初めての仕事
次の日になり、準備を終えた3人は宿の前に立っていた。
「最初は3人で村をでる」
フォーレイは手に付けている黒い革の手袋をギュッギュッと引っ張った。
村長の話では村を出て行った後に魔物に襲われるらしい。
最初から2組で村を出てしまった場合、鳥探し組の方に魔物が現れる可能性がある。
そのため最初は3人で村を出て、魔物に襲われた時点で2組に分かれることに決めた。
「魔物に会い次第、俺が魔物を惹きつける。フェイはアルナが戦場から離脱できるようサポートをしろ」
「あいよ」
「フンッ! 別にサポートなんて必要ないわよ」
アルナはまるで遠足に出かける子供の様に瞳を輝かせながら腕をぐるぐると回した。
「行くぞ」
「ちょっと待ってください!」
気合十分の3人が出発しようとしたとき、後ろから呼び止める声が聞こえてきた。
振り返るとそこにはエレナの姿があった。
「あの……トルルを捕まえるのにこれをつかってください」
そう言って差し出されるエレナの手には綺麗な鳥かごが握られていた。
「トルルはいつもこの鳥かごに自分から戻ってきていました。もしかしたらこの鳥かごを見たらトルルは戻ってくるかもしれないので……」
「なるほど。ありがとう」
フェイは鳥かごを受け取り、エレナの手を握った。
「絶対にトルルを捕まえてくる。安心して待ってな」
そしてパチンとウィンクをした。
「あ、ありがとうございます……」
エレナは顔を真っ赤にしながらいそいそと後ろに下がっていった。
「……あなた、実は男なんてことはないわよね」
アルナはジトーっと青い瞳を細めながら、鳥かごを持って戻ってきたフェイのことを睨んだ。
「何言ってんだ? あたしはどっからどう見ても女じゃないか」
フェイがキョトンとした表情を浮かべる
「……なんでもないわ。この天然ジゴロ」
アルナは大きなため息をつきながら前を向いた。
「今渡こそ行くぞ」
フォーレイの出発を知らせる短い言葉が辺りに響き渡る。
アルナはこれから始まる初めての仕事に胸を弾ませながら一歩足を踏み出した。
*
村を出た3人は森に囲まれた道を歩いていた。
最初に歩いていた道中と村の間には短いながらも森があり、そこで行商人達は襲われてた。
フォーレイを先頭にアルナ、フェイの順番で縦に並びながら歩いていく。
「それにしてもなんでわざわざ帰りの時を狙うのかしらね」
黙って歩くのがつまらなくなったアルナは雑談を始めた。
「魔物が襲ってくるタイミングの話?」
フェイがまわりをキョロキョロ見回しながら答える。
「そうよ。別に村で寝ている最中に襲ってきてもいいじゃない。そっちの方が油断すると思うわ」
アルナは手に持っている王家の盾を眺めながら話を続けた。
「んー……村で襲ったら家が壊れるからじゃないか? 戦闘の形跡が残る村なんて怖くて行商人達は泊まらないって」
「なるほどね」
納得したアルナは盾から視線を後ろにいるフェイに向けた。
辺りをキョロキョロ見回していたフェイはアルナの視線に気づき、憎たらしい笑みを浮かべた。
「もしかしたら一日しっかり休んだ人間の肉っていうのは美味いのかもしれないなぁ。だから魔物は極上の味を楽しむために一日人間達を寝かせて……」
「ギャー! そんな話は聞きたくないわ!」
アルナは叫びながら手で耳を塞いだ。
「あっはっは! 冗談だって冗談」
フェイが大声で笑いながらアルナの頭をポンポン叩く。
──その時、フェイとフォーレイの体に緊張が走った。
フェイはアルナの頭から手をはなし、全身の感覚を研ぎ澄ませた。
フォーレイが革の手袋をギュッと引っ張る。
「アルナ。あたしの手を握れ」
「えっ?」
突然フェイ雰囲気が変わり、アルナは戸惑いながらもフェイの手を握った。
「合図をしたら走り出すぞ。アルナはあたしの動きに合わせな」
フェイは握っている手に力を入れ、鋭い目つきを草陰に向ける。
「……」
アルナの体にも緊張が走り、手に持っている盾とフェイの手を力強く握った。
風が吹き、木々がざわざわと音をたてる。
「──フォーレイ! 左だ!」
突如フェイが叫ぶ。
それと同時に二匹の鎧をつけた醜い豚のような魔物が左の草陰から飛び出してきた。
二匹の魔物が真っ直ぐアルナに向かって飛びかかる。
「わっ、わわわわ……!」
自分に向かって飛びかかってくる魔物に驚き、アルナの頭は混乱に支配された。
しかし魔物達はさっきまでフォーレイの拳によって吹き飛ばされた。
ブギョオオォォオ!!
醜い叫び声を上げながら2匹の魔物が地面を転がっていく。
「今のうちだ! 走るぞ!」
フェイは呆然としているアルナの手を引っ張りながら走り出した。
「あっ……」
フェイに引かれる衝撃でアルナは我に返り、魔物に向かって歩いているフォーレイのことを見つめた。
フォーレイはピタリと足を止め、ゆっくりと振り返った。
「依頼を受けたからには仕事を完璧にこなせ」
フォーレイはニヤリと笑いながらどす黒い瞳をアルナに向けた。
「……フンッ! 誰に向かって言っているのかしら? そっちこそやられるんじゃないわよ!」
先ほどまでの混乱はなくなったアルナはニヤリと笑い、大きな声で強がりを叫びながら走っていった。




