表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わがまま王女の騎士道物語  作者: もっこす
何でも屋の世界旅行
18/26

初めての道中

 晴天が空を包み込み、心地よい太陽の光が辺りに降り注ぐ。


やさしいそよ風が吹き、草木が気持ちよさそうにさざめく。


2羽の小鳥が元気に鳴き、追いかけっこをしているかのように飛び回る。



「つ、疲れたわ……」


そんな明るい小鳥の歌声が響き渡る道中、金色の髪をした少女――『アルベティーナ・コスタ・ディオレ』は暗い、疲れの声を口から漏らした。


「もぅダメェ……歩けない……」

「情けないなぁ。まだ出発してから4時間しか歩いてないじゃないか」


フラフラとよろめいているアルナより少し先を歩いている赤髪の女性――『フェイ』はポリポリと頭を掻きながらため息をついた。


「4時間よ、4時間……。普通は休憩をはさんでるはずじゃない……」

「何言ってんのさ。こんな歩きやすい道なら4時間程度どうってことないよ」



 見渡す限り緑色が広がる草原。

ディオレ王国を出発してから数日が経ち、アルナ達一行はディオレ王国の隣にある国を目指して歩いていた。

アルナ達が歩いているこの道はディオレ王国と隣国との貿易に利用されている道である。

多くの行商人や荷を引く生き物が行き来するため、道は舗装されており、フェイの言うとおり歩きやすくなっている。



「ほら、これでも飲みな」

フェイは先ほどすれ違った行商人から買った飲み物をアルナに差し出した。

アルナは掻っ攫うかのようにフェイの手から飲み物を受け取り、一気に口に流し込んだ。


「ンッ……ンッ……ぷはぁ!」

冷たい感触と炭酸の心地よさが疲れた体に広がっていく。


「あ~ダメね。やっぱり少し休憩しましょう。休憩。」

アルナは飲み物を容器の半分ほど呑み込み、道のわきの草むらに座り込んだ。


「はぁ……どうする? フォーレイ」

座ったまま頑なに動こうとしないアルナに対しフェイは小さくため息をつき、先を歩いている黒髪の青年に声をかけた。


声をかけられた青年――『フォーレイ・オルビット』はピタリと歩を止め、ゆっくりと振り返る。


「……」

冷たさと激しさが入り混じった黒い瞳でアルナの事を見つめる。


「……どうやら温室育ちのお姫様にとって『ただ歩く』という行為は厳しいようだな」

フーと短くため息を漏らし、感情のわからない表情でアルナの事を見下ろした。


それを聞いたアルナの体に力が入り、ピクッと一瞬体が震える。


「ぬぁんですってぇ……」


「思ったよりも根性がない奴だな。騎士になりたいという夢も案外すぐあきらめるかもしれないな」

馬鹿にしているのか、それとも真剣に話しているのか、意図の読み取れない真っ黒な瞳でフォーレイはアルナの事を見つめ続ける。


「お前の国はそう遠くはない。旅を続ける自信がないのなら今のうちに帰った方が……「だあぁーーーッ! 休憩は終わりよ!!」」


このままではいつまでもネチネチと言われ続けると思ったアルナはフォーレイの言葉を遮るように叫び、おもむろに立ち上がった。

そして服に着いた草を軽くはたきおとし、ずかずかと歩き始めた。





「流石。人を焚き付けることに関しては一流だ」

大股で前を歩いているアルナの事を見つめながらフェイはクツクツと笑った。


「戦いとは拳だけではない。言葉をつかった戦いもある」

フォーレイは相変わらず感情というものを顔に出さず、再び歩き始めた。


「あっはっは。流石戦闘狂だな」

フェイは大きな声で笑い、先頭を歩くアルナに駆け寄った。


「そうカッカするなって。フォーレイもアルナの事を思ってああ言ってるんだよ」

「私の事を思ってぇ?」

アルナは物凄く怪訝な顔を浮かべた。


「どこをどう考えても私を馬鹿にしている言い方だったじゃない!」

「確かに言い方は完全に馬鹿にはしていたな……」

フォーレイの事をフォローしきれなかったフェイはポリポリと頬をかいた。


アルナは困った表情を浮かべているフェイの事を上目遣いで睨み、ひとつため息をついた。


「あー、とりあえずアルナには足りないものがあるんだよ」

「足りないもの?」

気になることを言われ、勢いよく顔を上げる。



「そっ。それは『旅に適した身体』さ」

人差し指を立てながらフェイは微笑んだ。



「旅に適した身体……?」

言っていることを理解しきれなかったアルナはフェイの言葉を繰り返すように呟いた。


「それは旅を続けるのに必要な身体的なモノ、つまりは『体力』」


ニッと笑みを浮かべ、立てていた指をアルナの平べったい胸に向ける。


「そして旅を続けるのに必要な精神的なモノ、つまりは『気力』」




 旅をするとなると『体力』が必要になる。

旅の時間の内、多くを占めるのは移動である。

馬車のような上等な移動手段があれば話は別であるが、アルナ達の移動は基本的には徒歩である。

そのため国から国へ移動するとなると膨大な時間がかかってしまい、移動の速度を下げることは危険な道中にそれだけ長くいることになってしまう。


また、旅を続けていくには『気力』の方が大切かもしれない。

果てしなく続く道。金品を狙ってくる盗賊。

様々な障害が積み重なり、旅を続けていくことが困難になる者もいる

しかし国に戻ろうにもそう簡単に戻れるものではない。

帰りたいのに帰れない。だからと言って旅を続けたくない。

そう言った精神的に落ち込んでいる人間は魔物や盗賊の標的にされやすくなってしまうのだ。




「フンッ! 気力に関しては心配しなくて結構。私の騎士になるって夢はそう簡単には折れないんだから」

そう言いながらアルナはバッグを握る手に力を入れた。


「気力とは旅を続けていくと言う気持ちだけではない」

突如横からフォーレイの声が聞こえてきた。


「わっ! 急に話しかけるんじゃないわよ! ……で、他にはどんなのがあるの?」

アルナは一瞬体をビクリと震わせ、口を尖らせながらフォーレイの事を睨んだ。


フォーレイはアルナの質問に答えることなく、チラリと黒い瞳を草むらに向ける。


「?」

疑問の表情を浮かべながらアルナはフォーレイの視線の先に歩いて行った。

すると突如草むらがガサガサと音をたてながら揺れ、小さな黒い影が飛び出してきた。


シャアッ!!


「ッ!!」

突然の事にアルナは驚き、力強く目をつぶった。


しかし、待てども何かが起こる様子はない。

アルナは恐る恐る目を開けた。


そこには小さな狼のような魔物の首を掴んでいるフォーレイの姿があった。


「旅とは常に『死』と隣り合わせにある。一瞬たりとも気を抜かないという気力も必要になる」


掴んでいる手から逃れようと小さな魔物がじたばたと暴れる。

フォーレイはどす黒い瞳を暴れる魔物に向け、グッと手に力を入れた。

ゴキッという鈍い音があたりに響き渡り、魔物は動きを止めた。


「良かったな。さっき休憩と言って座った場所の近くにコイツがいたら貴様は死んでいた」

フォーレイは動かなくなった魔物をフェイに向かって放り投げた。


「なっ! こんな小さな魔物になんて負けないわよ!」

「身の程をわきまえろ。貴様はまだ『お姫様』だ」


言い返そうにも言葉が出てこないアルナはただ呻きながらフォーレイの事を睨んだ。

フォーレイはそんなアルナの事を気にも留めず、前を向いて再び歩き始めた。



「……あいつ嫌い! やっぱり私の事を馬鹿にしてるとしか思えないわ!」


「まぁまぁ落ち着けって。そんな事よりお疲れのアルナに朗報だ」

フェイは苦笑いを浮かべながら少し先に立っているモノを指差した。



それは村が近くにあることを知らせる立札であった。


新章に入りました。

これから始まる何でも屋とアルナの世界旅行をお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ