深い森の戦い
戦場から無事離脱することが出来たフェイとアルナは道を外れた森を歩いていた。
「さて、あたし達の仕事を始めるとするかな」
フェイは辺りをキョロキョロと見回し、危険がないかを探した。
「周りに魔物の姿はなし……っと。それじゃ、アルナを先頭にトルルを探しに行きますか」
「えっ? 私が先頭なの!?」
予想外のフェイの言葉にアルナは驚きの声をあげる。
「あたし達の教育はスパルタだよ? 実戦あるのみ」
フェイはニタニタと憎たらしい笑みを浮かべた。
「まぁ、全部アルナに任せるってわけじゃないから安心しな。あたしに何でも命令していいからさ」
フェイはアルナの頭をポンポン叩きながら微笑んだ。
ひとまずどこから手をつければいいのか、アルナは腕を組みながら考えた。
「うーん……」
唸りながら今までの情報を頭の中でまとめる。
目標の鳥の名前はトルル
エレナの家族
赤色の鳥
しかし探す場所のヒントになりそうな情報はなかった。
「うーん……ダメね、全然わからないわ。フェイは何か情報を得てないのかしら?」
考えても無駄だと思ったアルナは下げていた顔をあげ、フェイに向けた。
「情報ならあるぞ。トルルの写真と逃した場所のヒントになる紙が鳥かごの中に入ってた」
そう言いながらフェイは鳥かごから写真と紙をとりだした。
「そういうことは早く言いなさい!」
アルナはギロリとフェイを睨み、大声で怒鳴った。
「あっはっは! 悪い見本を見せようとおもってな。得た情報はすぐに仲間に知らせる。これは大事なことだぞ」
フェイは大きな声で笑い、そしてニコリと微笑んだ。
しかし笑っているフェイとは対照的にアルナはジトーっとフェイの事を睨みつづける。
「あなた……説明するの下手ね……」
「ありゃ?」
予想外のアルナの対応にフェイは間抜けな声を漏らした。
「……それで、紙にはなんて書いてあるのかしら?」
アルナはひとつため息をつき、紙に書かれた内容を尋ねた。
「ちょっと待ってな」
フェイが取り出した紙を広げて読み始める。
「えーと……『トルルは森の中で一番高い木の下で逃しました」だってさ」
「一番高い木ね」
アルナはキョロキョロとまわりを見渡した。
しかし見渡す限り木が広がっており、どれが高い木なのか判断がつかない。
「だぁーっ! どれが一番高い木なのかわからないじゃない! どうせなら地図を渡しなさいよ! 地図を!」
曖昧な情報しかない内容に対しアルナは怒りをぶつけた。
「まぁ一番高い木を探すのはアルナじゃちょっと難しいかもな。ここはあたしに任せな」
そう言うとフェイは近くにあった木をヒョイヒョイと軽やかに登っていった。
「まるで猿ね」
止まることなく木を登っていくフェイを見ながらアルナはポツリとつぶやいた。
しばらくして、木を登っていたフェイが降りてきた。
「見つけたぞ。パッと周りを見渡したら、あっちに森が開けた場所あって、そこにずば抜けて高い木が立っているのを見つけた」
そういいながらフェイは目的の木がある方角を指差した。
「そう、ご苦労様。それじゃあ行きましょう」
フェイの指をさしている方向を見つめ、アルナは歩き出した。
「了解……っとその前に」
「何? 何か問題でも……」
振り返ったアルナの頭に衝撃が走る。
「誰が猿だ」
「んぎゃっ!」
先ほどのアルナのつぶやきをしっかり聞いていたフェイはアルナの頭を力強く叩いた。
*
アルナを先頭に目的の高い木を目指して森を進んでいく。
人が通る道というものは無く、高く生い茂った草や太い木のせいで進むのが難しい。
アルナは苦しそうな表情をしながら草や枝をかき分けて進んでいった。
「もう! かなり進みづらい場所ね!」
時折髪に引っかかる蜘蛛の巣を嫌そうな顔で取り払いながら文句を言う。
「エレナがこんなところを通って高い木に行ってるとは考えにくいな……もしかしたら人が通れるような道もあったのかもしれないな」
フェイは苦笑いをしながらアルナの頭に付いている蜘蛛の巣を取り払った。
「やっぱりそう思う? 私も薄々そんな気がしてたのよね……」
大きなため息をつきながらアルナは頭をガックリと俯けた。
「あっはっは! これはこれで良い経験だな」
フェイは大きな声で笑いながら辺りを見回した。
木がところせましと生えており、視界がとても悪い。
姿が見えないが奇妙な鳴き声が時々響き渡り、魔物が存在している事を示している。
(元々ここには魔物が存在しているってエレナは言っていたな。強い魔物ではないっぽいけどアルナがいるからなぁ……)
フェイはチラリとアルナの事を見つめた。
アルナは苛立たしそうに草木をかき分けて進んで行っている。
(この怒りっぽい性格をどうにかしないとだよなぁ。怒りで視界が狭まってる)
ハァとフェイは小さくため息をついた。
ガサガサ……
その時、どこからか草の揺れる音がフェイの耳に入ってきた。
瞬時にフェイはキッと鋭く周りを見渡す。
アルナはブツブツと文句を言いながら草木をかき分けている。
微かな音であったため、アルナには聞こえていない様であった。
「アルナ」
フェイは小さな声でアルナの名前を呼び、肩を軽く叩いた。
「な、なによ……」
「振り向くな。このまま何事もなかったかの様に進みつづけろ」
ビクリと体を震わせ、振り返ろうとするアルナに対しフェイは小さな声で命令をする。
(露骨に警戒態勢を見せるのは危険だな)
下手に警戒をして相手を慎重にさせては逆に危険だと思い、フェイは周りを見回すのをやめた。
そしてフゥと軽く息を吐き、あたかも警戒をといたかのように演技をする。
目の代わりに耳を、鼻を、感覚を研ぎ澄ませる。
(さっきの魔物達はアルナを真っ先に狙って来ていた。一番弱い人間を襲う戦法ってわけか)
フェイは再びチラリとアルナの事を見つめた。
先ほどまでの苛立ちの表情はなくなり、代わりに緊張の表情をアルナは浮かべている。
アルナはぎこちなく草木をかき分けていると、足元で何かが動いたような気配を感じた。
ビクリと体を震わせ、ゆっくりと視線を足元に向ける。
「きゃあああ! ヘビっ!!」
アルナは足元のヘビ……に似た蔓に対し叫び声をあげた。
──それと同時に鎧を着た魔物が近くの木から飛び出してきた。
魔物は棍棒を大きく振り上げ、蔓に意識を向けているアルナに対し振り下ろす。
バキッ!!
しかしフェイの飛び蹴りによって魔物の攻撃は妨害された。
折れた音と共に棍棒が魔物の手から吹き飛んでいく。
間髪入れず、今度は反対側からもう一匹の魔物が武器を振り上げながら現れた。
フェイは姿勢を低くし、足元の石を拾いながら勢いよく振り返る。
そして振り返る勢いをのせながら、石を力強く投げた。
シュゴーっという空気を切り裂く音を立てながら石が魔物の目に向かって一直線に飛んでいく。
ブギョオォ!!
目に石が当たった魔物はよろめき、何もない空間に向かって棍棒を振った。
「ふぇっ?」
ヘビが現れたかと思ったら魔物が現れ、攻撃されたかと思ったら棍棒が飛んでいった。
そして、もう一匹現れたかと思ったら突如よろめきながら棍棒を振り回しだした。
一瞬の間に起こったことを理解できず、アルナはマヌケな声をあげた。
「アルナ! こっちだ!」
フェイは叫びながらアルナの襟を掴み、自分の背後にくるように引っ張った。
(フォーレイが目標を逃したとは考えにくい。最初から二人組のチームが二つあったと考えるのが妥当だな)
フェイは鋭い目線で二匹の魔物を睨みつける。
落ち着きを取り戻した魔物達は陣形を組みながらフェイの事を睨んでいた。
(この森の中で炎を使うのは危険だな。もし火が周りに移ったりしたら、逆にアルナが危険になってしまう)
フェイは魔物の事を警戒しながら周りをチラリと見回した。
フェイがアルナの事を考えていると、2匹の魔物が動き出した。
魔物達は二手に分かれ、再び姿をくらます。
(コイツら、森の中での戦闘に馴れていやがる)
フェイは小さく舌打ちをし、周りを警戒した。
(アルナを守りながら戦うのは厳しいか……)
「アルナ」
フェイはアルナの方に顔を向けずに小さな声で名前を呼んだ。
アルナはビクリと体を大きく弾ませ、今にも泣き出しそうな顔でフェイの事を見つめた。
「鳥かごを受け取れ。そしてあたしの合図で目標の木に向かえ」
そう言いながらフェイはそっとアルナに鳥かごを渡した。
「嫌よ! 私一人なんて絶対に無理!」
アルナは涙を目の縁にためながらブンブンと顔をふった。
「アルナを守りながらコイツらと戦うのは正直言って厳しい。だから先にアルナは戦線を離脱するんだ」
(と言っても、コレも賭けだけどな)
敵の正確な数が判らない以上、アルナを逃したとしても別の魔物に襲われる可能性がある。
また、他に魔物がいなくとも、2匹の魔物のうち片方がアルナの事を追いかける可能性もあった。
(でも、このまま炎を使えずにアルナを庇いながら戦うよりもはマシだな)
「アルナなら大丈夫だって。あたしがしっかり逃してやるさ」
フェイはクルッと振り返り、アルナの頭をやさしく撫でた。
アルナは震える瞳でやさしい笑顔を浮かべているフェイのことを見つめた。
その時、再び魔物達が木の陰から飛び出してきた。
フェイは瞬時に飛び跳ね、魔物に向かって回し蹴りを放った。
蹴られた魔物はもう一匹の魔物を巻き込みながら吹き飛んでいく。
「今だ! 行け!!」
フェイは大きな声で叫び、魔物に向かって駆け出した。
アルナは一瞬躊躇しながらも覚悟を決めた表情を浮かべ、目標の木の方向へ走り出した。




