アルベティーナと不思議な旅人.11
ハッ、ハッと息を切らしながらアルベティーナは走った。
道行く人に時々ぶつかり、体がよろけ、転びそうになりながらも走った。
(魔物が来る! 早くお父様に伝えなくちゃ!)
過去に起こった恐ろしい出来事が再び起こる予感がする。
その恐怖心がアルベティーナの足を今まで以上に早く動かした。
そしてアルベティーナは城門にたどり着いた。
「どうした娘。そんなに慌てて」
城門に立っていた兵士が膝に手を付き、息を切らしている少女に尋ねる。
「城の中に入るには通行証がひつよ……」
兵士は少女の顔を見るや否や驚き、ビクリと体を跳ねた。
「あなた……私の顔がわからないのかしら……」
ギロッとアルベティーナの青い瞳が兵士を睨む。
「ア、アルベティーナ姫様!? 大変申し訳ありません! 町娘の恰好をしていた為、アルベティーナ姫様だとは……」
「いいから城門を開けなさい!」
あたふたと慌てふためきながら言い訳をする兵士に向かって苛立ちながら叫ぶ。
兵士はハイッと声を裏返しながら敬礼し、すぐさま城門を開けた。
「急がないと……! 早くお父様に……!」
侍女や兵士達から何度も向けられる奇異の目をアルベティーナはすべて無視し、王の居る謁見の間を目指した。
そして大きくそびえ立つ扉を力強く開けた。
「お父様!」
アルベティーナの大きな声が部屋に響く。
「アルナ、そのように大きな声を出すな」
王は相変わらず冷たく、低い声で答えた。
「申し訳ありませんお父様! でも今はそれどころじゃないんです! 大変な事が起ころうとしています!」
「少しは落ち着くのだ。焦っていては伝わるものも伝わらなくなる」
王の鋭い視線がアルベティーナを見つめる。
アルベティーナは一瞬不機嫌な表情になりながらも口を閉じ、大きく深呼吸をした。
そして王の瞳をまっすぐ見つめた。
「魔物が襲ってきます!」
「……魔物が襲ってくるだと?」
王の瞳がより一層細くなる。
「はい! 魔物が襲ってくると聞きました!」
「……それは誰に聞いたのだ?」
「えっ?」
ドキリと心臓が跳ねる。
魔物が来るといったのはフェイが言った言葉であった。
たとえその事を言っても、王にとっては信憑性のある言葉ではない。
「えっと……その……」
「どうした。何か言いづらいことでもあるのか?」
キッと鋭い視線がアルベティーナの心を貫く。
アルベティーナはビクッと体を震わせた。
「嘘をついたのか、アルベティーナ」
王の声が徐々により低く、冷たくなっていく。
「そんな! 嘘じゃありません!」
「ならば魔物が襲ってくると言ったのは誰なのだ?」
アルベティーナはグッと歯を食いしばった。
「……魔法使いの仲間からです」
その瞬間、謁見の間にざわめき声が沸き立った。
「魔法使いの仲間だと?」
「姫様は魔法使いの仲間と関わりがあるのか!」
不穏な空気が部屋を包み込む。
アルベティーナは周りでざわめいている人達をキッと睨んだ。
「魔法使いの仲間だからってなによ!? ちゃんと人の言葉を話して私にその事を伝えてくれた同じ人なのよ!」
ビリビリと部屋の空気が揺れるほど、アルベティーナは大きな声で叫んだ。
部屋の中が静寂に包まれる。
「……魔法使いの仲間の言葉を王である私に信じろと言うのだな」
静寂の中、貫くような王の冷たく青い瞳がアルベティーナの瞳を睨む。
「魔法使いじゃなくて人の言葉よ」
アルベティーナも青い瞳を細くし、王の瞳を睨んだ。
二つの青い視線が交わる。
「……すぐに兵を手配しろ」
しばらくしてから王は視線をアルベティーナから外し、あたふたしている大臣に向かって命令をした。
大臣はすぐさま真剣な表情を取り戻し、次々と周りの者たちに命令を下していく。
「信じてくれるの?」
予想外の展開に驚いたアルベティーナは不思議そうな顔で王を見つめた。
「勘違いするな。私が信じたのは魔法使いの仲間の言葉ではない。我が娘であるアルベティーナの言葉だ」
王はアルベティーナに視線を戻すことなくそう言った。
「……ありがとうお父様」
アルベティーナはニッコリ笑い、すぐさま身をひるがえして部屋から出ていこうとした。
「待てアルナ。お前も今すぐ避難するのだ」
「ごめんなさい! やらなきゃいけないことがあるの!」
アルベティーナは王の言葉に短く返事し、勢いよく部屋から出て行った。
「……私も甘いものだな」
王はひとつため息をし、立ち上がった。
その時、ドンッと言う大きな爆発音があたりに響いた。
王は急いで窓から外の様子を眺めた。
城門から黒い煙が立ち昇っている。
――そして黒い煙から魔物達が現れた。




