裸の会話
「……と言うわけで、私は別の依頼をやることになったわ」
部屋に戻ってきたアルナは開口一番エレナとのやりとりをフォーレイに説明をした。
「そうか」
明日の仕事に備えて荷物をまとめていたフォーレイは視線をアルナに向けることなく、短く返事をした。
「本当は私も魔物退治に参加したかったけど、依頼が増えてしまったなら仕方ないわね」
誰がどう聞いても棒読みにしか聞こえない言い訳を言いながら、アルナは壁に立てかけてある王家の盾を手に持った。
「この盾の真価を発揮させたかったけど、残念ながら次の機会になっちゃったわね」
部屋の照明に照らされて紅い盾がキラリと輝く。
アルナはその綺麗な輝きを放っている盾をまるで宝物を見つめている子供のように眺めた。
「盾は持っていけ」
「なんで? やることは鳥探しよ?」
荷物をまとめ終わったフォーレイはバッグをベッドに放り投げ、黒い瞳を細めながらアルナのことを睨んだ。
「旅に必要なものは何だ? 言ってみろ」
「え? あっ」
旅に適した身体。
道中でフォーレイに言われたことをアルナは思い返した。
「旅には常に『死』と隣り合わせ。一瞬たりとも気を抜かない心構えが必要になる……だったわね」
「そうだ。ただ鳥を探すという仕事であろうと常に危険がまとわりついてくる。気を抜いていると死ぬぞ」
フォーレイの冷たい警告を聞いたアルナは唇を噛みしめ、ギュッと盾を抱き寄せた。
「確認をするぞ。俺とフェイが『魔物退治』。アルナが『鳥探し』だ」
仕事の内容を確認するため、フォーレイはアルナとフェイの顔を見つめた。
「あ~、それなんだけどさ」
フェイがゆっくりと手をあげる。
「あたしも『鳥探し』の方をやりたいんだけど、良い?」
「え? フェイも鳥探しをするの?」
意外なフェイの申し出にアルナはキョトンとした表情を浮かべた。
「いやぁ、エレナの話を聞いたら手伝いたくなっちゃってね」
フェイはパチンとアルナにウィンクをした。
「フェイ……」
「それからアルナの事が不安でね、監視をしようかと思って」
あっはっはと大きな声で笑いながらフェイはアルナの頭をバシバシ叩く。
「なっ! 別に私一人でも大丈夫よ!」
アルナは顔を真っ赤にさせながらフェイに向かって怒鳴った。
「そういうわけで、あたしは『鳥探し』の方をやろうと思う」
「……」
フェイは暴れるアルナのことを手で抑えながらフォーレイのことを見つめた。
フォーレイは黙ったまま黒い瞳をフェイに向けた。
「……鳥……か」
フォーレイは目を細めながらポツリとつぶやいた。
「?」
普段のフォーレイらしくない態度にアルナは違和感を覚えた。
「いいだろう。俺は『魔物退治』。フェイとアルナが『鳥探し』だ」
そして小さなため息ひとつつき、椅子に座った。
「俺は依頼の内容をまとめる。その間にお前らは風呂にでも入れ」
そう言いながらフォーレイは机に紙を置き、鳥探しの依頼をまとめはじめた。
「サンキュー。それじゃ、あたし達は風呂にでも入るかね」
「え? あっ、ちょっと!」
フェイはフォーレイにウィンクをし、アルナの背中を押しながら風呂場に向かった。
ボーっと考え事をしていたアルナは驚き、されるがままに風呂場に向かって歩き始めた。
*
「ふ~生き返るわ~」
久しぶりの風呂にアルナは心の底から安らぎの声を漏らした。
宿の風呂場は小さく、1人分の湯船しかなかった。
そのため一人が湯船につかり、その間にもう一人が身体を洗うことにした。
「お疲れ様。いやぁアルナは想像以上にすごいよ。てっきりすぐに音を上げると思ってた」
フェイは身体を泡だらけにしながらニコリと笑った。
「当然よ。なんたって私には騎士になるという目標があるのよ。こんなところで立ち止まっている暇はないわ」
アルナは誇らしげに慎ましい胸を張った。
「あっはっは! 元気があっていいねぇ。その調子でどんどん成長していってくれよ」
体をアルナに向けるように振り返り、フェイはパチンとウィンクをした。
振り返った衝撃でフェイの二つの果実が揺れる。
アルナはジトーっとフェイの胸を睨んだ。
そしてフェイのモノとは似ても似つかぬ真っ平らな自分の胸に視線を向けた。
「えぇ……絶対に成長するわ……あなたより絶対にね……」
アルナは歯を食いしばりながら自分の胸をペタペタと触った。
何故か悔しそうにしているアルナに対し、フェイは疑問の表情を浮かべながら体を洗いつづけた。
………
……
…
「そう言えば、フォーレイがつぶやいてた言葉ってどういう意味?」
先ほどのフォーレイのつぶやきを疑問に思ったアルナは髪を洗いながらフェイに尋ねた。
「んあ? つぶやき?」
完全にだらけきりながら湯船につかっていたフェイはマヌケな返事をした。
「ほら、鳥がどうのってつぶやいていたじゃない」
「あー……」
『……鳥……か』
フェイはフォーレイのつぶやきを思い返した。
「別に深い意味なんてないよ」
フェイは目を閉じ、ブクブクと湯船に沈んでいく。
「ふーん……」
アルナはつまらなそうに口を尖らせた。
「……あなた達と出会って数日は経ったけど、あなた達のことは知らないことばかりだわ」
髪についた泡を水で流し、濡れた髪を整えながらアルナはつぶやく。
「どうやって一人の体に何人も存在しているのか。それも魔法の力なのかしら?」
「さぁねぇ……」
フェイは目をつぶりながら湯船の縁に腕を置き、ゆったりとしている。
「それに私は成り行きであなた達と行動を共にするようになったけれど、そもそもあなた達の目的ってなんなのかしら?」
「何でも屋だよ。人を助けるため~」
間延びした声でフェイが答える。
「その何でも屋も、何で始めたのかしら?」
「さぁねぇ……随分前のことだから忘れちゃった」
「……フェイは魔法使いじゃないって言ってたわね。それじゃあ何故あなたは炎を操ることができるのかしら?」
「さぁねぇ……」
何を言ってもフェイは答えてくれそうにない。
アルナは大きなため息をついた。
「もういいわ……」
アルナは不機嫌そうな表情を浮かべ、口を尖らせながら風呂場から出ていこうとした。
「ちょっと待ちなよ」
アルナが風呂場の扉に手をかけると同時に呼び止められる。
「別に意地悪するために答えないわけじゃない。今はまだアルナに言うときじゃないんだ。でもいずれあたし達の事はしっかり話すよ」
申し訳なさそうな表情を浮かべているフェイの表情がアルナの視界に写る。
「……」
アルナはジトーっとフェイのことを睨みつけた。
そして再びため息をつき、扉を開けて出て行った。




