最終話
医者にはまた来るように言われたが、彼は次の日病院に行かなかったらしい。
まだまだつづきそうな雰囲気のまま物語は次の章に突入した。
「その後、彼は一度も病院にこなかったんですよ。」…とそのセリフから新しい章は始まった。
私はいきなりの展開に驚きを隠せなかった。その一言は、彼が死んだことを表していたからだ。
どうやら彼の担当だった医者と他の医者との会話らしい。
「よくあるパターンですな。」医者なのだから、もう慣れたものなのだろう。
「いつ……なくなったんですか?」それでもよくあるパターンだからこそしりたかったようだ。
「久しぶりに病院に来てから、一週間後ですよ。ちゃんと病院に来てくれればよかったのに。」
「まぁ…それすら困難だったんでしょう。」
それからしばらく2人の会話はつづいていく…そして…。
「彼を発見したのは、連絡がつかなかったから様子を見にきた母親だったらしい。電話に出なかったから不安になったそうだ。
家族だから合鍵を持っていたんだろう。インターホンをいくら鳴らしても出ないから、勝手に入ったんだ。
そしたら…リビングに彼がいたらしい。首をつるでもなく、リストカットをするでもなく…ただ座っていた。だから最初は死んでいるなんて思いもしなかったそうだ。
近づいてよく見てみると、彼は呼吸をしていなかったし…もうかなり……腐っていたらしいんだ。
死んだのは一ヵ月前だったって話だ。」
………………………………部屋のドアがノックされている。きっとお母さんだ。それはどんどん強くなる。私の名前を呼んでいる。
返事をしなくちゃ。――――いるよ。どうしたの?なんでそんなに慌ててるの?……なんでドアを壊そうとしてるの?
私の声が聞こえてないの?お母さん……ほら、わかったでしょ?私生きてるでしょ?座ってるだけじゃない。
そんな悲しそうな顔をしないで……泣かないで!
私はまた生きてるでしょ?
お母さんの叫び声が聞こえる。どうやら私の声は聞こえていないらしい。
……そうか。私は死んでしまったんだ。精神がおかしくなってしまったんだ。そう………ちょうど、彼のように。