運命の恋~キャティシーナとケトリーナを巡っての考察~
ああ・・・これは、運命の出会いだ。
舞い上がる白い花弁。
風にふわりとたなびく栗色の美しい髪。
振り返った彼女の、チョコレートのような甘くつややかな色の瞳。
目が合った途端に、私の隣においでになったミヒャエル殿下と彼女、エリカ様は、まるで時が止まったかのように動きを止めたのである。
困ったようなミヒャエルを見て、エリザベスは思った。
殿下は・・・、恋をなさったのね。
*
「殿下、エリカ様に恋をしておいでですね?」
二人が婚約をした5歳のころから行われているお茶会で、エリザベスは尋ねた。
鋼の要塞と呼ばれる公爵家の庭。
二人の話はどこへも漏れたりしない。
だから、彼女の婚約者であるミヒャエル王太子は素直にうなずいた。
「うん」
エリカ様は侯爵家の3番目のご令嬢である。
家は長兄が継ぐことが決まっている。
どんな道も選べるようにと、小さなころから国外へ留学をしていたと聞く。
ゆえに、先日行われた王家主催のティーパーティーがこの国の行事初参加だったそうだ。
「目を奪われてしまった」
同性の親友にでも話すように、ミヒャエルは言葉を続けた。
「分かりますわ」
エリザベスは婚約者が他の令嬢に恋をしてしまったと聞いているのにも関わらず、穏やかに同意している。
「これはまさに、私の家の<キャティシーナ>と<ケトリーナ>です」
「キャティ・・・ああ、君の家の猫たちのことか」
「ええ」
キャティシーナは丸いフォルム、毛足はほわほわ庇護欲をそそる猫。
ケトリーナは細長いフォルムに、毛足はさらさらと上品な猫であった。
「ケトリーナは私に似ております。親近感があります」
「エリザベスはキャティ派だと公言していたな」
「そうなのです!どちらも大好きですわ。でも、ケトリーナは同志になってしまう」
ケトリーナは後から来たキャティシーナをそれは可愛がっている。甘えん坊のキャティシーナはエリザベスとケトリーナ両方から溺愛されていた。
「恐れながら、殿下にとって私はケトリーナ。エリカ様はキャティシーナなのです」
「・・・そうかもしれない」
エリザベスを嫌いなわけではない。
むしろ何でも言い合えるもっとも近しい友のようですらある。
しかし、女性として熱い思いを抱いたことはなかった。
「殿下にそのような方が現れた事、またそれがあのように優秀でお可愛らしいご令嬢であったことお慶び申し上げますわ」
「エリザベスにそう言ってもらえると、嬉しいが」
和やかな空気が流れたと思われたその時、
「け・れ・ど」
エリザベスは口調を変えた。
「あの子たちは<猫>です。私とエリカ様は人であり貴族。ましてや殿下は将来王国を背負って立つお方です」
お分かりになりますわね?友から貴族として生きる女性の顔になってエリザベスは問うた。
「分かっている」
ミヒャエルは静かに答える。
「私は王太子を退こうと思う。王位継承権の破棄をして第二王子へ王位を継いでもらう」
第二王子もその婚約者もとても優秀だ。
「ご立派でございますわ、殿下」
王妃になることが小さな決まっていたエリザベス。ここへきて婚約がなくなれば、彼女の立場は不安定になる。
「でも、いいのか?君は」
ひょっとしたらエリザベスは自らが正妃、エリカ嬢を第二妃にと言うかもしれないと思っていた。
「そうですわね、新しいお相手がいらっしゃれば大丈夫ですわ」
予想に反してエリザベスはけろりと言った。
「王弟のマクシミリアン叔父様を紹介しようと思うんだ」
用意周到な殿下である。
「マクシミリアン様、ですか」
マクシミリアンは表舞台に立つことを望まず、公の場へ姿を現すことはなかった。公爵家の令嬢であるエリザベスも会ったことはない。
ミヒャエルは白いレースに包まれた絵姿をすっと手渡した。
「・・・・」
見入るエリザベス。
しばしの沈黙の後。
「大ッ変、結構ですわ殿下」
声がワントーン上がっていた。
気のせいか肌の色つやも増した気がする。
彼女の表情を見たミヒャエルがぽつりと言った。
「エリザベスにとって、叔父様がキャティシーナであろう?」
エリザベスは無言で頷く。
そして、どちらからともなく、親指を空に向け立てて見せたのであった。
*
その後、エリザベスとミヒャエルの婚約は白紙になった。
王太子の地位を退いた後、半年の謹慎期間を経て伯爵位と小さな領地を授かり、ミヒャエルはエリカへ求婚をした。
エリカはその申し出を受け、二人は晴れて伯爵夫妻となったのである。
そして、エリザベスはというと。
特に謹慎期間もなく、王家からたんまりと報奨金を受け取り、キャティシーナとケトリーナを連れてさっさと王弟マクシミリアンの元へと嫁いだ。
マクシミリアンはエリザベスより7つ年上であったが、童顔でとてもかわいい顔をしていたという。
おわり。




