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The call of war: Gimle  作者: 牛熊


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8/8

1. Mission 1-8 End

エイナーが投擲した斧はブロックヘッドの脛に深々と食い込んだ。


先程の剣と同様にダメージは与えられているが、これでこの巨体を倒せるはずがない。


それを理解しているエイナーは大きく踏み込んで跳躍すると同時にワイヤーを収縮させ、滑空するように一気に距離を詰めた。


巨人の足を蹴るようにして着地し、抉るように斧を引き抜いて、再度斧を叩きつけるように投擲する。


投擲と移動を繰り返し、断崖絶壁をワイヤーアクションで登るように、ブロックヘッドの頭部めがけて駆け上がり始めた。



ブロックヘッドも黙ってやられたりはしない。


瞬く間に全身が切り刻まれて緑色の血で濡れるが、倒れる気配は全く無かった。


飛び回る蚊を叩き落とすように手足を振り回し、両手を合わせて潰そうとする。


風を切りながら振り回される拳の迫力は凄まじく、風圧だけで体が流されてしまうほどだ。


支えのない空中で一発でも当たれば致命傷間違い無し。


だが、エイナーの身軽な動きに加えて、その巨体が邪魔をして攻撃を当てることは叶わなかった。



その光景を傍から見ていれば、人形劇の如く巨人がワイヤーに操られているようにも見えた。


伸縮するワイヤーに合わせて巨人が手足を振る。


それは下手なダンスを踊っているようにぎこちなく、時にはバランスを崩して倒れそうになる。


それに合わせて巨人の体は傷つき、ショーの演出のように緑色の血が飛び散る。


人類の秘密兵器であるタイタンを倒したとは思えないほどの一方的なやられ具合だ。



それもそのはず、本来ブロックヘッドは集団戦や拠点攻撃用の兵器である。


ブロックヘッドを始めとする大型種はその巨体をもって敵の戦列を突き崩すか、敵の大型兵器と殴り合うか、防衛用の建築物を破壊するのが仕事。


エイナーのような小さな存在を相手にするのは随伴歩兵の役目である。


体格差がありすぎることから小さな相手を殴ったり棍棒で殴るのは不得手で、殴るためにはしゃがむ必要があったりと動きに制限が多すぎた。



とはいえ、本来であれば歩兵如きに負けるはずがなかった。


適当に手足を振り回して、踏み潰せばそれで事足りる。


銃やバズーカを撃たれてもダメージはほぼ無いのだから、意に介する必要はない。


歩兵が攻撃しながら体を駆け上がって来ると想定する方がどうかしている。


その埒外の相手を前に巨人は酷く困惑していた。


そして、その困惑は迷いとなり、隙へと繋がってしまった。



巨人の攻撃が雑になった瞬間を見計らい、エイナーは顔めがけて斧を投擲する。


額に食い込んだ斧を引き、更なる高さへと跳躍。


狙いは頭部。


首を切り落とすか脳を破壊すれば、いくら巨人とはいえ耐えきれないはずだとエイナーは考えていた。


巨人はその動きを察して左手ではたき落とそうとするが、エイナーもその動きに合わせてワイヤーを掴んで全力で引いた。


腕力任せの加速装置はエイナーの体を勢いよく前へと突き動かし、巨人の手は狙いを外す。



「ここも硬いのか?」


左腕でブロックヘッドの右目の上瞼を押さえ、下瞼に足をかけた状態でエイナーはニヤリと笑う。


文字通り巨人の目の前に立っていた。


瞼を閉じようにも押さえつけられていて動かせない。


視界を人間に塞がれたブロックヘッドは悲鳴を上げ、慌ててエイナーを手で擦り落とそうとする。


しかし、それよりも早く斧が巨人の目に叩きつけられた。



「ヒガアアア!」


ブロックヘッドは悲鳴を上げ、手で目を押さえながら倒れ込んだ。


地響きと共に木々をなぎ倒しながら、巨人は痛みを誤魔化すため手足をバタつかせ、転がり回る。


この動きには流石のエイナーも堪らず振り落とされてしまった。


なんとか地面に着地するが高所からの落下による運動エネルギーは大きく、着地の衝撃で地面は砕け、動きが止まる。


そこに巨人の拳が振り下ろされた。



「クッ、ウオオ!」


偶然の一撃がエイナーに直撃する。


真上から叩き潰される形となったエイナーは腕を頭上に掲げて、雄叫びを上げながら渾身の力で拳を受け止めた。


あれほど警戒し、回避してきた攻撃をまさかの形で食らってしまった。


ブロックヘッドは狙ってやったわけではないが、エイナーからしてみれば予想できない攻撃ほどたちの悪いものはない。


しかも痛みから逃げるための見境のない全力の一撃だ。


体やアーマーからミシミシと軋む音が響く。



僅かでも気を抜けば体がバラバラにされそうな一撃をなんとか受け止めた後、エイナーは大きく飛び退って距離を取った。


体の痛みを堪えながら大きく息を吐き、骨折や負傷が無いか確認していく。


その間、巨人は転がり回りながら、不運なスワインたちを押し潰し始めた。


あちらこちらから悲鳴が聞こえてくるが、この状況で巨人に手を出すわけにもいかず、ジェイス軍曹たちのものが混じらないことを祈るしかできなかった。



「さて、どうしたものか」


目の間の光景を眺めつつ、エイナーはこの先の展開を思案する。


自分に深刻な怪我はなく、一方で敵の右目を潰すことには成功した。


だが、依然として敵の戦闘能力は保持されている。


むしろ痛みに我を忘れた相手が、無闇矢鱈に手足を振り回してくるようなら面倒この上なかった。



それに近づいてみて分かったことがある。


あの巨体の首を切り落とすのは無理だ。


スワインも分厚い首をしているが、巨人は更に太い作りをしていた。


いくらエイナーの膂力を持ってしても、木こりのように手にしている斧で切り落とそうとすれば日が暮れてしまう。


巨人がエイナーを持て余していたように、エイナーもまた巨人に対して決定打を持っていなかった。



「喉を切り裂くか、それとも脳を破壊するか...」


どちらにせよ、一筋縄では行かない。


時間をかけてダメージを蓄積させればなんとかなるだろうが、大量の敵に包囲されつつある状況ではそうも言ってはいられない。


創意工夫が必要だ。


手持ちの武器は斧だけ。


スマッシャーはアーマーを交換した際に外していて、コンテナの中に残したままだ。



思案していると、ふと足下に何かが転がっていることに気がつく。


拾い上げてみると、見覚えがある四角いそれは爆薬だった。


確かコンテナに積まれていたものだ。


巨人が暴れたせいでコンテナの外へと転がり出たのだろう。


砲台などを吹き飛ばすためのものなので、十分な破壊力を秘めている。


思いがけない拾い物にエイナーは顔を綻ばせた。



「さて、これをどう使うか...」


爆薬を片手に思案していると、ブロックヘッドが立ち上がり、エイナーの前に立ちはだかった。


右目から流れる緑色の血を押さえようともせず、ただ怒りの表情を浮かべている。


先ほどまであった恐怖などはどこかに消えていた。


その顔を見てエイナーは笑い声を上げて斧を構え直し、それを見て巨人も拳を構える。


互いのリアクションが意味するのは、「お前を殺す」「やれるものならやってみろ」という非言語コミュニケーション。



「言葉など通じなくとも、言いたいことが伝わるじゃないか」


そこに言葉は無くとも意思は通じている。


長年付き合いのある友人のように、今だけは互いに相手のことを分かり合うことが出来ていた。


もしかしたら本当に和平を結ぶことが出来るかもしれない。


そんな考えが一瞬頭をよぎるが、それを打ち消すようにブロックヘッドがエイナーに向けて拳を突き出す。


エイナーも足下を固定化させる能力を発動し、迷うこと無く拳を突き出した。



最初と同じように互いの拳は拮抗し、再び両者はのけぞる。


やはり決定打にはならない。


今後はエイナーの番だ。


これまた最初と同様に斧を全力で投擲した。


だが、今度は同じ展開にはならなかった。


ブロックヘッドは手のひらで斧を受け止め、そのまま固く握りしめて強く引き始める。


まるで綱引きのように力比べが始まった。



「まずいな...」


斧に繋がったワイヤーがギリギリと悲鳴を上げ始めている。


流石にこれほどの負荷は想定外なのだろう。


力比べは拮抗しているが、先にワイヤーが音を上げるのは間違いなかった。


今この武器を失うわけにはいかない。


エイナーはそう考えて次の行動へと移る。



「ちょうどいい、利用させて貰うぞ」


エイナーはわざと力を抜き、固定化の能力を解除する。


ブロックヘッドの腕力の前ではエイナーの体重は小石のように軽く、当然ながら凄まじい速度で引っ張られる。


巨人はエイナーが力を抜いたことでバランスを崩して尻もちをつき、慌てて斧を手放して体を支えようとした。



エイナーは巨人の膝を蹴って加速し、喉元へと迫る。


そして、斧を左右から投げつける。


斧は首を一周するように旋回。


巨人の背後へと駆け抜けたエイナーがワイヤーを引っ張ると、首輪へと形を変えて巨人の首に巻き付いた。



ブロックヘッドは右手で仰向けに倒れそうになる体を支え、左手で首を締め付けるワイヤーを外そうともがく。


だが、その隙を逃すエイナーではない。


容赦なくワイヤーを引き、締め上げていく。


力を込められない体勢のまま巨人は抗おうと必死になるが、その努力も僅かな時間しか持たなかった。



「フンッ!」


エイナーが気合を込めて、更に勢いよくワイヤーを引く。


巨人の首がボキッという音を立てて折れた。


音と土埃を上げながら巨人は仰向けに倒れる。


だが、まだ息をしている。


信じられないことに手足もまだ動いていた。



「大した耐久力だな」


エイナーは感心しながらブロックヘッドの顔へと近づいた。


そして、容赦なく顎を何度も殴りつける。


巨人の顎の骨が砕け、口が大きく開いたところへ、拾った爆薬を放り込んだ。



「今楽にしてやるぞ」


その言葉に合わせ顎を全力でアッパーカット。


ブロックヘッドの口は強制的に閉じられ、僅かな時間を置いて口内の爆薬が起動。


密閉された空間で行き場を失ったエネルギーは、その破壊力を最大限に発揮する。


巨人の頭部は吹き飛び、自らが投げたタイタンと同様に優雅に空を舞った。



*******



「いやー、大したものですね。英雄の誕生ってやつを見れて光栄です」


エイナーがブロックヘッドの首に巻き付いた斧を回収していると、ジェイス軍曹が駆け寄ってきた。


激しい戦いの末、エイナーは全身が土埃などで汚れてしまっていたが、彼はそれよりも更に酷い有様だった。


返り血や肉片がこびりつき、顔や手足は細かい傷だらけ、体のあちこちは治療キットで治した跡がある。


抱えていたはずのマシンガンやスナイパーライフルも見当たらず、握っているのはあちこち欠けた剣と、奪ったと思わしきスワインの銃。



「そちらの状況は?」


「敵は一旦追い返しましたが、5分と持たずにまた押しかけて来るでしょう。それに対してこちらの財布は空っぽです。弾や治療キットは尽きました」


「スナイパーライフルはどうした?」


「殴り合いになった時、槍代わりに敵を突き刺したら折れました。手持ちの武器はこれだけです」



そう言ってジェイス軍曹は手に持った剣と銃を軽く振る。


明るく笑っているが事態は深刻だった。


いくらジェイス軍曹が優秀でも武器が無くては抵抗しようもない。


次はもう敵を追い返せないだろう。


エイナー自身も斧しかない。


顔をしかめて周囲を見渡す。



「......コンテナが見当たらないな」


コンテナがあれば武器を補充できるが、その肝心な宝箱はどこかへ消えていた。


重量を考えれば簡単には動かせないはずだが、ブロックヘッドの巨体からすれば路傍の小石程度でしかない。


転がり回った時に蹴飛ばしでもしたか。


それならどこに飛んでいったのか予想もつかない。



「他の大尉用の武器も残したままですよね?回収しないと不味いな...。ひとっ走り周囲を調べてみますか?」


「残念ながら時間切れのようです」


ジェイス軍曹の提案を却下するように、テオがセンサーを光らせながら告げる。


エイナーたちの視覚上に敵の分布状況が表示された。


部隊の再結集を終えたのか、敵はこちらを包囲するように展開し始めている。


10分も経てば逃げ道を完全に塞がれるだろう。


それを見てエイナーは決断した。



「撤退するぞ」


「いいんですか?」


ジェイス軍曹は眉をひそめ、控えめに抗議の意思を示す。


ここでエイナーの武器を失うということは、この先の戦いで不利を背負うことを意味する。


十分な武器さえあれば、エイナーなら単独でも包囲網を突破できる。


やる価値はあるはずだ。


たとえ自分が助からないとしても。



「装備はまた作ればいい。だが仲間は替えが効かない」


だが、エイナーは首を横に振って提案を拒否した。


ジェイス軍曹の言いたいことを理解した上での否定。


装備よりもお前の方が価値があるという意思表示だった。


その言葉を聞いてジェイス軍曹は評価されたことの嬉しさと、足を引っ張っているという悔しさが入り混じった複雑な表情を浮かべる。



「包囲網を突破する。テオ、手薄な場所への案内を頼む」


「了解しました。かなり先ですが、西の方に友軍の拠点があります。他の友軍もそちらに向かうでしょうから、敵部隊を排除しつつ合流を目指しましょう」


テオの提案にエイナーとジェイス軍曹は頷き、視界上に表示された地点へと向けて走り出した。


まずはこの森を抜ける必要があるが、道中では交戦を避けることはできないだろう。


隠密行動など捨てて、敵を排除しながら全力で駆け抜けるしかない。


休む暇もないなとエイナーはため息をついた。



「あの巨人を倒すだけでこれほど手間がかかるとはな。この先が思いやられる」


エイナーはブロックヘッドとの戦いを思い出し、走りながら思わず言葉をこぼした。


相手が1体だけだったから良かったものの、タイタンのように複数体を相手にすればどうなっていたか分からない。


だが、ジェイス軍曹からすれば、それは謙遜以外の何物でも無かったようだ。



「でも、自分は大尉を見て確信しました。俺たちの英雄は確かにここにいるんだと」


普通の強化兵が集まってもどうにもならない相手を単独で撃破した。


その事実は確かにジェイス軍曹を勇気づけていたのだった。


それは軍が期待した効果でもあり、「馬鹿げている」と当初は否定したエイナーからすると複雑な気分だった。



「ヒュー、おめでとうございます。最初のファンを獲得できましたね」


ジェイス軍曹の言葉を聞いて、テオが驚きの声を上げた。


わざわざ口笛に似た効果音までつけている凝り具合だ。


そんな相棒を前にエイナーは苦笑しかできなかった。



「そうだな。だが、仕事はまだ山積みだ」


「地方巡業はアイドルにとって避けて通れません。この調子で成果を上げていきましょう」


テオの言葉を聞いてエイナーは内心で状況を整理する。


今回の戦いは前哨戦でしかない。


依然として敵は圧倒的な戦力を抱えている。


装備が、戦果が、友軍が足りない。



「地道に1つずつやってこう。まずは友軍との合流だ」


そう言ってエイナーは目の前のスワインに斧を叩きつけた。

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