そして美しかったわ。でも憧れるなんて変よ。女の子なら普通恋に落ちるはずじゃない」


侍女たちはヒソヒソと話したままアルベティーナにチラリと視線を向けた。

そこには立ち止まり、鋭い視線を侍女たちに向けるアルベティーナの姿があった。


「何チラチラこっちを見ているのよ!? さっさと自分の仕事に戻りなさい!」

まるで猛獣のような目つきをしながらアルベティーナは大声で怒鳴った。


「「はっ、はいぃぃ!」」

2人の侍女は情けない声をあげながら勢いよく廊下をかけていった。


「フンッ!」

アルベティーナは鼻を鳴らし、歩き始める。


すると再び後ろからヒソヒソという話し声がアルベティーナの耳に入ってきた。


「チッ……」


アルベティーナは小さく舌打ちをし、城の庭へと通じる扉を開けた。





 城の庭は多くの植物で彩られており、太陽に照らされて光輝いている。

アルベティーナは花で反射される光を鬱陶しく思いながら膨大な庭を見渡した。


赤い花、黄色い花、青い花――


様々な色の花や綺麗にかたどられた草木で庭が埋まっており、周りを見渡しても植物しか視界に映らない。



しばらく周りを見渡しながら歩いていると、庭の植物の手入れをしている少女の姿が目に入った。


みすぼらしい緑色の服に茶色のボサボサの髪。


アルベティーナは少女を見つけると満面の笑みを浮かべ、手を振りながら少女に駆け寄った。


「モナ!」


アルベティーナは少女の名前を呼んだ。


『モナ』と呼ばれる少女はアルベティーナの声を聞くと同時に勢いよく振り返った。


「アルナ姫様!」


モナも負けじと満面の笑みを浮かべながら手を振り、アルベティーナを迎え入れる。


「アルナ姫様! 髪をお切りになられたのですね。とてもお似合いですよ」

邪気のない笑顔がアルベティーナに向けられる。


しかしアルベティーナは急にムッとした表情を浮かべ、頬を膨らませた。

そして笑みを浮かべているモナに向かって思い切りデコピンをした。


「あ痛っ!」

モナは突然の痛みに驚き、額を手で抑える。


アルベティーナは涙目になっているモナの両頬を両手で軽くつまんだ。

ビヨンビヨンとモナの頬が縦や横に伸びる。


「もうっ! 私の事は『アルナ』って呼びなさいと何度も言っているじゃない!」

「ふぉめんなふぁい~! いふぁいれふ~! ゆるひへふらふぁい~」

頬を掴まれたモナから間抜けな声があがる。


それを聞いたアルベティーナは再び笑顔を浮かべ、モナの両頬から手を放した


「反省すればよろしい。私たちは友達なのよ? 姫と庭師という関係ではないわ」

上機嫌になったアルベティーナは頬を擦っているモナの鼻を軽くつついた。


「えへへ。申し訳ありませんアルナ」


「またそうやって敬語で話す・・・。まぁでも髪の事を褒めてくれたし、今回は許してあげるわ」

アルベティーナは髪を指でいじりながら気恥ずかしそうにそう言った。



『モナ』はディオレ城の庭の手入れをする庭師である。

ウェーブのかかった茶色の少し短い髪とそばかすが特徴的な彼女は、小さい頃から彼女の親と共に庭師の仕事をしていた。

そのため小さい頃からアルベティーナと顔を合わせる機会があったモナはよくアルベティーナの遊び相手になっていた。

周りに同年代の女の子がいないアルベティーナにとってモナは大切な存在であった。

小さい頃から共に過ごしてきた2人の関係は親友と言っても過言ではなかった。


そんなモナとアルベティーナには秘密の遊びがあった。



「モナ。アレはちゃんとあるかしら?」

アルベティーナは不敵な笑みを浮かべながらモナに問いかけた。


「えへへ。ちゃんとありますよ!」

対するモナは無邪気な笑みを浮かべながら近くの茂みに手を入れ、ごそごそと何かを探った。


「はい騎士様! どうぞお受け取りください」

相変わらず無邪気な笑顔を浮かべながらアルベティーナに草むらから取り出したものを手渡す。


それは剣と盾であった。

剣と盾といっても本格的なものではなく、木で作られたオモチャのようなモノである。


「うむ! ご苦労であった!」

騎士を意識してか、アルベティーナはまるで中年の男性のようなしゃべり方をしながら剣と盾を受け取った。


「ぷっ……あははは! 面白い話し方ですね」

そんなアルベティーナのしゃべり方が気に入ったのか、モナは大きな声で笑い出した。


「ちょっとモナ! せっかく雰囲気を出したんだからもっとしっかりしなさいよ!」

アルベティーナは先程とは違う意味で顔をみるみる赤くさせた。


しばらくしてからモナの笑いが落ち着いたのを確認したアルベティーナは一つ咳払いをし、モナの瞳を見つめた。



「安心しなさい! この騎士であるアルベティーナがモナを……あなたを守るわ!」


高らかに声をあげながらアルベティーナは剣を掲げる。


「私は騎士なのよ! 醜い魔物になんて負けないわ!」


アルベティーナはそう言って身を翻し、虚空に向かって木の剣を振り回した。


「えい! やあ!」


2人の秘密の遊び。

木の剣と盾を持ったアルベティーナが騎士で、モナが魔物に襲われる少女の役。



アルベティーナは笑顔を浮かべながら懸命に剣を振る。


モナはアルベティーナに拍手を送る。



そんな微笑ましい光景を城の一室から優しい笑顔を浮かべた女性が見つめていた。







――ディオレ王国関所前。


 ローブを身に纏った男がディオレ王国の門の前に立っていた。


「ここかな」


男はポツリと呟き、金色の髪を輝かせながら翡翠の瞳で門を見つめた。


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