アルベティーナと不思議な旅人.12
「何!? 今の爆発音は!?」
アルベティーナは急に起こった爆発音と衝撃に驚き、地面に手をついていた。
アルベティーナはすぐさま立ち上がり、窓の外を眺めた。
黒い煙と共に醜い魔物の兵が門から入ってくる光景が目に入った。
「ま……魔物……」
過去の忌まわしい記憶が一瞬にして脳内に蘇る。
ガクガクとアルベティーナの全身が震える。
ドンッというすさまじい爆発音が響き渡り、ハッとなったアルベティーナは再び窓の外を見つめた。
大きな火柱が立ち昇っている。
「ひどい……あんなにも燃え広がっている」
真っ赤な炎の壁が門の前に広がる。
しかしその炎のおかげで魔物達もなかなか中に入れない様子であった。
「あの炎のおかげでまだ魔物たちが入れてない! まだ間に合うはず!」
鳴り響く爆発音と衝撃のせいで何度も躓きそうになりながらもアルベティーナは先を急いだ。
何度目の爆発音がしただろうか、アルベティーナは地下牢の扉の前に立っていた。
地下牢の扉をジッと見つめる。
「……大丈夫。私のやりたいようにやるべきよ」
震える声でそう呟き、アルベティーナは扉を開けた。
地下牢の中は混乱状態に陥っていた。
「出してくれぇ!」
「あっひゃっひゃっひゃっひゃ!」
「爆発に巻き込まれて死んじまうよぉ!」
地下牢に響き渡る阿鼻叫喚。
「えぇい! 静まれ! 静まれぇ!」
地下牢の看守も涙目になりながら混乱を落ち着かせようとしていた。
アルベティーナはゴクリと喉を鳴らし、看守に近づいて行った。
「鍵を渡しなさい」
アルベティーナは看守の袖を掴むや否や力強く命令をした。
「アルベティーナ姫様! 何故このような所に!?」
「聞こえなかったの? 鍵を渡しなさい」
「鍵をですか? 鍵なんて何に使うんですか?」
「いいから! 時間が無いのよ! 早く鍵を渡しなさい!」
余裕のないアルベティーナはまるで王のように鋭い視線を看守に向け、大きな声で威圧した。
「は、はい! ただいま!」
驚いた看守は思わず鍵をさしだし、アルベティーナはまるでひったくるように看守の手から鍵を受け取った。
ズカズカと地下牢の前を歩いていく。
「助けてくれぇ!」
「うっひょー女だ! 女がいるぞぉ!」
「嬢ちゃん俺と一緒に遊ぼうぜぇ」
「死にたくないぃ!」
部屋の中に響く様々な声を無視し、アルベティーナは一箇所だけあるとても静かな牢屋の前に立った。
牢屋の中にいる金髪の男はまるで眠っているかのように静かに目を閉じていた。
「……ツートン」
アルベティーナがポツリと呟いた。
その呟きが聞こえたのか、金髪の男がゆっくりと目を開けた。
「やぁ、アルナ。どうしたんだい疲れきった顔をして」
ツートンは優しい笑顔を浮かべ、牢屋の檻の前まで歩いてきた。
「あなたは魔法使いなのよね……」
アルベティーナは震える瞳でツートンを見つめた。
「うん。そうだよ」
少し悲しげな色がツートンの笑顔に混ざる。
その笑顔を見たアルベィーナの心がチクリと痛む。
「あなたは……良い人?」
アルベティーナは震える声でツートンに尋ねた。
「そんな……いい人かなんて僕にはわから……」
「ちゃんと答えて」
下唇をグッと噛みながら、ツートンの事を見つめる。
「……」
ツートンの顔から笑みが消え、無表情のままアルベティーナの事を見つめた。
そしてゆっくり手をあげ、少しずつアルベティーナに近づけてきた。
アルベティーナはより一層強く下唇を噛み、ギュッと目を固く閉じた。
ツートンの手がアルベティーナの頭に触れる。
アルベティーナはビクッと体を震わせた。
すると心地よい風がアルベティーナを包み込んだ。
そして徐々に風が強まり、まるで空を飛んでいるかのような晴れやかな気分がアルベティーナの心に広まっていく。
「これでわかってもらえたかな?」
アルベティーナが少しずつ目を開けると、そこには温かく、優しい笑顔を浮かべている人間の姿があった。
「えぇ、大丈夫よ。あなたは良い人なのね」
アルベティーナも優しく微笑む。
そしてすぐに緊張を含んだ真剣な面持ちになった。
「今、この国に魔物が襲いこんでいるの」
魔物、という単語を呟くたびに心が締め付けられる。
「お願い! この国を救うためにあなたの力を貸して!」
アルベティーナは深く頭を下げた。
「勝手なのはわかってるわ。牢に入れておいて都合がいい時だけ協力を仰ぐなんて虫が良すぎるのはわかってる」
ポロポロとアルベティーナの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
「アルナ……」
「そう言えばあなたにするお願いを決めていなかったわよね。今ここであなたに……」
「アルナ」
ツートンの優しい声がアルベティーナの焦る心に響く。
「大丈夫だよアルナ。お願いする必要なんてない」
ツートンは静かに目を閉じた。
「こんな可愛い娘の泣き顔なんて僕はみたくないからね」
そう言ってツートンはポンポンとアルベティーナの頭を叩いた。
「か、かわ……ッ!!」
アルベティーナの顔がどんどん赤くなっていく。
「とりあえずこの牢屋の鍵を開けてくれないかい? 魔法で牢を壊すのは流石に忍びもとないからね」
まるであの果物のように顔を真っ赤に染めたアルベティーナは震える手で牢屋の鍵を開けた。
「ありがとう。とりあえず被害状況を……」
被害状況を確認しようとツートンが歩き始めた瞬間、地上が騒がしくなった。
「まさか!」
アルベティーナとツートンは急いで地下牢から出て、階段を駆け上った。
――城の中は混乱に支配されていた。
慌てふためく城の者達があちこちを駆け回っている。
幸いにも魔物の姿はまだ見当たらなかった。
「おい! いったい今どうなっているんだ!」
ツートンは走り回っている兵士の一人を捕まえ、壁に押し付けた。
「お、お前は、ま、魔法使い! どうやってここに……」
「良いから質問に答えなさい!」
アルベティーナは慌てている兵士の頬を思い切り叩いた。
「痛い! アルベティーナ姫様!?」
「良いから答えなさいよ~!」
アルベティーナは今にも打たんとばかりに手を振り上げる。
兵士はヒッと短い悲鳴をあげ、状況を説明し始めた。
「魔物の群れが現れました! 関所で突如発生した炎により大半は焼死。しかしワイバーンに乗った魔物の兵が空から侵入してきました。炎のおかげで時間が稼げたため国民の避難は完了しましたが、魔物の兵によって国の兵士たちが次々になぎ倒されていっているのです!」
兵士はポロポロと涙を流しながら説明をした。
「この国はいったいどうなるのでしょう! 私たちでは魔物の兵にとても太刀打ちできません!」
兵士は涙を流しながらアルベティーナに抱き着いた。
「ちょっと! この国を守るのがあなた達兵士の役目でしょう! 泣いてる暇があったら何か対策を考えなさいよ!」
「アルナ。城の人たちは僕がなんとかする。君は早く安全なところに避難するんだ」
そう言いながらツートンは泣きわめいている兵士の頭に優しく振れた。
「ちょっと! 城の人をどうにかするっていったいどうす……」
アルベティーナの言葉は途中で止まり、目を見開いた。
兵士の体を風が包み込んでいる。
「これ……もしかしてさっきの……」
苦痛に支配されていた兵士の顔がみるみる安らかになっていく。
魔法。
(そうよ……混乱のせいで忘れていたけど、ツートンは魔法使いなんだったわ)
目を閉じ、ブツブツと何かを呟いていたツートンは目を開け、アルベティーナの方を向いた。
そしてニコッと笑った。
「大丈夫、安心して。魔物達はこの城の中には絶対入れないよ。それにフェイも城門の魔物達を片づけてすぐにこっちに向かってくれるはずさ」
穏やかな声がアルベティーナの心を包み込む。
「あなたに……任せてもいいのね」
アルベティーナは上目遣いでツートンの事を見つめた。
「うん。信じて良いよ」
力強く、そして優しい翡翠の瞳がそこにはあった。
「わかったわ。この国をお願いね」
アルベティーナは笑って頷き、避難所に向かって走り出した。
*
「アルベティーナ姫様!」
避難所に向かっている途中、アルベティーナは野太い声の男に呼び止められた。
声のする方を見ると、ふくよかな体系をした男が涙を流しながらアルベティーナに近づいてきていた。
「どうしたんですか!? お父さん!?」
アルベティーナは驚き、男の肩を掴んだ。
アルベティーナがお父さんと呼ぶふくよかな男はモナの父親である。
「モナが! モナの姿が見当たらないのです! アルベティーナ様はご存じありませんか!?」
モナの父親は泣きながら大きな声で恐ろしいことを言った。
「モナが!?」
そう言った時、城の庭に何かが降ってきたのが窓から視界の端に映った。
体に冷たい感触が走り、アルベティーナはすぐさま駆け出した。
大切な存在であるモナを探しに。
アルベティーナの頭の中は不安でいっぱいだった。




