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わがまま王女の騎士道物語  作者: もっこす
騎士になりたい王女
10/26

アルベティーナと不思議な旅人.9

 ジリジリと少しずつ2人の距離が縮まっていく。

木の枝を持ったアルベティーナは緊張の面持ちを持ったまま鋭い目つきでフェイの事を睨んだ。

フェイは相変わらず余裕たっぷりの笑顔をアルベティーナに向けている。



(どうしよう。勢いで枝を拾って構えたけど、この後どうすればいいのかわからないわ)


ジリジリとすり足でフェイに近づいていく。


(いいえ大丈夫よ、アルベティーナ・コスタ・ディオレ。今までたくさん剣の練習をしてきたじゃない)


アルベティーナの額から一筋の汗が垂れ、こめかみ、頬、顎へと沿って流れる。


(大丈夫? 本当に? 剣の練習と言ったって想像の敵が相手だったじゃない)


顎から垂れていた汗が地面に落ちる。


(現実の……それも人間を相手にできるの?)


木の枝を握る手に力が入る。


(でも……剣を持った状態で負けるなんてヤダ)


視線が徐々に下がっていく。


(負けたくない。騎士になるって言ってるのに、剣を持った状態で負けるなんて恥ずかしい)


枝を持つ手が震える。


(どうしよう、今からでも枝を捨てて素手になろうかしら。そうすれば負けたとしても剣を持ってなかったって――)



「どうした」


鋭い声がアルベティーナの体を貫き、ハッとなって下げていた視線をフェイに向けた。



「震えているぞ」


憎たらしい顔がそこにあった。




「ッ! はあああああ!!」

アルベティーナは覚悟を決めて駆け出し、フェイとの距離を一気に詰める。


そして枝を横に大きく振った。


「フッ!」

フェイは息を大きく吐きながら一歩後ろに下がり、紙一重で斬撃をかわす。


「まだまだぁ!」

一発、二発、三発と連続して枝を振り回す。


シュッ!シュッ!シュッ!と空気を切り裂く音が響く。


フェイは身を伏せ、体を反らし、あるいは再び一歩下がりながら斬撃をかわし続ける。


「やるね。さっきの不格好なパンチより圧倒的にマシじゃないか」

フェイは斬撃をかわしながら笑った。


「それはどうも。お礼に一発切らせなさい!」

アルベティーナは枝を高く上げ、そのまま振り下ろした。


「そいつは出来ない相談だねぇ!」

フェイは横に向かって大きく跳ねた。


空を切ったアルベティーナはすぐさまフェイの跳ねた方向へ枝を薙ぎ払う。


木の枝がフェイの鼻先をかすめる。


ザッという音と共にフェイは着地し、顔をあげてアルベティーナの事を見つめた。


「あんたやるねぇ。意外とこういう経験が多いのかな」

若干驚きが混じった声をアルベティーナに向ける。



(通じてる……! 私の剣が通じてるわ!)


「当たり前。私は百戦錬磨の騎士なのよ」

フンと鼻を鳴らしながら笑い、何もない空間に向かって剣を振りまわし始めた。


「魔物とも何度も戦ったわ。どれもこれも強敵ばかりだったけど、私の敵ではなかったわ」

(頭の中でだけど)

アルベティーナは心の中で付け加える。


「だからあなたなんかに負けないわ」

アルベティーナはビシッと枝をフェイに向けた。



「なるほどね。それじゃあ歴戦の騎士様は口を動かしてないで早く果物を食べてるあたしを止めて、顔面に一発くれてやるべきじゃないのかな」

フェイはヘラヘラと笑いながら果物をかじっていた。


決めポーズをスルーされたアルベティーナからブチッという音が響く。


「そうね……お望み通り終わらせてあげるわ!」

アルベティーナはそう叫びながら駆け出し、大きく跳ねた。


「やあああああ!」

そして掛け声と共に落下の勢いを剣に乗せ、振り下ろした。



「あっはっは。相手が騎士様なら、ちょっとは本気をださないとね」

そう言いながらフェイはニィと口角を釣り上げた。


体を捻りながら後ろに跳ねて斬撃をかわす。

そしてそのまま回し蹴りをアルベティーナの持つ木の枝に放った。


バキッという音と共にアルベティーナの手から木の枝が飛んでいく。


「あっ!」

アルベティーナが驚きの声をあげている間にフェイは回し蹴りの勢いをそのままに回転し、足払いを仕掛けた。


「わっ!」

足の裏に感じていた地面の感触が急に無くなり、姿勢が崩れる。

ドシンッという音をたてながらアルベティーナはしりもちをついた。


「いった~い!」

アルベティーナは涙目になりながら打ちつけたおしりを擦った


「あっはっは!」

フェイはその様子を見ながら大きな声で笑い、果物をひとかじりし、空になった紙袋を放り投げた。



「残念。時間切れ」




フェイはニコッと憎たらしいほど明るい笑顔を浮かべた。





 勝負に負けたアルベティーナはジンジンと痛むおしりを擦りながらフェイの事を睨んだ。


「きょ、今日はちょっと調子が悪かったのよ! 本当ならあなたなんかに負けないわ!」

顔を赤くしながら涙を浮かべ、アルベティーナはへらず口を叩いた。



「そうかい」

フェイはう~と唸っているアルベティーナに近づき、頭をポンポンと優しく叩いた。


「でもなかなかのものだったよ、あんた」

あっはっはと笑いながらアルベティーナの頭を叩き続ける。


なすがままに頭を叩かれるアルベティーナはより一層顔を赤く染め、口を尖らせながらプイッと顔を背けた。


「それにしても果物は美味しかったなぁ。こんな美味しい物を貰ったのに何もお礼をしないなんてのは忍びないな」


「へ?」

マヌケな声をあげながらアルベティーナはフェイに視線を戻す。


「あたしに聞きたいことがあったんじゃなかったっけ?」

「何よそれ。私は戦いに負けたじゃない」

「あぁアレはもちろんあたしの勝ちだからあの勝負に賭けてた質問権は無いよ。でもこれはさっきも言ったけど果物のお礼。さっきの勝負は一切関係なし」


「……つまりあなたは最初から私の問いに答えるつもりだったのね」

アルベティーナはハァとため息をつきながら肩をすくめた。


「つまりそう言うことになるな」


フェイは今までで一番明るく、そして憎たらしい笑みを浮かべた。


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