五 「完結編」 検索欄に残った名前
大人になってから、彼からSNSの友達申請が来たことがあった。
通知を見つけた時は、心臓が跳ねるくらい驚いた。
卒業してから何年も経っていたのに、ちゃんと私を覚えていてくれたんだと思った。
でも、結局それだけだった。
少しやり取りをするでもなく、何かが始まるわけでもなく、時間だけが過ぎていった。
そしてまた、何年も経った。
大人になってからも、彼は時々夢に出てきた。
中学生の頃のままの姿で、笑っていたり、こっちを見ていたり。
だけど夢の中でも突然彼がいなくなる。
同じ学校にいるはずなのに彼の姿だけ見えなくなる。
いつも私は彼を探していて、途中で目が覚める。
ただ、胸の奥だけが苦しく残る。
夢を見るたびに、今どうしているんだろうと思った。
もう会うことなんてないのかもしれない。
それでも、もう一度だけ話してみたい。
そんな気持ちが消えなくて、私は久しぶりに彼を探してみることにした。
卒業式の日にもらった手紙は、今でも引き出しの奥にしまってある。
捨てられなかったというより、大切な思い出として残っていた。
私は昔使っていたSNSのアカウントを開いた。
懐かしい名前。
昔のまま残っている友達一覧。
だけど、その中に彼の名前はなかった。
あれ。
何度見返しても、やっぱりない。
消したのかな。
アカウントを変えたのかな。
気になって、新しくアカウントを作って探してみた。
名前を入れて検索する。
漢字を変えたり、ひらがなにしたり、思いつく限り探した。
でも、彼らしい人はどこにも出てこなかった。
結婚して名前が変わったのかなとか、SNSをやめたのかなとか、そんなことばかり考えてしまう。
それでも諦めきれなくて、私は兄に聞いてみることにした。
兄と彼は、中学の頃同じ部活だった。
もしかしたら、今も少しくらい繋がりがあるかもしれない。
そう思ったら、胸が苦しくなるくらい期待してしまった。
でも、本当に聞いていいのか迷った。
今さら昔好きだった人の話なんて、恥ずかしい。
それでも勇気を出して、私は兄に打ち明けた。
「実は昔、さっちゃんのこと好きだったんだよね」
すると兄は、驚いた顔で笑った。
「え? 好きだったの? 全然知らなかった」
私は笑いながら返事をしたけれど、本当は少しだけ期待していた。
「そういえば当時、さっちゃんがゆきのことこんなふうに言ってたよ」
そんな話が聞けるんじゃないかって。
兄なら、なんとなく気づいていたと思っていたから。
あんなに毎日目で追っていたのに。
卒業式の日だって、あんなに必死だったのに。
でも兄は、本当に何も知らなかった。
その瞬間、ふと思った。
じゃあ彼も、兄には何も話していなかったんだ。
兄と彼は同じ部活だったのに。
もし彼が私のことを話していたなら、兄も少しくらい知っていたはずだから。
もしかしたら彼も、自分の中だけで、あの頃の気持ちをしまっていたんだろうか。
そんなことを考えてしまった。
そして私は、できるだけ平気そうに聞いた。
「今って、連絡とか取ってないの?」
本当は、どうにか繋がっていてほしかった。
今でも連絡を取ってるよ、と言ってほしかった。
もしかしたらまた、彼と繋がれるかもしれないって、心のどこかで強く願っていた。
だけど兄は、少し困ったように笑った。
「もう全然連絡取ってないなあ」
連絡先も知らないし、どこで何をしているのかもわからないらしい。
そうなんだ。
私は何でもないふうに頷いた。
兄に聞いても、SNSで探しても、結局彼は見つからなかった。
それでも会いたかった。
どうしても、もう一度だけ話したかった。
さっちゃんって呼びたいのに。
振り向いて笑って欲しいのに。
だから今は、街を歩いている時に
偶然すれ違わないかな、とか。
天気がいい日に空を見上げると、
彼も今どこかでこの空を見ていたりしないかな、
とか。
そんなことばかり考えてしまう。
同じ地元にいるのかどうかもわからないのに。
それでも私は、何か少しでも彼と繋がっていると思いたかった。
スマホの検索欄には、最後に入力した彼の名前だけが残っていた。
もうこの先、彼と繋がることはないのかもしれない。
そう思ったら、あの頃の思い出だけが、少し遠くへ行ってしまった気がした。
それなのに――。
卒業式の日にもらった手紙だけは、今でも手元に残っている。
手紙だけは、こんなにも近くにあるのに。
彼への気持ちを整理したくて書き始めた物語でした。
でも、書けば書くほど、あの頃の記憶が蘇り、届かなかった想いや、どうしたってもう会えない寂しさを痛感してしまいました。
彼があの時、私のことをどう思っていたのかは分かりません。
それでも、少しでも私のことを気に掛けていてくれたなら、それだけで幸せです。
彼に出会えたこと。
こんなにももどかしくて、だけど確かに幸せだった気持ち。
私はきっと、これからも忘れません。
この物語はここで終わります。
それでも私は、これからもふと彼のことを思い出し、時々探してしまうのだと思います。
彼がどうか幸せであってほしい。
ずっと笑顔が続いてほしい。
ただ、それだけです。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。




