一人ぼっちのお姫様
「はぁ……はぁ……」
一人になったアルナは息を大きく乱しながら草や枝をかき分けて進んだ。
焦っているためか、あちこちを枝に引っ掛け、あちこちに怪我をしている。
馴れない地形。
襲ってくるかもしれない魔物。
そして一人という状況。
アルナの心が様々な不安によって締め上げられ、何度も吐き気に襲われる。
「くっ……うぅ……」
全身に緊張が最高潮になり、アルナは涙を流しながら今にも叫びだしそうなった。
そして、一際大きな枝をかき分けると、明るい太陽の光がアルナの視界に入ってきた。
*
アルナは森の開けた場所に出ていた。
あたり一面に草原が広がっており、遮るもののない太陽の光がさんさんと降り注いでいる。
そして草原の中心に今までに見たことが無いような大きな大木が堂々とそびえ立っていた。
「きれい……」
さっきまであった不安を忘れ、その美しい光景にアルナは思わず目を奪われていた。
ザァー……
風に吹かれて草木の大合唱が鳴り響く。
そして何羽かの鳥達が大木から飛び立った。
「あっ!」
鳥の姿を見て目的を思い出し、アルナは大木に向かって駆け出した。
「えぇと、確かトルルは赤い色の鳥だったわよね」
そう言いながら鳥かごに入っている写真を取り出す。
写真には尾と羽の先、それと胸元が白く、他の部分は赤色の鳥が写っていた。
「なんかまるでフェイ見たいな鳥ね」
アルナは写真を見つめながらフッと笑った。
そして大木の周りを飛び回る鳥達を見つめた。
様々な種類の鳥たちが飛んでいる。
トサカが長い鳥。
小さな青い鳥。
大きく、力強い羽ばたきをしている鳥。
その中に1羽だけ、赤い羽根を広げて飛んでいる鳥がいた。
それはトルルであった。
「見つけた!」
アルナは目を輝かせ、トルルの飛んでいる方向に向かって走った。
トルルはパタパタと木の周りを飛んでいる。
走っていたアルナは大木の幹にまで来ていた。
「どうしよう……」
見上げながらポツリとつぶやく。
トルルは、はるか上空を飛んでいた。
とてもじゃないがアルナが跳ねて届く距離ではない。
アルナはチラリと手に持っている鳥かごに目を向けた。
「とりあえず、この鳥かごを見れば戻ってくるかしら?」
そう呟き、空を飛ぶトルルに視線を向け、鳥かごを持つ手を振った。
「トルルー! こっちに来なさーい!」
アルナは大きな声でトルルの事を呼んだ。
しかしトルルを含めた鳥たちはアルナの声に驚き、バタバタと慌てるように飛び始めた。
「なっ!? 何逃げてるのよ! これはあなたの鳥かごよ! こっちに来なさいよ!」
逆効果である大きな声で叫びながら、アルナはブンブンと鳥かごを振り続けた。
「むぅ……私がいるとダメなのかしら……」
アルナは頬をふくらましながら鳥かごの事を睨みつけた。
トルルが来ない原因に気が付いたアルナは鳥かごを地面に置いた。
そして鳥かごの扉に紐を括り付け、大木の陰に隠れた。
「これならきっとトルルも来るはずね」
ニシシと笑いながら、アルナは鳥かごの事を見守った。
しばらくして鳥たちは落ち着きを取り戻し、再び優雅に飛び始める。
アルナはジーッと鳥かごの事を見つめ続けた。
すると、一羽の赤い鳥が鳥かごの近くに舞い降りてきた。
(キタッ!)
アルナはニッと笑い、扉と繋がった紐を握った手に力を入れる。
トルルは不思議そうに鳥かごを見つめた。
そしてサッと鳥かごの中に入った。
「今っ!」
アルナは思わず立ち上がりながら紐を引っ張った。
カシャンと音をたてながら鳥かごの扉が閉まる。
「やった! やったわ! 捕まえたわ!」
アルナは喜びの声をあげ、トルルの入った鳥かごに向かってスキップで近づいていった。
そして鳥かごの中を覗き込んだ。
トルルは不思議そうな瞳でアルナの事を見つめていた。
「良かった……」
アルナは大きく息を吐き、そのまま仰向けに倒れた。
魔物の襲撃による疲れが今頃になって来たのか、アルナの全身を疲労が襲っていた。
「あぁ~無理。 ちょっと休んでからぁ……」
チチチ……
ポカポカの陽射しと鳥たちの歌声がこの幻想的な空間に広がっていく。
そんな心地よい空気を感じながら、アルナはゆっくりと目を閉じた。
――しかし突如、鳥たちが騒ぎ始めた。
「な、なに!?」
騒ぎ始めた鳥たちの声に驚いたアルナは目を開き、身を起こした。
ゾワゾワと背筋に嫌な感じが走る。
アルナは大きな木の根に急いで身をひそめ、嫌な雰囲気がする方向に視線を向けた。
バキバキという音をたてながら、木が揺れている。
そして予想通り、魔物がゆっくりと姿を現した。
(や、やっぱり! 魔物!?)
魔物は手に持っている棍棒を振り回しながら木を掻き分けている。
森を抜けて現れた魔物の顔を見ると、目が片方にしかついていない。
(あいつ……たしかフェイが石をぶつけた相手ね……)
アルナは震える目で魔物の事を見つめた。
魔物は片方しかない目で辺りをキョロキョロと見渡している。
(もしかしなくても、私を探している!?)
身体に悪寒が走ったアルナは静かに、それでいて素早く入り組んだ大木の根の奥に身をひそめた。
そして体を震わせながら、わずかな根の隙間から魔物のことを見つめる。
(お願い……こっちに来ないで……)
アルナは手に握っている木の根を力強く握った。
辺りを見回していた魔物は大木に向かってゆっくりと歩き始めた。
一点を睨みながら、ズシリ、ズシリと一歩ずつ大木に近づいてくる。
(もしかして見つかった!?)
アルナの心臓がドキリと大きく弾む。
しかし魔物の目線はアルナの方向とは少しずれていた。
(私を見ていない? じゃあ何を見……て……)
魔物の目線を追いかけたアルナの思考が止まる。
――魔物が見ているのは、トルルの入った鳥かごであった。




