Boy called ...
「やって欲しい事とメリットはメモしといたから宜しくー!」
彼女の声に返事する余裕も無く、周りにどこか掴まれる所が無いか探す。なんて言ったって私の部屋は3階、そこから落ちたらひとたまりもない。
運良く傍に植えてあった木の幹にしがみつく。
ズル・・・ズル・・・
引きこもっていた私に腕力なんてあるはずも無く、重力に従いながら少しずつずり落ちていった。
「ふう・・・」
ズルズルと落ちるのを繰り返して、やっと地上に着いた。
恐らく突き落とされてからあまり時間は経っていないだろうが、腕の力を維持しながら少しずつ落ちるというのはかなりの神経を必要とするらしく、長時間木の幹に掴まっていたような気がした。
腕も足もヒリヒリする。
これから私はどうすればいいんだろう。そう言えば、さっきオルヴァンがメモがなんとかとか言っていたような・・・?
思考を巡らせている私の鼓膜に、予想だにしない声が響いた。
「姫!」
視線を上にあげると、私の自室の窓からサラサラの金髪をなびかせて、元従者が飛び降りてきていた。不安を煽る様子に心臓がきゅっと痛くなる。
「元従者さんっ!?」
彼は私の心配を余所に、3階から飛び降りたとは思えない程綺麗に着地した。
地べたに座り込む私を見下ろしながら、彼が尋ねる。
「あなた、これからどうするつもりですか?」
「どうするってどういう事?メモを用意したって言っていたから、まずはそのメモを探してその通りに行動するつもりよ。」
そう言うと彼は、その綺麗な顔に明らかな侮蔑を浮かべて懐から白い紙を取り出した。
「これはあの女から奪い取ってきたものですが・・・正気ですか?あんな仕打ちをされて、よく自己中鴉の為に行動出来ますね。実質城から追い出されたようなものじゃないですか。あなたの前頭葉は腐敗しているんですか?」
「一言多いわよ!オルヴァンも城を追い出されて困っているんでしょう?それなら力を貸さないと悪いじゃない。」
彼は嫌な表情のまま、渋々紙を渡してくれる。
そしてぽつりと零した。
「何も知らない今のあなたに言っても無駄かもしれませんが、行き過ぎたお人好しは身を滅ぼして・・・いつか取り返しがつかなくなりますよ。」
まるで過去を振り返るかのような、重い口調だった。
(記憶削除を無理にかけられたので自立性の欠如が顕著に見られるのは分かりますが・・・鴉の言われるがままなのは見ているこっちが苛立ちます。)
何も知らないとはどういう事だろう?世間の事を分かっていない子供、というのとはまた違うような気がする。
口を開いても言いたい言葉が出てこず、歯痒い気持ちで口を閉じた。
「・・・いつまで座り込んでいるんですか?早くそのみっともない姿を晒すのをやめてください。シャトラに行くんでしょう?」
私は言われたままに立ち上がると、土埃を払って彼に近付く。
「元従者さんも着いてきてくれるの?」
「着いて行くんじゃありません。あなたに毒殺しようとした事を話されると困るので監視するんです。・・・あぁ、もうあなたを殺める気はありませんので、安心してください。」
彼はどうでも良さそうに言った後、前を向いた。
「・・・後、僕の事は悠と呼んでください。元従者さん、などと呼ばれると不快で吐き気がします。」