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わがまま王女の騎士道物語  作者: もっこす
何でも屋の世界旅行
19/26

初めての村『イニ』

 道中、一匹の小さな魔物に襲われた以外には特に問題は起こらず、アルナ達一行は立札が示していた村である『イニの村』についていた。


「ずいぶんと小さい村ね」

アルナはあたりを見渡しながらポツリとつぶやいた。


 小さな家がポツリポツリと幾つか存在しているだけの小さな村。

中には少しばかり大きい家が2軒ほど建っている。

恐らく宿とこの村の村長の家と言ったところであろう。



「確かに小さい村だけどさ、旅人を泊めるための宿がある。今までの野宿より全然マシじゃないか」

フェイは口を尖らせているアルナの頭をポンポン叩きながら微笑んだ。


「不服なら帰れ。さっきまでふらついていた人間が文句を口にするな」

フォーレイがギロリとアルナの事を睨む。


「ぐぬぬ……ま、まぁ仕方ないからこの宿で我慢してあげるわ」

「仕方がないから?」

ユラリと揺れながらフォーレイが近づいてくる。


「嘘! ベッドで眠れるなんて嬉しいわ! 早くあのすばらしい宿に行きましょう!」

身の危険を感じたアルナはわざとらしいほど明るい声で宿の事をほめたたえた。


「分かればいい。俺は村長を尋ねる。その間に貴様とフェイは宿に行け」

わざとらしくニコニコとしているアルナの事を一瞥し、フォーレイはもう一軒の少し大きい建物に向かって歩いて行った。



 村長の家の扉が閉まるのを確認したアルナは先ほどまで浮かべていた笑顔をピタリと止め、舌を大きく突き出した。


「ベー! 偉そうにするんじゃないわよ。言われなくてもさっさと宿に行って休ませてもらうわよ」

クルッと向きを変え、宿に向かって歩き始める。


「あっはっは! アルナとフォーレイが仲良しになるには当分かかりそうだねぇ」

大きな笑いをあげながらフェイはアルナの横を歩く。


「当分どころか永遠かもしれないわよ?あーあ、早くツートンに変わってくれないかしら」

「おや? アルナはツートンの方がお好みなのかな?」


フェイの茶化すような声を聞いたアルナはボンッという音と共に勢いよく顔をフェイの方に向けた。


「べ、ベべべ別にツートンが好きってわけじゃないわよ! ただあの横暴で暴力的なフォーレイよりマシってだけ!」

顔を真っ赤にさせながら腕をブンブン振り、アルナは抗議の声を上げる。


「あっはっは! そーかそーかわかったよ」

アルナの頭をポンポンと叩きながらフェイは憎たらしい顔を浮かべた。


「絶対わかってない!!」

「あっはっは! ご馳走様」


どんどん顔を赤くしながらバシバシと叩いてくるアルナの事を笑いながら、フェイは宿の扉に手をかけた。



ギィという軋む音と共に、少し古ぼけた扉が開いた。





 宿の中は質素ながらも綺麗であった。


無人の小さな受付。

2組ほど置かれている待合用と思われるテーブルとイス。

空っぽの鳥かご。

壁には笑顔を浮かべている女性の写真が飾られている。



「……静かね」

宿の中にはアルナとフェイ以外に客がいないようであった。

その為、宿の中は酷く静かである。


「貸切なんてラッキーじゃないか」

そう言いながらフェイは足早と誰もいない受付に向かって歩き、置いてある呼び鈴を鳴らした。


チーンという綺麗な音が静かな宿に響き渡る。


しばらくしてから若い女性が受付の奥の扉から現れた。


「あら……お客何て珍しいわね」

宿屋の女将は優しい笑顔を浮かべた。


「3人なんだけど、部屋は空いてるかい?」

「えぇ空いていますよ。むしろ埋まっている部屋の方がないんですよ」

女将の笑顔に少し影がかかる。


「そうみたいね」

アルナは短く呟き、誰もいない宿内を見渡した。


「あなた達が久しぶりのお客さんよ。もうここ最近はお客が来ていないの」

淀みない動きでチェックインに必要な書類をとりだし、フェイに渡しながら女将は寂しそうな声を漏らした。


「全くお客が来ないの?」

「いくら小さな村であってもここは行商人が通る道に面している村だ。全く客が入らないなんて事はないはず」

疑問の声を上げているアルナとは対照的に非常に落ち着いた様子でフェイはチェックインの手続きの紙にペンを走らせた。

そして必要事項の記入を終え、紙を渡しながらフェイは鋭い目線を女将に向けた。


「何かあるんだな」

真っ赤なフェイの瞳が女将の事を捉える。


「……」

女将は黙りながらフェイの瞳から視線を外し、手続きの紙を受け取った。


「……魔物が現れるのよ」

そして震える声で不吉な言葉を発した。


「魔物?」

フェイの瞳がより一層細まる。


「えぇ。別に魔物自体は良く現れていたのよ。でも魔物って言っても今までは小さな獣のような魔物だった」

女将はフェイから受け取った紙に何かを記入しながら震える声でそう言った。


「でも数日前に今まで見なかったような魔物が現れるようになったの。黒い鎧を着た……まるで醜い豚のような魔物が」

女将の手がギュッと強く握られる。


「鎧を着た兵士……」

アルナはゴクリと喉を鳴らし、冷や汗を一筋垂らした。



 数日前に現れた鎧を着た魔物の兵士。

恐らくディオレ王国を襲った魔物の敗残兵が現れたのであろう。


女将の言う話では、鎧を着た魔物の兵士がこの村に寄った行商人を襲うという事件が数日前から起こっているとの事だった。

情報の伝達が早い他の行商人達はこの事件の情報を得て、村に近づかないようにしているらしい。



「……ごめんなさい。本当はチェックインをする前に話すべきね」

女将は見てわかるほど悲しげな笑顔を浮かべながらフェイが書いた紙を引き出しにしまった。


「チェックインは取り消しておいたから、早く村を出発した方がいいわよ」


「……この村の人たちが生かされてる理由は?」

フェイは受付に肘を乗せ、頬杖をつきながら女将に尋ねた。


「きっと私たちは餌なんでしょうね。村に来た獲物を捕らえるための……」

女将は顔を伏せながらギュッと唇をかみしめた。


そしてゆっくりと顔をあげ、優しく微笑み、涙を流した。


「でもこれでお終い。私はこの村を訪れた人を獲物扱いされたくない。だから餌の利用価値が無いと判断されて、私たちは……」



バンッ!!



女将の言葉を遮るようにアルナは近くの机を力強く叩いた。


女将は目を丸くし、驚きの表情を浮かべながらアルナの事を見つめた。


「許せないわ」

怒りが混じったアルナの声が静かな宿内に響く。


「えぇそうね……騙してしまってごめんなさ……「違うわよ!」」


再び女将の声を遮るように、アルナは大きく叫んだ。


「許せないのは魔物よ。そんな小心者みたいな行動をするなんて腹立たしいわ」

アルナは鋭い目線を戸惑っている女将に向ける。


「それにその魔物は私に関係があるかもしれないの。それが許せない」

ズカズカと力強く大股で受付に向かって歩く。


そして顔をズイッと女将に近づけた。



「でも安心しなさい。その問題を解決してあげるわ」

そしてニコッと明るく笑った。



「えっ……?あ、あなた達は……?」

突然のアルナの行動に戸惑いを隠せない女将は目線をキョロキョロと泳がせた。


「そう言えばもう一つ許せないことがあったわ」

アルナは何かを思いついたかのように手をポンッと叩いた。


フェイはクツクツと笑っている。


「勝手にチェックインを取り消すってどういうことよ!? あなた商売する気あるの!?」

アルナは顔を思い切り女将に近づけ、大きな声で叫んだ。


女将は驚きのあまり尻もちをついてしまった。


女将が尻もちをつき、ドンッと音を鳴らすと同時に、宿屋の扉が力強く開かれた。



「仕事を手に入れてきたぞ」

フォーレイの無機質な声が響く。



「内容は?」

フェイは相変わらずクツクツと笑いながらフォーレイに尋ねた。


「小心者の魔物退治だ」

コツコツと足音を鳴らしながらフォーレイは受付に歩みよる。


「……おい、宿はちゃんと取れたのか?」

フォーレイは尻もちをついている女将を一瞥し、アルナの事を睨んだ。


「失礼ね。ちゃんとチェックインしたのに勝手にキャンセルされたのよ」

腕を組みながら不機嫌そうにアルナは口を尖らせた。


「貴様チェックインのやり方を知っているのか? 宿屋の主人を倒したらチェックイン出来るわけじゃないんだぞ」

「それくらい知ってるわよ!!」



「あー……それじゃあ女将さん」

バチバチと火花を散らしている2人を横目にフェイは女将に声をかける。



「3人なんだけど、部屋は空いてるかい?」

そしてニコッと笑った。



「あ、あなた達は……いったい?」

女将はより一層困惑の表情を強めた。



「あたし達? あたし達は――





――『何でも屋』さ」


そして憎たらしい笑みを浮かべた。



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