6,ブリッジ魔王に会う
道しるべのように泥が点々と残っていたため追跡は非常に容易だったと言わざるを得ないだろう。
もっとも彼の108の技を駆使すればサキュバスが例えどれだけうまく痕跡を消そうとも無意味ではあったが。
彼らが行き着いた場所は森の中に隠れるようにして建っている砦だった。
だが門には門番も居らず、手入れもされておらずきちんと閉まるのかも疑わしい。
「うむ。なっていない」
「ずいぶんひどい砦だねぇ」
砦に関しては素人のジュリィにすらそう言わしめるほど砦は酷いありさまだ。
門だけでなく、砦を囲んでいるはずの石壁も所々に大きな穴が空き、最早その機能を果たすことは不可能だと思われるほどだ。
これでは砦としては3流以下だ。
サキュバスの逃走の痕跡は点々と砦の中へと続いている。
彼女が逃げ込んだのは明らかだ。
そして先ほどの捨て台詞が正しければ魔王さまと呼ばれる存在がいることになる。
ジュリィはオークであるが、魔王と呼ばれる存在にあったことはない。
「人種」以外の魔族と呼ばれる種族の王が魔王だ。
だがジュリィはオークの中でも異端であり、その元いたオークの村落ですら魔王にあったことがあるものはいなかった。
現在魔族と人種は戦争状態にあるが、お互いの領土の境に深い渓谷がありそこで支配地が別れていることから膠着状態になっている。
小競り合い程度の争いはあっても大規模な戦闘というものはここ数百年なかった。
だが彼らがいるのは人種の勢力圏内である。
そんな場所に魔族の王である魔王がいるということはつまり、大規模な軍勢がいてしかるべきだろう。
しかし現実には目の前の砦の朽ち果て具合、ほとんど気配がしない点からも軍勢がいるようには思えないのだった。
「うむ。行ってみるか」
「旦那、大丈夫かな?」
「うむ。問題あるまい」
彼の自信は確固たるものだ。そのあまりの堂々とした態度にジュリィは頼もしさと共に更なる愛を深めるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「――というわけなんですよ、魔王さまー!」
「ふーむ……」
砦の中にある会議室のようなところでは泥だらけのサキュバスから魔王と呼ばれた存在が報告を受けていた。
だが部下の報告に魔王と呼ばれた存在の返事は渋い。
「……あれが魔王さま……?」
「うむ。そう言っているな」
そんな彼女達を覗き見ているのは当然サキュバスを追ってきた彼らだ。
108の技の1つ「のぞ~きはEye」を使っているため気づかれることはまずない。
「とにかくあのビッチオークをぎったんぎったんにしてやってくださいよー!」
「まぁ落ち着くのじゃ、サキュバス。
妾もお主の敵を討ってやりたいところじゃが、サキュバスより強いんじゃ無理じゃないかのぅ」
「そんなこと言わないでくださいよ、魔王さまぁ~」
縋りついて来るサキュバスに泥だらけにされつつも魔王は困り顔でなだめている。
どうにも魔王の威厳というものが些か足りなさ過ぎる感が否めないが、それでもサキュバスは魔王を魔王として慕っているようだ。
「誰がビッチじゃー!」
「うむ」
「うぎゃービッチがきたー!」
「わわわわわ、びっくりしたのじゃー!」
サキュバスのビッチ発言にワナワナと震えていたジュリィが我慢できずに突入し会議室のような部屋は一気に騒がしくなる。
サキュバスは魔王に縋りついていたのでそのままジュリィから退避するように魔王の背後に隠れるように移動する。
すると露になる魔王さま。
真っ赤なボンテージファッションは所々に泥がついてしまっているが健康的な肌はその対比でより美しくさえみえる。
つるっとしたお腹にはくびれもなく見える臍は完璧な表情を見せる。
寸胴のようなまっ平らな胸は整地された平原を闊歩するがの如く凹凸がない。
短い手足は柔らかそうなきめ細かい肌が健康的で驚いたポーズのまま口元に当てた小さな手が大変かわいらしい。
ウェーブのかかった水色の髪も大きな瞳も、小さな鼻も大きく開けられた口も全てが整っていてパーツ単位での美しさもさることながら、その全てが調和した時の麗しさは天上の如く限界を知らないだろう。
そう……魔王さまはどこからどう見ても、幼女だったのだ。
「うむ。ナイスイカっ腹。ナイスヘソ」
「なななななな、ハレンチじゃこいつ!」
魔王さまが彼の言葉に顔を真っ赤にしながら自身のへそを隠そうと手で押さえるがその仕草は超絶に可愛らしく、彼はとても満足げだ。
そんな魔王さまの仕草を堪能した彼は聞かなければいけないことをさくっとずばっと聞くことにした。
「うむ。なぜ魔王がこんなところにいる?」
「お、恐れ多いぞ人間めっ!」
「あぁ!?」
「ひぃ」
おへそを隠す魔王さまの後ろに隠れながら発言するサキュバスにジュリィの一喝が飛ぶと泥だらけの顔を青くしてガタガタと震える様にまた隠れてしまう。
そんなサキュバスの様子には目もくれず彼は一直線に魔王の瞳を捉える。
彼の視線から何かを感じ取った魔王はおへそを隠すのをやめると可愛らしかった空気が一変し、威厳のある空気を一瞬で纏うと鋭い視線を彼へと向ける。
「妾は和平を結ぶ為に来たのじゃ!」
「わへー?」
「うむ。戦争を終わらせるということだ」
「へー」
ジュリィにとってまったく興味が沸かないことだったが、魔王の醸し出す威厳を前にサキュバスは平伏してしまっている。
だが当然彼にも、彼の恩恵を知らずに受けているジュリィにもその効果はない。
「うむ。それでどうやって?」
「そ、それは……わ、妾が行けば解決だろう!」
「うむ。殺されるだけだな」
「殺されるねぇ」
「な、なぜじゃ!?」
どうやら見かけ通りにこの魔王さまは頭が幼いらしい。
ジュリィは呆れてすでに飽きてきている。
だが彼はそんな魔王を変わらぬ真摯な瞳で見つめる。
その瞳に魔王も真剣に返し、彼らの間で物言わぬ時間が幾ばくか過ぎた頃、ふと魔王が口を開いた。
「任せる」
「うむ。任された」
常人には計り知れない何かにより2人の間で合意がなされ、魔族の王たる魔王さまから108の技を持つブリッジャーである彼への依頼が交わされたのだった。
ナイスイカっ腹。
ナイスおへそ。
次回
最終回。
ブリッジ異世界に架ける橋。




