Parental love
(それにしても、私の大切なものってなんだろう・・・)
それから私達は軽い挨拶をして、各自の城へ戻っていった。
まだ魔法が解けていない門番に門を開けてもら、いざ城の扉をくぐろうとした時だった。
「姫様!お探ししましたよ!」
実に運の悪い事に、ソルテアが目の前の廊下から一直線にこっちにやってくる。
眼鏡をくいっと押し上げて口を真一文に引き締めている従者の姿があった。
「忘れてた。」
思わず舌打ちして回れ右で駆け出しそうになったが、そこは何とかこらえる。あえて何もなかった事にしようと声を明るくして言った。
「月が、その、綺麗ね!」
今日は満月だ。だが流石に無理矢理すぎるかと終始顔がひきつってしまったが、まぁそれは仕方無い。
必死の誤魔化しに答える事もなく、彼はずんずんとこっちに向かってきたかと思うと、いきなり私を抱きしめる。
最初の方こそ驚いたが、それは逃げ出した事への怒りではなく、妹にするような優しいものだった。
「姫様が戻られて良かった・・・。従者として申し上げますが、姫様が幾度ともなく城を抜け出すのは私が厳し過ぎるのではないかと、それで愛想をつかして出て行ったのではないかと毎回心配になるのです。」
そこで彼は一旦言葉を切り、こう続けた。
「思えば、私は姫様を叱ってばかりでした。ですがそれも全て姫様を思っての事。」
そんな事はとっくに分かっている。何故彼は今更そんな事を言うのだろうか。
「私は・・・アンドレーヌ様を姫様に重ねすぎたのではないかと反省しておりました。」
アンドレーヌとは誰なのか、前も従者をやっていたのか、何故今それを言うのか。疑問は沢山あったが、どれも声になる事はなかった。
その代わり、5年一緒にいて初めて自分の心情を明かしてくれた私の従者の言葉に耳を傾ける。
「もう誰も失いたくない、というのは私の単なる我儘かもしれません。ですが、姫様だけは・・・あなた様だけは居なくならないで下さいませんか。」
しばらくの沈黙があった。ただ、彼の温もりを感じている今は、不思議と居心地の悪いものには思えなかったように感じる。