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わがまま王女の騎士道物語  作者: もっこす
何でも屋の世界旅行
20/26

闘力

 戸惑いの表情を浮かべている女将から部屋のカギを受け取ったアルナ達は宿の一室で休みを取っていた。



「はぁ~~久しぶりのベッドは最高ね!」

背負っていた王家の盾を壁に立てかけ、手に持っていたバッグを放り投げながらアルナはベッドに飛び込んだ。


「こーら、跳びこんだらダメだろ」

優しげな笑顔を浮かべながらフェイは放り出された荷物を拾いあげた。


「久しいって感覚は偉大だわ。家のベッドより明らかに固いのに、家のベッドよりすごく休まる感じがする」

アルナは枕にグリグリと頭をなすりつけた。


「お姫様がねんねの時間になる前に仕事の話をするぞ」

「ぬぁんですって!」


今日だけでも何度目になるかわからないフォーレイとアルナの売り言葉に買い言葉。

そんなやりとりを微笑ましく思いながらフェイはフォーレイの向かいの椅子に座った。


………

……


「たしか魔物退治だっけ?」

フォーレイが強烈なデコピンをアルナにお見舞いしたあたりでフェイはフォーレイに尋ねた。


「そうだ。どうやらディオレ王国を襲った魔物の残党がこの辺りに現れるらしい。今回はその魔物の退治が仕事だ」

フォーレイは額を大きく腫らしながら泣いているアルナの事を気にも留めず、手に持っている依頼の書類を眺めた。


「どうやら取り逃しがあったみたいだね。あたしの失敗だな、コリャ」

フェイは小さくため息をつき、肩をすくませた。


「まぁ仕事の内容はわかった。次の問題は……」

そう言いながらフェイは涙目を浮かべているアルナにチラリと視線を向けた。


「アルナをどうするかねぇ」

そして再び小さくため息をつく。


「ちょっと!? どうするかってどういうことよ!?」

妙に頭にくる言い方をするフェイに対し、アルナは怒りの声をあげた。


「コイツは留守番だ」

フォーレイは相変わらず書類に視線を落としながら、短くそう言った。


「はぁ!? 留守番!? なんで!?」

アルナはガバッとベッドから身を起こし、大きな声で叫んだ。


「貴様は足手まといだ」

「……言ってくれるじゃない」


ユラリとベッドから立ち上がり、アルナはゆっくりと歩き始める。

そして座っているフォーレイのそばに近づき、青い瞳をギラギラさせながらフォーレイの事を見下ろした。


「あなたに私の何が分かるのかしら? 私の戦っている姿をあなたは見ていないような気がするけど?」

「貴様の事ならよくわかる。まだまだ貴様は『お子様のお姫様』だ」


フォーレイの挑発を合図にアルナの額からブチッという音が聞こえ、固く握った拳を書類を見つめているフォーレイに向かって突き出した。


パンッ!


しかしアルナの拳はフォーレイにいともたやすく掴まれてしまった。


「くっ……」

アルナは掴まれた手を引き離すために手を引こうとした。


「えっ?」


しかしアルナの手はピクリとも動かなかった。

前に押そうにも、後ろに引こうにも、左右に揺らそうにもアルナとフォーレイの手は微動だにしない。


「貴様にはまだ実戦は早い。なぜならお前はまだ『闘力』の扱い方を知らないからだ」

引き離そうと暴れているアルナを意に介さず、フォーレイは読んでいた書類を机の上に置き、どす黒い瞳でアルナの事を見つめた。

そして放り投げるようにアルナの手を放した。


放り出されたアルナはベッドに倒れこみ、唸りながらフォーレイの事を睨んだ。





「『闘力』『闘力』って……まずその『闘力』ってなんなのよ!」


「まずは知識からだ。フェイ」

「あいよ」

呼ばれたフェイは短く返事をし、荷物から果物をいくつか取り出して机の上に置いた。


「『闘力』っていうのは、まぁ簡単に言うと『破壊力』の事さ。闘力が強ければ強いほど威力が高まるってこと」

フェイは説明をしながら果物を指でつついた。


「闘力が弱ければこうやって果物を揺らすことしかできない」

指でつつかれた果物がユラユラと揺れる。


「逆に闘力が強ければ――」


フェイは果物に手を乗せ、思い切り力を込めた。

グシャっという音を鳴らしながら果物が潰れる。


「――果物を破壊することが出来る」

フェイは手に着いた果汁をペロリと舐めながらウィンクをした。



「なによそれ。それってつまり筋肉があるかどうかってことじゃないの」

アルナは口を尖らせながら果物の欠片を口に放り投げた。


「良いところに気が付いたな! 実を言うと筋肉っていうのは闘力の貯蔵庫なのさ」

「貯蔵庫?」

勢いよく指を向けられたアルナは一瞬驚き、フェイの言葉を繰り返した。


「一般的には筋トレか何かをして筋肉をつけるだろ? それはつまり筋肉を肥大化させ、闘力の量を増やしているって事なんだよ」



 人は腕力を鍛えるには腕立て伏せやベンチプレスなどをして筋肉を発達させる。

そして筋肉の量が増えればそこに貯蔵される闘力の量も比例して増加していき、結果として腕力が上昇しているということになる。

つまり筋肉の量と闘力の量は比例関係になっているのだ。



「ふーん。だからひょろひょろのツートンは闘力が弱いって言ってたのね」

金髪の子供っぽいツートンの事を思い描く。


「ちょっと待って! じゃあフォーレイはどうなのよ? フォーレイも別に筋肉盛々ってわけじゃないじゃない。それなのにあんなすごいパンチを撃てるのはどういうことよ?」


「破壊力とは闘力の『量』だけでは決まるわけではない」

今まで黙っていたフォーレイが口を開く。


「破壊力を生むには闘力の『質』も関係してくる。例え闘力の量が少なくとも、闘力の質が高ければ高い破壊力を生み出す」

フォーレイは机の上に置いてある別の果物にデコピンを当てた。

パァンという音と共に果物がはじけ飛ぶ。


「そうそう。むしろ闘力っていうのは『量』より『質』の方が大事かもな。それから闘力っていうのは人間だけにあるわけじゃない」

「それって物にも闘力があるってこと?」

アルナはキョトンとした疑問の顔を浮かべた。


「ご明察。例えばそこらへんに転がっている石にだって闘力は存在している。それぞれの石にそれぞれの闘力の量と質がある。だから石によって当たった時の痛みが変わってくるわけ」

「なるほど……」

「アルナはあたしと戦ったとき石を投げたよな? あの石を投げるという破壊力は『アルナの闘力の量と質』と『石の闘力の量と質』によって決まるのさ」



 大きい石であれば闘力の量が多くなり、結果として破壊力が大きくなる。

小さい石だろうが投げる人の闘力によっては大きい石以上の破壊力を生む可能性もある。

そしてより闘力の高い石を闘力の低い石にぶつけると、低い方の石は粉々に砕け散ってしまう。



「ふーん。それじゃあフォーレイは私に闘力の量を増やすために筋肉盛々の変態女になれって言っているのかしら」

ジトーと上目遣いでフォーレイの事を睨みつける。


「そう言うわけではない」

「そうなの? じゃあもしかして私には高い質の闘力が備わっているのかしら!?」

アルナはパァと表情を明るくし、近くにあった果物をベシッと叩いた。

しかし果物はユラユラと揺れるだけで、アルナは不服そうに口を尖らせた。


「残念だが貴様には高い質の闘力など備わっていない。それから質というのは生まれもっての才能だ。努力をすれば高まるわけではない」

フォーレイは短くため息をつきながら果物を1つ掴んだ。


「じゃあやっぱり闘力の量を増やすしかないじゃない!」

キッとキツイ視線をフォーレイに送る。


「闘力というのは『量』と『質』だけが重要なわけではない。こと戦闘においては闘力を上手く扱う『技術』が必要になってくる」

そう言いながら手に持っていた果物を目の前に置いた。


「最初に言っておくが俺は別段高い質の闘力が備わっているわけではない。俺は闘力の扱いに長けている。例え闘力が少なかろうが上手く扱う技術を持っていれば――」


フォーレイは人差し指を果物にそえた。

そして指に力を入れ、前に押し出した。


「――絶大な破壊力を生み出すことが出来る」


フォーレイの指は根元まで果物に深く刺さっていた。





「ふ、ふふふふふ……」

アルナは体を震わせながら無気味な笑い声を漏らしていた。


例え闘力の量が少なくとも戦う術がある。強くなることが出来る。

そのことがアルナの騎士への道に大きな一歩をもたらした。


「それで、闘力の扱いを知るにはどうすればいいのかしら?」

アルナは溢れ出る期待を押さえつけながらフォーレイに尋ねた。


「まずは体に流れる闘力の動きを知ることだ」

「そのためには実戦あるのみね!」

瞳を大きく輝かせ、高まる気合いと共にアルナは立ち上がった。


「駄目だ」

しかしフォーレイは短く仕事への参加を拒否し、立ちあがったアルナに強烈なデコピンをかました。


「んぎゃっ!」

再び額へ痛みが走り、アルナはベッドに倒れこんでしまった。


「最初にも言ったが貴様は足手まといだ。闘力の扱い方に関しては今度機会があれば教えてやろう」

フォーレイは椅子に座りながら再び書類を机から拾い上げた。



「ぐぬぬぬぬぬ……」

アルナは額を擦りながら唸り、フォーレイの事を鋭くにらみつけた。

しかしフォーレイはアルナの方に顔を向けず、黙ったまま書類を読み続けている。


「ぬぬぬぬぬぬぬ……」

今度はフェイに視線を向ける。

しかしフェイは顔の前で手を合わせ、謝罪の意を表した。



「……もういいわよ! 別にあなた達に頼む必要なんてないわ!」

アルナは顔を真っ赤にさせながら立ち上がり、ズカズカと歩き出した。

そして扉を勢いよく開けた。


「私は私の好きにさせてもらうわ!」


バタンという大きな音と共に扉が閉まる。


フェイは肩をすくめながら立ち上がり、扉に向かって歩いて行った。



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