呪い
メウと別れたルーナが城へ戻ると、ロクデムが近寄ってきた。
「ルーナ、すまないね。先に戻ってしまって。遠征の打ち合わせを忘れてたんだ」
「いえ、むしろ、お忙しい中、付き合ってくださってありがとうございました」
「いや、醜態を晒しただけだよ。子供に振り回されて恥ずかしい」
「みんな喜んでましたよ」
「だといいな」
ロクデムは右手で頭を掻くと、手のひらに小さな擦り傷が見えた。ルーナはロクデムの手を取る。
「ロクデム様。お怪我を……」
「え、ああ。子供たちを追い回してる時に転んだ時のやつかな」
「よく洗ってくださいね」
ルーナは心配するふりをして、ロクデムの手をさすり、指輪を重ねた。
「………」
「ん、どうしたんだい?」
「いえ、なんでもありません。では、私、シサヤに呼ばれているのでもう行きますね」
「ああ、わかった。またね、ルーナ」
ルーナは手を振り、その手を握り締めた。指輪は熱を帯び、宝石の中で紫の光が渦巻いていた。
「あれを殺せばルーナは目覚める」
氷の天使はほくそ笑んだ。
その夜。
気配を殺してルーナはロクデムの自室へ向かっていた。
さっさと殺してしまいたいが、心配事がある。
人殺しの記憶をルーナに与えてしまう可能性。
それだけが気がかりだった。
まずはいつでも殺せる状況を作っておくべきか。
その為にはロクデムの行動をある程度把握する必要がある。
ロクデムの部屋に近付いたルーナは適当な空き部屋に入り、窓から外へ出る。ロクデムの部屋を外から観察したかった。壁伝いに移動していると、ロクデムの声が聞こえ始める。
ルーナは気配を消したまま、近付いていく。どうやらロクデムは、自室のバルコニーに出て誰かと話しているようだった。
バルコニーにはロクデムの姿しか見えないが、もう一人、どこかで隠れながら会話をしている。
「本当にいいんですね」
「ああ」
「わかりました。では、準備を進めます」
ルーナは「依頼」の話だと理解する。
「これであいつは消え、俺の計画は進む。何が記憶喪失だ、面倒を増やしやがって」
ロクデムは苛立った口調で悪態をつく。
「隣街の若いやつに襲わせる話は流れたんですか?」
「いや、あいつらは別の仕事を頼んだ。今頃、うるさい子供を黙らせてるさ」
「子供?」
「俺を馬鹿にした奴らがいたんだよ。少し痛い目に遭わせてやろうと思ってね」
ロクデムの言葉を聞いた瞬間、ルーナはその場を離れた。今すぐ外道の首をへし折りたかったが、請負人が消えるまで待つ時間が惜しかった。
ルーナはシサヤの部屋の戸を叩く。
「ルーナ様?」
すぐに出てきたシサヤの部屋を見ると、机に本が開いてあった。
「シサヤ、夜遅くにごめんなさい」
「いえ、読書をしていたので。それよりどうされましたか」
シサヤは笑顔で対応する。
「孤児院に賊が向かっているようです。バルコニーで涼んでいたら、そのような話が聞こえてきました。誰かに頼んで様子を見てきてもらえませんか?」
ルーナの言葉にシサヤは笑顔を消した。
「それは一体、いえ、今は急ぎですね。私の知り合いが今日の当直なので声を掛けて頼んできます。ルーナ様は部屋に戻っていてください」
「ありがとう・・・・・・!」
「いいんです。何もないと良いのですが」
「ええ。ではお願いします」
「着替えたらすぐに。どうせ暇をしているので喜んで見に行ってくれますよ」
シサヤはそう言うと頭を下げ扉を閉めた。瞬間、ルーナは走り出す。




