Tell the truth
彼は少し驚いたような顔をしたかと思えば、またニィッと笑う。
「へぇ、交渉成立だね。」
「本当に支援を止めてくれるんでしょうね?」
「ああ、勿論。ついでにそっちの国についてあげるよ・・・特別サービスさ。」
私は眉を顰めた。彼は昨日そんな事言ってない。
「どうしてよ。あなたにそこまでされなくても・・・」
正確にはあなたの国に、なのだが。するとディルはまるで分かってないという風にゆるやかに首を横に振った。
「君の国の為じゃない。仮に考えてみてくれ、今まで支援されてた国から急に支援がされなくなったら、どう思う?」
そこでハッと気が付いた。
「裏切られた、と、思うわ・・・」
「そ、だからそっちのストレーマについた方が賢明って訳。」
彼の言葉を脳内で咀嚼しながら、徐々に思考をクリアにする。
「でも、どうしてうちの国にその話を持ちかけたの?大切な物を奪うって・・・それだけでこっちについてくれるなんて何だかずるいじゃない。」
ディルの顔はフードで見えなかったが、きょとんとした雰囲気を感じ取れた。
そしてすぐに笑い声を漏らす。
「ははっ!それだけ、ねぇ・・・」
彼はいきなり顔をずずいと近付け、またニィと笑う。
ディルの金色の瞳が見える程まで近付かれ、思わず仰け反ってしまった。
「な、何?」
「あのね、君は全然ずるくないんだ。むしろ不利だったぐらい。」
「え・・・?」
今度はこちらがきょとんとする番だった。
「他の国にも聞いたよ。主にこっちと敵対関係にある情勢の厳しい国にね。あんたとは違って有能な姫や王子ばっかりだから、シャトラが支援を止めるだけでなく自分の国の味方につくっていうのも分かってたはず。それでも皆、答えはNoだったよ。何でだろうね?」
彼はスッと離れ、何とは無しにフードを取る。
その顔は月明かりに照らされ、切れ長の瞳はまるで月が2つ並んでいるようだった。
「自分の一番大切な物を奪われたくないんだ。何か分からないから、余計にね。人間は目に見えない物に対して異常な警戒を見せる。姫や王子って言っても、結局は十代のガキ。国より保身に走るんだよ。大人でもそんな奴はうじゃうじゃいるけどさ。」
今までヘラヘラ笑っていたにも関わらず、ふと寂しげな表情を見せる。
見とれてしまっていた。はらりと舞い落ちた桜の花弁が、頭に付くのにも気付かぬ程に。
そんな私を見かねたディルは、苦笑しながら花弁を取ってくれる。
「まあ、俺も一番最後に聞いた馬鹿なストレーマの姫がまさかOKするとは思わなかったけどさ。そういう訳で、最後に聞かれた分あんたは不利だったって訳、お分かり?」
何だか色々貶された気がするが、もうこの際気にしない事にする。
正気に戻った私には、まだ聞いておかなくてはならない事があるのだ。
「それは、まあ分かったわ。じゃあついでに、あなたがシャトラの国でどういう位置にいるのか教えてくれない?いつもはぐらかしてばかりじゃない。」
この世界で魔女や魔法使いは忌み嫌われている。支援を止めれる程偉いというだけでも凄いのだが、彼は一向に身分を教えてくれない。今もニヤニヤ笑っているだけだ。
一歩も引かない、とに睨みつけていると、少ししてディルは降参という風に手を挙げて話し出した。
「王子だよ。」
言葉を理解するにはしばらくの時間を要したように思える。
ようやく理解し終えた頃には、深夜の街中という事を忘れて大声で反論せずにはいられなかった。
「だって王族なら順当に子供を産むから魔法使いにはならないはずで、そもそもそんな事が許される訳・・・!」
彼は私の反論など意に介した様子も無く、緩慢な動作で私の唇に人差し指をあてた。
「あんまり大声で言う事じゃ無いよね?」
すっと背筋が冷える。
いつもの彼と変わらないはずなのに、殺されるんじゃないかと思わせる威圧感がそこにはあった。
人差し指が離れた次の瞬間、ふっと空気が緩むのを感じる。
「もし俺が隠し子だとしたら?」
そして、重要な事をまた事も無げにさらっと口にした。
顔がこわばるのを感じる。
「まさか、本当に王子なの?本当にシャトラ国第一王子?」
「そうかもね?」
形こそ疑問形だが、返ってきたものはほとんど肯定に近かった。
(こんなのが王子だなんて・・・眩暈がしてきた)
かくいう私もあまり言えないが。