Forcible
「アタシの代わりにシャトラに行ってほしい。」
まるでちょっとそこのティッシュを取ってほしい、と言っているかのような軽い口調に一瞬承諾しかける。
私が反論するより前に発言したのは、不機嫌そうな従者だった。
「何を考えているんですか?・・・まさか、あなたの呪いを解かせる為に動かすんじゃないでしょうね。」
「動かすなんて人聞きの悪い事を言うなよ!アタシはちゃんと両方ハッピーになるからこそ提案しているのさ。」
オルヴァンは少々大袈裟な動作で立ち上がると、人懐っこそうな笑みを浮かべたままこちらに近付く。
思わず、右足を半歩後ろに下げた。
「な、何・・・」
そういえば、前にもこんな事があったような気がする。
あれは・・・確かディルが面白いと言ってずずいと顔を近付けてきた時だ。シャトラの国の者は他人に近付くのが好きなのだろうか?
どうでもいい事を考えている間にも、距離は更に縮まっていた。
「んな怯えんなって。アタシが、ディルに鴉になる呪いをかけられた話はしたろ?これ、夕方だけは呪いの力が弱まって人間になれるんだ。だから今は人間の姿でいる訳なんだけど・・・おい、聞いてるか?」
思考の海から引っ張り出されたような気分で、改めて彼女の言葉に耳を傾ける。
また距離が縮まっていたので、そっと後ろに下がった。
「もしかして聞いてなかったろ?」
彼女が1歩前に出る。
私が1歩後ろに下がる。
「はぁー・・・何か話す気失せたわ。」
彼女が1歩前に出る。
私が1歩後ろに下がる。
「考え事をしていてごめんなさい。もう一度話してくれな・・・」
1歩前に出る。
1歩後ろに下がる。
「出来れば合意の上の方がやりやすいかなーって思ってたけど、いいや。」
1歩前に出る。
1歩後ろに・・・
ガシャン!
背中が窓についた。何故か心臓が警鐘を鳴らしている。
・・・ここの窓は、私よりも大きいものでは無かっただろうか?
「どうせアンタに拒否権とか無いし、一々説明してやる必要も無いじゃん?」
ゴウッ
風で髪がなびいたと思った時には、私は既に空中に突き飛ばされていた。