第3話
「すみません。…今日も行けません。明日は、明日は行きますから。」
受話器を持つ彼の手はひどく震えていた。
「そう言って昨日も来なかったじゃないですか。」
病院の受け付けの言葉をさえぎり、電話をきった。
ついに、病院に行くのさえままならない。彼は大きくため息をつき、布団に寝転がった。
昨日と…いや、もう一週間近くこんな生活が続いているようだ。医師の話では一ヵ月彼は病院に来なかったとある。
もちろん患者が病院に来なかった間のことなんて『彼』以外詳しいことはわからないのだ。
そのため、話は一ヵ月後に飛んでいた。
__一ヵ月後。
患者さんがやっと病院に訪れた。医師はどうして彼が病院に来なかったのか、理由を尋ねた。
「お久しぶりですね。…どうしてたんですか?」
「ずっと、家にいました。」
「ずっと…ですか?」
「必要なとき以外は…。」医師は腕を組んで考える素振りをみせる。
「今日はどうして来ようと思ったんですか?」
「…なんとなく、です。たまには、いいかな…と。薬もきれていたんで。」
薬がきれていなければ、彼は今日ここにきていなかっただろう。もう自分ではどうしようもなくて、自分に鞭打ちながらここまで来たのだ。
「薬ですね。出しときます。…最近はどうですか?何か変わったことはありますか?」
「いえ。何も。何も変わりません。いつもと同じです。変わらず…平凡で。それで。」
そこまで言って彼は黙り込んだ。医師はそのことを深く追求せず、そうですか。それはよかった。と言って診察を終えた。
このとき。医師は診察をしていて感じた不安を診察書に書き留めていた。
彼は今危ない状態。精神が非常に不安定で、何も変わりのない平凡な毎日を生きることに、不満を感じているかも知れない。
……と。
この医師の判断で、彼は薬をもらうときに、「明日また病院に来てカウンセリングを受けてください。」と言われた。
また明日も病院に来なければならない。それは彼にとって面倒なことこの上なかった。
……………………。
死ぬはずがない。そう信じて読んでいたけれど、彼は医師に危険な状態にあると言われている。
このまま死んでしまうのか?…続きが気になり、私はまた本の中の世界に入り込んだ。