1. Mission 1-6
耳障りな音を響かせながら、エイナーはコンテナの歪んだドアを引きちぎるように力任せにこじ開け、中を伺う。
落ちた衝撃で中の荷物はひっくり返っており、目も当てられない状況だ。
それでも透明なケースに入ったアーマーには傷がついた様子はなく、他の装備にしても目当ての物は無事そうに見える。
「戦闘用の装備なのだからこの程度のことで壊れては困る。そうなれば捨て置いても痛くはない」
エイナーはそう呟きながら散らかった荷物を漁り始めた。
テオは専用装備は必要だと言っていたが、エイナーとしては実物を確かめた上で判断するつもりだった。
書類上では最高の装備のはずが、いざ蓋を開けて見ればガラクタだったことはありふれた話だからだ。
アーマーが入ったケースの解錠処理をしていると、テオがフヨフヨと近づいて来た。
テオは転がった荷物にセンサーを向け、貼り付けられたタグなどから内容物を精査する。
アーマーだけではなく剣、ライフル、斧、ミサイルポッド、更には爆薬なども格納されていた。
「見たところ、データ上の搭載物はきちんとありそうですね。これで目当ての物が積まれていなかったら噴飯ものでした。ところで着替えの手伝いは必要でしょうか、お嬢様?」
「必要なら呼ぶ。お前は軍曹のサポートを頼む」
「了解しました」
エイナーは振り返りもせずに答えるが、テオは気にした様子もない。
付き合いは短いが互いのことは既によく分かっていた。
簡潔なやり取りの後、テオは近づいて来た時と同様の動きでジェイス軍曹の方へと飛んでいく。
離れた場所から2人のやり取りを見たジェイス軍曹は困惑と驚きが入り混じった、何ともいえない表情を浮かべながらテオをマジマジと眺める。
「......お前、本当に軍用か?」
正直なところ、テオの性格や行動があまりにも人間臭いことに戸惑っていた。
軍用ならもっと機械的なものが一般的だし、軍隊での長い経験を思い起こしても、実際にこれまで見てきたものはテオとは似ても似つかない。
見た目だけは一般的なガイドドローンなだけに、アイスクリームを食べたら砂糖の代わりに塩がたっぷりと入っていたような、凄まじい違和感に襲われていた。
だが、当のテオは悪びれる気配すらない。
「もちろんです。感情豊かな支援ユニットは部隊のメンタルケアに貢献します。大尉の支援用という理由もありますが」
「特注品ってことか?」
「はい。お気に召したようでしたら、次にガイドドローンを購入する際は、ぜひブレットエレクトロニクス社の製品をお選びください。ああ、バイアンテック社の製品は駄目です。評価に星1を付けて返品することになるでしょう」
テオはエヘンと胸を張りながら答えた。
胸といっても円柱の体のどこが胸かは分からないが、上体を部分を逸らす仕草はそういう意味なのだろう。
ますます機械らしくない挙動を見せつけられ、ジェイス軍曹は顔を引きつらせた。
「......いや、止めておくわ」
頭をかきながら断る。
こんな奴が複数いたら堪らない。
メンタルケアどころか鬱病になりそうだ。
テオがそんなジェイス軍曹に文句を言おうとした瞬間、1人と1機を大きな黒い影が覆った。
「なんだ!?」
ジェイス軍曹は慌てて銃を空に構える。
話しながらでも周囲の警戒は怠っていないし、敵の気配は無かったはずだ。
経験豊富な自分があっさりと接近を許すとは信じられなかったが、空を見上げたところで別の意味で信じられないものを発見し、あんぐりと口を開けた。
空には太陽を塞ぐように大きな金属の固まりが飛んでいた。
上空をゆっくりと飛ぶそれは人型をしている。
空高くで仰向けの姿勢をとっており実に快適そうだが、自ら高くジャンプしたようには見えない。
そんなものがゆっくりとこちらに近づいてくる。
いや、ゆっくりとではない。
距離が離れているから遅く見えるだけで、実際は凄まじいスピードで落下していた。
「タイタン!?」
影を生み出しているのは遠くで敵の巨人と殴り合いを続けていたタイタンだった。
慌てて飛来した方向に目を向けると、先程までタイタンが殴り合っていた場所で、敵の巨大兵器ブロックヘッドが投擲姿勢をしているのが目に入った。
あれがタイタンを投げたのだろう。
流石にこちらを狙ったとは考えられない。
たまたま落下点に自分たちが居ただけだ。
不幸な偶然である。
「そんなクソみたいな話があるか!」
「回避を!大尉、その場を離れてください!」
ジェイス軍曹は警告を発するテオを掴んで急いでその場を離れる。
だが、コンテナの中にいたエイナーはそうではなかった。
逃げ出すよりも早く巨大ロボットが降り注ぎ、そのままコンテナの真上に突き刺さった。
タイタンは地面を滑り、凄まじい衝撃と轟音を撒き散らし、そして衝撃波が辺りを吹き飛ばした。
ジェイス軍曹は飛ばされそうになったテオを抱え込み、木の後ろに転がり込んでなんとかやり過ごす。
衝撃が収まってから顔を出すと、周囲の木々はなぎ倒され広い空間が広がっていた。
そして、タイタンの上半身がコンテナを上から押し潰しているのが目に入る。
「おいおいおい!大尉、ご無事ですか!?」
慌ててタイタンへと近づき声をかけるが反応はない。
降ってきた物の重量と高所からの勢いを勘案すれば、強化兵とはいえ圧死しても不思議ではなかった。
人類の希望がこんな馬鹿みたいな不運で失われるのか。
ジェイス軍曹の頭で最悪の予想が駆け抜け、体中に冷や汗が流れる。
タイタンはボロボロで、装甲がもげている部分があちらこちらにあった。
殴り合いに負けて、トドメを刺すために投げられたのだろうか。
先程見た光景では何体もの敵の巨人が地に伏していた。
ボロボロになりながらも健闘したが最後の1体に敗北。
タイタンのコックピットは潰されていて、生体反応は途絶え通信に答える様子は無い。
ジェイス軍曹はテオを両手で掴み、上下に振りながら必死に問う。
「おい、こいつをどかす方法は無いのか!?」
「......追い詰められた軍曹が未知の能力に目覚め、怪力を発揮して持ち上げるというプランはどうでしょうか?」
「ふざけんな!それができるならとっくの前にそうしてるわ!」
地面に叩きつけるぞテメエと言いたげなジェイス軍曹の剣幕を前にしたせいか、それとも余裕がないと理解しているのか、テオはすぐに代案を提示した。
「仕方ありません。では、ヘリに移動してください」
「コンテナじゃなくてか?」
ジェイス軍曹は疑問を口にしながらも、テオを抱えて即座にヘリに向かって走り始める。
戦場でいちいち命令の意図を確認していては手遅れになると分かっているからだ。
有事の際はまず行動し、その後で根拠を確かめればよい。
戦場で積み上げた経験の賜物だった。
そうこうする間に遠くから大きな地響きが聞こえてくる。
音のする方角を向いたジェイス軍曹の顔が歪み、悲鳴が漏れた。
「嘘だろ!こっち来るのかよ!」
先程タイタンを投げたブロックヘッドがこちらに向かって走って来るのが見えた。
動きは遅くとも全長100メートル近いあの巨体だ。
一歩で進む幅が広く、小さかったはずの敵があっという間に大きく見え始めている。
危機感を煽られたジェイス軍曹は急いでヘリの側へと滑り込んだ。
「何をすりゃいいんだ!?」
「先程確認しましたが、ヘリの中にバズーカがあるはずです。それを見つけて射撃準備を整えてください」
ジェイス軍曹が指示に従って横転したヘリの中を漁ると、乱雑に重なった予備の弾薬や爆薬の中からバズーカが出てきた。
掘り起こして歪みなどが無いことを確かめ、バズーカを抱えてヘリの外へと出て弾薬を装填する。
歴戦の兵士らしく無駄のない動きだが、バズーカを構えるその顔には焦りの色が浮かんでいた。
「こんな豆鉄砲じゃあのデカブツには効かねえぞ」
「構いません。それよりも急いで射撃準備を」
「クソっ、何か作戦があるんだろうな。無かったらお前のところの製品は金輪際買わねえ!」
ジェイス軍曹は悲壮な叫び声を上げるが、それとは裏腹に射撃準備だけはしっかりと整えている。
エイナーと同じく、考えずとも染み付いた経験が体を動かしてくれるのだ。
「準備はいいぞ!どこを狙うんだ?頭か腹か、それとも足か?」
ジェイス軍曹は近づいて来る巨人に向けてバズーカを構える。
だが、頭の中では効きはしないという考えで一杯だ。
あの巨体に通用するような装備をたった1人の兵士が運用できるはずがないのだから、そう考えるのも仕方ない。
巨大種を相手にするなら、最低でも数十人がかりでの一斉攻撃が必要になる。
そんな彼の状況認識を変え、この逆境を打破するためにテオは告げた。
「いいえ。狙うのはあの巨人ではありません。タイタンの方です」
テオから送られてきた射撃マーカーがジェイス軍曹の視野上に表示される。
丸いマークが示すのはタイタンの腰。
そこには装甲が剥げて露出したエネルギーコアが見えた。
エネルギーコアはタイタンを動かすための動力源であり、多くのエネルギーを溜め込んでいる部位だ。
「そうか!コアを誘爆させてコンテナの上から吹き飛ばすんだな!......って、大尉は大丈夫なのか?」
「大尉なら大丈夫です!恐らく!きっと!」
「そこは自信を持って言い切れや!」
「いいから早く撃ってください!敵が近づいて来ます!」
「死なないでくださいよ大尉!」
覚悟を決めてジェイス軍曹がバズーカを発射する。
放たれた弾は狙い違わずコアに直撃し、轟音を立てて爆発した。
膨大なエネルギーが光と共に溢れて下半身が吹き飛ぶ。
土煙が巻き上がって一時的にコンテナの姿が覆い隠されるが、コンテナにのしかかっていた上半身が高く浮かび上がるのが見えた。
「やったぞ!」
「やりましたね!」
しかし、2人が喜んだのも束の間、タイタンの上半身は真上に浮かんだまま動きを止めた。
そのままコンテナの上にゆっくりと戻る。
そして再度コンテナを叩き潰した。




