アルベティーナと不思議な旅人.1
太陽が温かく人々を照らす。
空を見上げれば綺麗な青色が一面に広がり、心がとても晴れやかになる。
人々は笑顔を浮かべ、幸せそうに暮らしていた。
ここ『ディオレ王国』は今日も平和で、とても良い天気だった。
しかし雲一つ無いとてもいい天気なのにも関わらず、『ディオレ城』ではカミナリが落ちていた。
「なんということをしたのですか! アルベティーナ姫!」
少ししかない髪を逆立て、気苦労の皺が見える顔を真っ赤にしながら大臣は怒りのカミナリを落としていた。
そのカミナリの矛先である『アルベティーナ』と呼ばれる、ドレスを着た綺麗な少女は玉座の前に立たされていた。
少女は青い瞳を大臣に向け、口を尖らせている。
窓から入り込む陽射しに照らされ、少女の金色の長い髪が輝く―――はずだった。
「なぜ! 髪を切ってしまったのですか!」
「だって……」
アルベティーナは俯きながら反省の色の無い瞳を地面に向け、ポツリと呟いた。
彼女、『アルベティーナ・コスタ・ディオレ』はディオレ王国の王女である。
アルベティーナは腰まである美しい髪と、綺麗な青い瞳を持っていた。
しかし今回の一件でアルベティーナは腰まである髪を肩に届く程度まで短くしてしまい、大臣から説教を受けていた。
アルベティーナは床に向けていた視線をあげ、上目遣いで大臣を見つめた。
「だって、騎士になるには長い髪が邪魔なんだもの」
そんな彼女は過去に助けてもらった騎士に憧れ、騎士になることを夢見ていた。
「戦闘になると長い髪は不利なのよ? 掴まれたりするらしいし」
「『だって』や『らしいし』じゃありません! 貴方様は一国のお姫様なのですぞ!? このような御姿の姫様では国民に示しが付かないではありませぬか!」
大臣は顔をどんどん赤くさせながら怒鳴った。
「うるさいわね。私はいつか騎士となってこの国をでていくのよ? それに国民の目なんてどうでもいいわ」
俯いていた少女はどこへいったのやら、アルベティーナはふんぞり返りながら鼻をならした。
「なんですとぉ~~~!!」
大臣の顔がさらに赤く染まり、まるで爆発しそうにぷるぷると震える。
そんな今にも爆発しそうな大臣を玉座に座る威圧的な風格をした男が手で抑制した。
彼女と同じ、青い瞳がアルベティーナを貫く。
「うっ……」
ばつの悪そうな顔をしながらアルベティーナは一歩後ずさった。
「アルナ。私はお前が騎士になることに賛成した覚えはないが」
アルベティーナの父親である王『グレゴリオ・コスタ・ディオレ』の低い声が静かに響く。
「お前はこの国の姫としての意識が足らなすぎる。エリオ大臣の言うとおり、お前は国民の見本とならねばならんのだ」
アルベティーナは黙ったまま、弱々しい反抗的な瞳で王を見つめた。
「お、お言葉ですがお父様。これは私の人生です。わ、私の好きにさせてもらいます」
強気な言葉とは裏腹に、アルベティーナは逃げるように顔を背けた。
「お前はまだ子供だ。まだ人の手を借りねば自分の人生を生きていくこともできん」
「わ、私はもう15になりました! もう立派な大人です!」
アルベティーナは顔を伏せながら上目遣いで弱々しく睨み返す。
「国の事、すなわち民の事を配慮せず、この国を統べる王族としての振る舞いをせず、ただ己の好きな事をするだけの者が大人なはずがなかろう?」
まるで見下ろすかのような冷たい視線がアルベティーナに刺さる。
「うっ……」
精いっぱいの反抗もつかの間、アルベティーナはお腹に拳を叩きこまれたような声をあげ、再び顔を背けた。
「子供じゃないもん……」
虫の声の様な小さな呟きがこぼれる。
「もうお父様の言うことばかり聞いてる子供じゃないもん! 私は私のやりたいことをやるわ!」
そして大きな声でそう叫び、身を翻して逃げるように玉座の間から出ていった。
「まちなされ! アルベティーナ姫!」
「よい。妻がアルナを上手く説得してくれるであろう」
王は呼び戻そうとした大臣を止め、走り去るアルベティーナの後姿を見つめた。