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第二話

『──行方不明になったのは、███』


 テレビの音が現実に引き戻した。晃琉はいつの間にか、自宅のリビングに座っていた。ニュースで話題になっているのは、すぐ近所である。


 何していたんだっけ? と、考えて思い出すことができない。諦めて、これから何するんだっけと考える。


「あぁ、そうだ……学校だ」


 嫌だなぁと大きくため息を漏らす。

 行ったところで、どうせいじめられるだけだ。先生に相談しても見て見ぬふり。状況は変わらない。


 親には言えない。経済が苦しく、ほぼ家に帰ってこないからだ。


 目玉焼きにお箸を入れつつ、ぼーっとする。流れる黄身を見つめていたところで、気がついた。

 いつもは朝ごはんは食パンを軽く焼くだけで済ませている。しかし、今日は目玉焼きにウィンナー、トーストにと少々豪勢だ。


 もちろん、晃琉自身が作った記憶はない。“だったら、誰が作ったのか”?


「気がついてよかったの」

「うわぁ!?」


 唐突に聞こえてきた声に、驚いて立ち上がった。


 向かいにいつの間にか少女が座っていた。今日の夢の中で見たあの女の子だ。

 彼女は晃琉のことを見ると、ムスッと頬を膨らませる。


「そんなにあからさまに驚かれると、傷つくの」

「き、き君はだれだい!? なんで、僕の家に入っているんだ!?」

「あんなに激しいことしておいて、ひどいの」


 彼女はわざとらしく頬を赤く染めると、見せつけるように体をくねらせる。しかし如何せん見た目が幼く、魅力的には映らない。

 それよりも、勝手に家に上がり込まれていることのほうが今の晃琉にとっては致命傷だった。


 もしかして、無意識のうちに誘拐した? そこまで自分は追い詰められていたのか?

 頭の中で、少年Aとして雑誌に載ってる姿を思い描く。


「僕の人生終わった……!?」


 頭を抱えて騒ぐ晃琉に、少女はため息をついた。


「ま、ある意味終わったと言えるけど、お前が思っているようなことはないから安心するの」

「……ど、どういうこと?」

「記憶が混濁してるようだから、思い出させてやるの」


 彼女が顔を近づけてくる。やけに距離が近い。

 何故か目を離せないでいると、少女の手が晃琉の目を覆う。


 脳に電流が走るような感覚を受けた。思い出したのは、昨日の廃ビルでの光景だ。

 あれは夢ではなかったと、告げている。


 記憶のフラッシュバックが終わると、少女──エルは元の位置に座っていた。


「じゃあ……君は悪魔?」


 その言葉に、彼女は頷く。


「僕は悪魔と契約したのか?」


 その言葉にも、彼女は頷く。


「つまり、魂を取られたり地獄に送られたりする?」

「何その時代錯誤の価値観……。そんなことは、悪魔の間では禁じられてるの」

「……だったら契約って何?」


 その言葉に、ビシッとエルは指を差す。


「下級悪魔を倒して、私へ贄を捧げることなの。それ以上はいらないし貰っても困るだけなの」

「下級悪魔?」


 考え、廃ビルの中で襲ってきたあいつらかと、思い出した。

 晃琉は少し考えて、首を横に振る。


「無理無理無理! 僕には無理! だって僕はただのいじめられてる高校生だよ!?」

「……なっさけないの。普通、男子高校生なら力を手に入って暴れてやるぜ! 的な気概はないの?」

「何その危ない考えの人!?」

「少なくとも、いじめられてる奴らに仕返ししてやれるぜ! って思わないの?」


 考え、晃琉はやはり首を横に振る。


「仕返ししたところで立場は変わらないよ! むしろ、もっと“厄介なのに目をつけられる”!」

「ふーん……。やっぱりお前を選んで正解だったの」


 どういうこと? と、首を傾げる晃琉を無視して、エルは椅子から降りた。


 トコトコと隣までやってくると、晃琉のフォークを取る。目玉焼きを切り分けて、一生懸命口元にまで伸ばしてくる。


「……何してるの?」


 冷静に返すと、彼女はフォークを引っ込めて頬を膨らませた。


「せっかく私が作ったからちゃんと食べるの」

「え、これ君が作ったの?」

「当たり前なの。ここに住まわしてもらう以上、最低限やることはやるの」


 その考えは悪魔にしてはどこか礼儀正しさが滲んでいた。

 悪魔も家庭的な時代かぁと考えていると、彼女の言った言葉を思い出す。


「え? ここに住むって?」

「当たり前なの。私と契約を結んだ以上、一定距離離れるとお前の魂は消滅するの」

「…………は?」


 先ほどはそんなこと一言も言ってなかった気がする。

 魂の消滅という言葉を聞いて、きっと死ぬよりも恐ろしいことなのではと浮かぶ。


「……冗談ですよね?」

「契約のことに関しては冗談なんか言わないの。ほら、おいしく作ったんだから食べるの!」


 本当にとんでもない契約を無理矢理交わされたのかもしれない。

 晃琉は頭を抱えながら、クーリング・オフはできますか? と呟いた。

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