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わがまま王女の騎士道物語  作者: もっこす
騎士になりたい王女
11/26

アルベティーナと不思議な旅人.10

 戦いが終わり、アルベティーナとフェイの2人は公園のベンチに座っていた。


アルベティーナはフェイがお礼と言って渡してきた飲み物を一口飲みこんだ。

シュワシュワとした炭酸の心地よさと甘い風味が疲れた体に広がる。


「それで、聞きたいことってなんだ?」

フェイもグイッと一口飲みこみ、アルベティーナに尋ねた。

さっきまで甘い果物を食べていたのにまだ甘い飲み物を飲むのか、と心の中で思いながら視線をフェイに向ける。


「あなた達についてよ」

「ほー、あたし達についてか」

「あなた何者なの? あの身のこなしは国の兵士にもできないわ」

ジトーっとフェイの事を睨む。


「まぁこう見えて色々と場数を踏んでいるからね。それも一国の兵士じゃ経験できないほどの場数をね」

「……まだ若いあなたが国の兵士よりも場数を踏んでる、ねぇ」

ジーっとフェイを睨む視線に疑問の色が混ざる。


どう見ても年は20にいくかいかないか程度にしか見えない。もちろん城の兵士にはもっと年を重ねている人がいる。


「フンッ! まぁいいわ。何か訳ありそうだけど、あえてそこは聞かないでおいてあげるわ」

アルベティーナは視線を飲み物に戻し、一口飲みこんだ。


「それじゃあ次はツートンについてよ」

ベンチに座るツートンの姿が脳裏に蘇る。

(そう言えばツートンと話した時もこのベンチだったわね)


「あなたは知ってるでしょ。魔法使いがどういう存在なのか」


スッと視線を地面に向ける。


「この国にもヒューマ教の教えが浸透してるから、私は魔法使いに対してあまり良い印象を持っていなかったのよ」

「……」

フェイは黙ったままアルベティーナの話を聞き、グイッと飲み物を口に流し込んだ。


「神の為にと言って平気で人を殺す邪教徒。冷徹で血の通わない存在。って私は聞いてたの」


一筋の風が吹き、揺れて擦れる草木の音が周りにざわざわと響き渡る。


「でもツートンは違ったわ。人を殺すどころか人を助け、冷徹などころか温かい笑みを浮かべる」

優しげな笑顔を浮かべながら女の子の頭をなでるツートンの姿。


「つまり魔法使いが悪い奴なのかどうかわからなくなった……と」

視線をアルベティーナに向けずにフェイは呟いた。


「まぁ簡単に言えばそう言うことね」


「……」

フェイはしばらく黙った。


「ツートンは良い奴さ。底なしの優しさを持っている馬鹿」

グイッと飲み物を呑み込む。


「でも魔法使い全員がツートンみたいな訳じゃない。中にはその教え通りに人間の事を平気で殺す奴もいるさ」

「やっぱり人を殺すのね……」

「でもそれは魔法使いだけじゃない、普通の人間だってそうだろ?」

「えっ」

アルベティーナはキョトンとした表情を浮かべ、視線をフェイに向けた。


「いや何を驚いてるんだよ。魔法使いだろうが魔法使いじゃなかろうが大きな括りで見れば同じ人間じゃないか。だから魔法使いだから悪いも良いもないのさ」


『私が重要視しているのは等身大のその人自身よ』

王妃の言葉を思い出す。


「その人自身……か」

アルベティーナはポツリとつぶやいた。


「それに神が人間の敵っていうのがまず間違ってるのさ」

「え?」

「神っていうのはね、常に人間の味方なんだよ」

すこし力の入った声にアルベティーナは一瞬驚き、恐る恐るフェイの方を向いた。


飲み物を握るフェイの手が少し震えている。


「まぁ……あたしにはわからないけどな……」


フェイは本当に小さな声でそう呟き、ギュッっと力強く飲み物を握った。



「あ……えぇと、アレよ! そう言えば2人だけじゃないって言ってたじゃない? 他に仲間はどんな人がいるの?」

どことなくピリピリと痛みを覚える雰囲気にアルベティーナは耐えられなくなり、急いで話題を変えた。


ハッと気づいたフェイは再び笑顔に戻り、アルベティーナの方を向いた。

「あぁ悪い悪い。あたしとツートンの他にか。どいつもこいつも曲者揃いだよ」

クックックと笑いながら一口飲む。


「俺様気質の『ワーナード』、戦闘狂の『フォーレイ』、いつも黙ってる『三神』、そして何考えているかわかんない『ゼロ』。それがあたしの仲間達」

「ふーん……なんかあんまり良い人たちに思えないわね」

フェイの説明が悪いせいも相まってかなんだか問題児集団のように感じた。


「あっはっは!本当にどいつもこいつもろくな奴じゃないよ」

「よくそんな人たちと一緒に旅してるわね……。その人たちは今どこにいるのかしら?」

ジーっとフェイの事を見ていると急にフェイが顔をアルベティーナの方に向け、視線が合った。

そしてニィっと憎たらしい笑顔を再び浮かべる。


「あいつらはね、今もツートンと一緒にいるのさ」

フェイは意味の分からないことを言った。


「は? 今も一緒ってことは城の地下牢にいるってこと?」

ツートンは捕らえられた為、今は城の地下牢にいる。

一緒にいるということになると地下牢に閉じ込められていることになる。


「なるほど、ツートンは城の地下牢に捕らえられているのか」

ニヤリとフェイが笑う。


「あっ!」

うっかりツートンの居場所を喋ってしまい、アルベティーナの顔が見る見るうちに赤くなっていった。


「あなた! 謀ったわね!」

「あっはっは! 別に謀ってなんていないよ」

フェイは笑いながら残りの飲み物を一気に流し込み、ベンチから立ち上がった。


「嘘はついてないしな」

「?」

立ち上がりながらポツリとつぶやいたフェイの言葉を理解できず、アルベティーナは頭の上に?を浮かべた。


「さぁて、どうだろうね」

フェイは空の飲み物をヒュッとゴミ箱に向かって投げた。

カコッという気持ちのいい音がゴミ箱から聞こえてくる。


そして長く綺麗な赤い髪を揺らしながらフェイは振り返った。


「そう言えばあんたの名前を聞いてなかったね。知ってると思うけどあたしの名前は『フェイ』。よろしく」

軽やかに自己紹介をしながらフェイは手を差し出してきた。


アルベティーナは差し出された手をジッと見つめる。


(そういえばあの時、ツートンの手を握らずに逃げちゃったわね……)

ツートンの姿を思い出す。

優しく笑い、優しく手を差し出す魔法使いのツートンの姿。

でも魔法使いだとかはもう関係ない。


(あとでツートンにあったら握手しないとね)

そう思いながらアルベティーナはフェイの手を握った。


「私の名前はアルナ。いつか立派な騎士になるのが私の夢よ」


「『いつかなる』って事は百戦錬磨の騎士っていうのは嘘だったのか」

フェイがニヤニヤと憎たらしい笑みを浮かべる。


「なっ! う、嘘じゃないわよ!」

「あっはっは! 良いんだよ別にそんな見栄をはらなくても」


フェイの大きな笑い声が辺りに響いた。





 アルベティーナがフェイに嘘じゃないと必死に弁解していると、突如フェイはアルベティーナの手を強く握った。


「痛っ……」

軽い痛みが走り、アルベティーナは顔を少しゆがませながらフェイの顔を見つめた。


フェイは憎たらしい笑顔ではなく、真剣な表情を浮かべながら関所の門を鋭くにらんでいた。


「……アルナ。町の人達に呼びかけて今すぐ避難させろ」

握っていた手を放し、今までのような陽気な声ではなく、低く、どこか怖い声でフェイは言った。


「どうしたのよ、いきなり」

少し痛みが残る手を擦りながらアルベティーナは尋ねた。



「魔物が来る」

「え?」



アルベティーナの心臓が大きく跳ねる。


「やっぱり狙ってきたか……」

フェイはブツブツと何かを呟いたかと思うと、再びアルベティーナに視線を向けた。


「あたしがしばらく魔物を食い止める。アルナは町の人を避難させるなり、城の兵士に知らせるなりしてくれ」

「えっ? ちょっ、なんで魔物が来るなんてわかるのよ!?」


アルベティーナの疑問の声も聞かず、フェイはすさまじい速度で門に向かって駆け出した。




「魔物が……来る?」


扉を破って現れる醜い魔物の兵士の姿が脳裏に蘇った。


絶望を体現しているかのような存在。



ゾッっと背筋に悪寒が走り、アルベティーナは立ち上がった。

そしてどこから来るのかわからない嫌な予感を必死に抑えながら、アルベティーナは城に向かって駆け出した。


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