アルベティーナと不思議な旅人.16
庭に出たアルベティーナは周りを見渡しながら秘密の出入り口に向けて歩いた。
周りの様々な花が太陽に照らされて綺麗に輝く。
アルベティーナはその輝きを微笑みながら眺め、秘密の出入り口に着いた。
秘密の出入り口に着くと、すでに先客がいた。
茶色の髪に、そばかすのある顔。
アルベティーナの親友のモナであった。
「行っちゃうんだね」
モナは悲しげな笑みを浮かべた。
「うん。私の夢の為だもの」
アルベティーナはコクリと頷き、真っ直ぐにモナの事を見つめた。
「うふふ、かっこいいね。アルナは」
モナは目のふちに貯めた涙をぬぐい、後ろに隠していたモノをアルベティーナに渡した。
「はい。これあげるね」
それは茶色の綺麗な服であった。
「そんな綺麗なドレスで行っちゃダメよ。これは私が織った布で作った服なの。ちょっと不格好だけどね」
えへへ、と頬を赤く染めて笑いながらモナはポリポリと頭を掻いた。
アルベティーナは耐えきれなくなり、モナの事を抱きしめた。
「そんなことない! すっごくキレイよ! 私が今まで見た服の中で一番きれい!」
アルベティーナはギュウっとモナの事を抱きしめた。
「ありがとう……。嬉しい……」
モナも涙を流しながらアルベティーナの事を抱きしめた。
「あらあら、私も混ぜてほしいわね」
後ろから突然聞こえた声にアルベティーナは驚き、振り返った。
そこには優しい笑顔を浮かべ得ている王妃と、青い瞳を細めている王と、顔を赤くしている大臣の姿があった。
「えっ? お母様!? お父様!? エリオ大臣!?」
アルベティーナは驚いた。
「あの、これは、その……」
「待ってください」
アルベティーナが慌てふためいていると、モナが一歩前に出てきた。
「これはアルナにとってとても大切な事なのです。どうかこのままアルナを旅に出してあげてください」
モナは深く頭を下げた。
「モナ……」
アルベティーナは呟いた。
「アルナ、モナ」
王の冷たく、低い声が2人の体に響く。
2人はビクッと体を震わせ、王の方を恐る恐る見た。
「お前たち……」
王の瞳がより一層細くなる。
アルベティーナとモナはお互いの手を取り、ギュッと握った。
「何か勘違いをしていないか?」
「へ?」
2人は間抜けな声をあげた。
「私はアルベティーナを止めに来たのではない。我が娘を見送りに来たのだ」
王は相変わらず低い声でそう言った。
「え? でも、今さっきまでは騎士になることを反対してたのに……」
アルベティーナの頭の中がグルグル回る。
「私は言ったはずだ。『王として許すことはできない』とな。今の私はディオレ王国の王ではない。アルベティーナの『父親』としてここにいるのだ」
アルベティーナの父、グレゴリオ・コスタ・ディオレは優しげな表情を浮かべた。
「1人の父親として、娘の夢を応援してやりたいと思っている」
「お父様……」
アルベティーナの眼のふちに涙がたまる。
「そういうことです」
エリオ大臣が一歩前に出てきた。
「私は正直今でも反対です」
大臣はキリッとした表情でアルベティーナのことを見つめた。
「私はあなたが本当に小さい頃からお世話をさせていただきました」
大臣は目を閉じた。
「グレゴリオ王には大変申し訳ありませんが、私はアルベティーナ姫の事を孫のように思っております」
大臣の肩が小刻みに震える。
「こんな可愛い孫が……私のもとを離れていくのが……悲しくて……悲しくて……」
大臣は顔を赤くしながら、涙を零した。
グレゴリオが大臣の肩を優しく叩く。
「失礼しました……。しかし、アルベティーナ姫の意志を尊重したい気持ちも十分にあります。なので私はあなたの事を見送りにここに来ました」
エリオ大臣はビシッと姿勢を正し、鼻をすすった。
「エリオ大臣……」
アルベティーナの目から一筋の涙がこぼれる。
「アルナ」
マリア王妃が優しい声でアルベティーナの事を呼ぶ。
「おいで」
そして優しく微笑み、手を広げた。
「お母様ぁ……!」
アルベティーナはマリアの胸に飛び込んだ。
「よしよし、私はお前が元気にしてくれれば、それでいいんだよ」
マリアが優しくアルベティーナの髪をなでる。
「お母様……! 私……グスッ……私絶対に……絶対に元気で帰ってきますから!」
嗚咽を漏らしながら、アルベティーナは大好きな母の胸に頭をうずめた。
*
しばらくして、気分の落ち着いたアルベティーナは穴の前に立っていた。
「お父様、お母様、エリオ大臣、そしてモナ」
アルベティーナは名前を呼びながら皆の顔を見渡した。
「私、自分の夢の為に頑張ります」
そして深く頭を下げた。
「面をあげよ」
グレゴリオの低い声が響き、アルベティーナは顔をあげた。
グレゴリオは灼熱の太陽のように真っ赤な盾をアルベティーナに渡した。
盾の中心にはディオレ王国の紋章が描かれている。
「それは王家に伝わる盾だ。きっとお前の役に立つだろう」
グレゴリオの低く、冷たい声が響く。
しかしその冷たい声が、心の火照った今のアルベティーナには嬉しかった。
「ありがとうございます……。この盾で多くの者を守ります」
アルベティーナは盾を受け取った。
「私からはこのティアラをお渡しします」
そう言ってエリオ大臣は綺麗な水晶のティアラをアルベティーナの頭に乗せた。
「このティアラが王族であることを証明してくださるでしょう。御無事を祈っております」
早口にエリオ大臣はそう言った。
その早口のおかげで、アルベティーナは今にも流れそうな涙を流さずに済んだ。
「ありがとうございます……。姫としても、これから精進します」
ティアラがキラリと綺麗に輝く。
「そして私からは……はいコレ」
マリアは手を差し出した。その手には綺麗な模様の手作りネックレスが握られていた。
「私のだけ王族のものじゃなくてごめんなさいね。これは私が作ったお守り。きっとこのお守りがあなたを悪いモノから守ってくれるはずよ」
マリアの優しく、そして温かい声がアルベティーナを包む。
マリアの優しさに包まれ、アルベティーナは心が温まるように感じた。
「ありがとうございます……。お母様のお気持ちが伝わってきました」
アルベティーナはお守りをギュッと優しく握った。
「私はもう渡しちゃったから」
モナが照れ臭そうに頬を掻いた。
そして目を閉じた。
「私たち、小さい頃から一緒だったよね。辛いことも、楽しいこともいっぱい一緒に経験した。それが私はすごくうれしいの。……でもこれからは一緒に経験をすることが出来なくなっちゃうね」
モナは少し寂しそうな表情を浮かべた。
「モナ……」
アルベティーナが呟く。
「でも、なんだかそれぞれの道を行くって大人になったみたい」
モナはニコッと微笑んだ。
「アルナが立派な騎士になるように、私も立派な庭師になってみせるね」
スッと手を前に差し出す。
「頑張ってね、アルナ。立派な騎士になって私を、この国を守ってね」
スーッとモナの頬に一筋の涙がこぼれる。
「馬鹿ねモナ……。折角最後は泣かないようにしてたのに台無しじゃない」
アルベティーナは頬を伝う涙をふき取った。
「絶対に騎士になるわ。そしてモナの事を守る。ここに誓うわ!」
アルベティーナはモナの手を握った。
ありがとう。私の事を叱ってくれて。
ありがとう。私を正しい道に進ませてくれて。
ありがとう。私の事を優しく包んでくれて。
ありがとう。私の友達になってくれて。
ありがとう。私のわがままを聞いてくれて。
そして。
「行ってきます!!!」
アルベティーナは最高の笑顔を浮かべ、城を出ていった。
*
城門にたどり着くと、見覚えのある2人組がいた。
「遅いぞ! 結構待ったんだから」
フェイが不機嫌そうな顔をする。
「ごめんなさい。ちょっとしたサプライズイベントがあったから」
アルベティーナは頬を赤く染めながら頭を掻いた。
「よく来た」
フォーレイは真面目な声でそういい、手を差し出してきた。
「俺の名前はフォーレイ・オルビット。貴様の名前はなんだ。」
アルベティーナは差し出された手をジッと見つめた。
そしてニコリと笑い、フォーレイの手を握った。
「私の名前はアルベティーナ・コスタ・ディオレよ。『アルナ』って呼びなさい」
アルベティーナは握った手にギュッと力を込めた。
「俺たちは何でも屋だ。お前のやりたい事を言ってみろ」
フォーレイの黒い瞳がアルベティーナのことを見つめる。
アルベティーナは青い瞳を輝かせた。
「私! 絶対騎士になるわ!」
「わかった。そろそろ行くぞ」
フォーレイはそう言うとさっさと荷物をまとめ始めた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 感想も何もないわけ!?」
アルベティーナが不機嫌そうに口を尖らせる。
「いい夢だと思うよ。アルナにピッタリだ」
ニコリとフェイは笑い、ゴソゴソと荷物を漁り始めた。
「では新たな仲間を祝して、お祝いしますかな」
そう言いながらフェイは紙袋を取り出した。
「あっ! これって!」
アルベティーナの表情がパァと明るくなる。
「1人1個だぞ。食い意地をはるなよ」
フェイが憎たらしい笑みを浮かべながら、紙袋から果物を取り出してフォーレイに渡した。
そして自分の分の果物を取り出し、アルベティーナに紙袋を渡した。
「新たな仲間を祝して。」
フェイがパチンとウィンクをする。
アルベティーナは紙袋を受け取り、中から果物を取り出した。
「新たな出会いを祝して。」
アルベティーナは大きな口を開けて果物をかじった。
シャリッという旅の始まりの音が響き渡った。
紙袋の中には果物が1つもなかった。
『アルベティーナと不思議な旅人』 ~ 完 ~




