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1. Mission 1-2

「はじめましてエイナー大尉。私はガイドドローンのテオと申します。信頼と安心のブレットエレクトロニクス社製の特注品ですから、性能は折り紙付きです。戦闘支援から生活の補助まで幅広く対応しております。もし、戦場のストレスで寝付きが悪いようでしたら子守唄を歌って差し上げましょう」


エイナーが起動したガイドドローンはセンサーが光るなり、立板に水の如く流れるように喋り始めた。


その内容は挨拶から始まり、今このギムレーで人類とスワインが争っていること、人類が追い込まれて危機に瀕していることといった状況説明へと続く。


そして、「記憶はどの程度保持していますか?」「武器の扱いは?」といった質問から、「好みの食事は?前線で食べるならブロックタイプかインスタントのどちらが好き?」「殴り倒したくなる敵はどれ?」「バイアンテック社の製品はすぐに故障するから購入すべきではない」といった、意図が分からないものまで話が広がっていく。



エイナーは半ば呆れながら返事を返しつつ、部屋に用意されていた装備を身につける。


銃に剣、アーマーはあるが、ヘルメットが見つからない。


カーツ大佐もつけていなかったので、必要な者だけが別途装備するのかもしれないなと思いつつ、無ければ無いでいいと割り切った。



その途中で改めてテオの方を見た。


テオは高さ40センチほどの円柱状の灰色のドローンで、特殊な浮遊機構によりエイナーの前でフヨフヨと浮いている。


胴体の上部に横長の枠があり、そこにカメラやセンサー類を搭載しているらしく、これが人間でいうところの目になるようだ。


本人の説明によると普段は浮遊して移動するが、胴体下部からマニピュレーターを展開することで、歩行やしがみついたりできるらしい。



見た目は完全な機械であり、一般的なガイドドローンと同じ形状をしている。


しかしテオはAIによる自律型だが、性格は軍用機器とは思えないほど感情が豊かで、ジョークや皮肉が泉の如く湧き出てくる。


胴体から発せられるのは中性的な音声だが、それが逆に人間らしさを醸し出していた。



正直な所、エイナーはテオをどう扱っていいものかと戸惑っていた。


カーツ大佐の言葉を疑うわけではないが、背中を預けるに足る相棒だと言われると不安が勝る。


自分に記憶が残っていれば気にせずに済んだのだろうかと悩みながら、誤魔化すように手早く装備を整えた。



「準備はお済みですか?」


エイナーがアーマーを着込み、各種武装を身につけたのを見計らってテオが声をかける。


「ライフル、アーマー、近接戦闘用の剣。そして、予備の弾丸と治療キット。万全かは分からんが、必要最低限の装備は整えられた。後は敵次第だな」


「肯定。現状ではこれ以上の装備は望むべくもありません。ですが、大型種とは交戦を避けるべきです。先程の会話で得た情報を踏まえますと、現在の大尉は本来身につけているべき特殊能力なども機能しておらず、万全な状況とは程遠い状況にあります。安全策を取るべきです」



テオはセンサーをチカチカと点滅させ、同意の意図を示す。


一方、その言葉に意表を突かれたエイナーはピタリと動きを止めた。


訝しげに眉をひそめ、テオに疑問をぶつける。



「...先程の会話だと?」


あの会話に意味があったのかとテオを見つめると、そのガイドドローンは「当然だと」胸を張るように軽く体を反らした。


「先程の会話は大尉の知識や記憶状況を把握するためのものです。並行して施設内に残ったデータの回収と削除も実施済みです。そして、私が何も言わずとも、大尉は装備を身につけることができました。記憶に無いはずの装備をです。一方、豚頭のスワインは分かっても、殴り飛ばしたクモのような生物が何なのか分かっていないのでは?」


「......その通りだ」



エイナーは指摘された内容を大人しく認める。


先程までの会話はてっきり時間を潰すためか、エイナーのメンタルケアのためとばかり思い込んでいた。


言われるまで特殊能力のことなど全く知らなかった。


どうやらテオは思っていた以上に優秀らしい、と認識を改める。



両手を上げて「降参だ」と言い、「疑って悪かった」と謝罪の言葉を続けた。


テオは左右に軽く揺れてセンサーを点滅させるが、その様子から「気にしないでください」と言いたげなことだけは伝わってきた。


言葉ではなくボディランゲージでコミュニケーションを取るあたり、やたらと芸達者なドローンだ。



「大尉は再改造手術を受けた際、記憶を失っているようです。それを補うための睡眠学習でしたが中断されてしまいました。ログでは改造手術自体は完了していますのでご安心を。今の大尉を簡潔に表すなら、大人の体と染み付いた戦闘経験、そして子供の知識といった状況です」


「なるほど、敵どころか自分のことも知らんようでは話にならなんな」


「私はそれらのデータも保有していますが、丁寧にレッスンをしている時間はありません。特殊能力なども折を見て説明します。とはいえ、小型種や中型種が相手なら今のままでも十分戦えるはずです。ああ、小型種はクモに似たアラクニッド、中型種は豚頭のスワインを基準に考えてください」


「そうか。それで構わん」



テオの説明を聞いて、エイナーはようやく自分の状況を理解することができた。


万全ではないにせよ、体が覚えているならまずは良しとする。


知識は覚え直せばいいだけの話で、それでも足りない分はスワインたちを相手に実地でトレーニングを積めばよい。



「ありがとうございます。補足しますと、大尉は不利な戦況を覆すために考案された9つの反攻作戦の1つ、一騎当千の拡張型強化兵を旗頭とした、少数チームによる敵司令官の暗殺計画の要となります。実験段階のため死の淵にある負傷兵を素体としていましたが、実験体は数多くいたものの、成功例は大尉だけです。ちなみに作戦名はラストパス。軍は余裕だけではなく、ネーミングセンスも不足していたようですね」


「待て、敵司令官の暗殺だと?」


テオの説明の中に無視できない部分があったことに気がついたエイナーは、慌ててテオの言葉を遮った。


しかし、テオは「何を当たり前のことを」と言わんばかりに平然と浮遊している。



「はい。大尉が与えられた任務はスワインの殲滅。より明確にするなら、敵司令官とされる個体、通称マザーの撃破が目標となります。マザーは敵軍のエネルギー源と繋がっており、これを撃破すれば敵軍は崩壊することが実証されています。都合が良過ぎると疑われるかもしれませんが、意外とこの類いの種族は珍しくありません。地球で言えば女王蟻のようなものですね。この星に存在するマザーは4体。まずはこの大陸にいる1体目を倒しましょう」


テオの説明を聞いてエイナーが驚きで目を見開く。


敵司令官の撃破。


言葉にすれば単純だが、その障害は並の作戦の比ではない。


やれと言われればやるが、一兵卒に課せられた任務にしては流石に無茶が過ぎた。



「単独でやるには少々大物過ぎるな」


「ですが、これが本来大尉に課せられるはずだった任務です」


「ワンマンアーミーで戦局を覆すだと?軍はよほど追い詰められているようだな」


エイナーから思わずため息がこぼれた。


都合の良い一発逆転に賭け始めた軍の末路など1つしか思い浮かばない。



「強化兵は一般的な兵士とは隔絶した戦闘能力を保有し、局地的な戦場であれば戦況を覆すことも珍しくありません。発展型として再改造された大尉であればなおさらです。重要な局面で投入できるジョーカーを持ちたい、と考える気持ちも分からなくもありません。それに、そういった存在は軍の精神的な支柱となります」


テオの説明を聞いてようやくエイナーは腑に落ちた。


つまり、「可能なら敵司令官を暗殺したい」という話で、「現実的には特定の戦場において戦果を積み上げて戦局を打開したい」という作戦なのだ。



劣勢で崩壊が近い軍には士気を保つための英雄が必要だ。


そして、英雄の活躍は派手で無滑稽なほど効果がある。


それならば理解できた。


ただ、まともな作戦でないことには変わりない。



「つまり客寄せのマスコットということか」


「どちらかと言えば本来の意味でのアイドル、畏れ敬われる偶像や軍の象徴と呼ぶべきでしょう」


「テオ、残念ながら私は歌も踊りも苦手だ」


「問題ありません。代わりに豚たちに歌って踊って貰いましょう。彼らもすぐに大尉に夢中になりますよ」


「それは良いアイデアだな。手を貸して貰うぞ敏腕プロデューサー」


「もちろんです。ブレットエレクトロニクス社の技術力をご覧に入れましょう」



エイナーはニヤリと笑い、テオの胴体と拳をコツンと軽く合わせた。


返答代わりにテオもセンサーを点滅させる。


1人でも作戦を遂行するつもりだったが、信頼できる相棒がいるならこれほど心強いものはない。


その相手と話が合うとなればなおさらだ。


用意された装備の中ではテオが一番の当たりだったなと、エイナーは心の中でカーツ大佐に感謝を捧げた。



「まずはこの施設を出ます。私が収集したデータは大尉の視覚上にも共有することができますから、それを使って周囲を警戒してください」


「了解した」


「戦闘モード起動。情報のリンクを開始します」



テオがそう宣言すると同時に、エイナーの視覚上に様々なデータが表示される。


強化兵は脳に電子的な補助機能を搭載している。


それを介して、視野上に温度情報や敵対生物の情報、地形データなどを表示することができた。


この施設の構造マップを軽く眺めた後、エイナーは満足気に頷いた。



「情報は問題なく共有されている」


エイナーは内心で「便利なものだ」と呟きながらライフルを構える。


通常のライフルとは比較にならないほど大きなそれは、酷く無骨だが頑丈そうで鈍器と呼ぶ方が相応しい威容だった。



これは強化兵に支給されるスマッシャーと呼ばれる重ライフルである。


セミオートで連射性能は低く、正確に単発で撃ち込んでいく必要はあるが、その分だけ破壊力は高い。


撃たれた相手は押し潰されたように粉砕されることから、いつの間にか正式名称ではなくその名で呼ばれるようになった。



アラクニッド程度であれば、茹でたジャガイモをバットで叩いたように吹き飛ばすことができる。


敵を殴っても簡単には曲がらないため、頼りになる武器として強化兵たちから愛されている名銃だ。



「行くぞ」


エイナーはスマッシャーの重みを確かめながら、テオを連れて移動を開始した。


色々と問題は棚上げになっているが、今やるべきことは分かっている。


この施設を出る。


邪魔者は殺す。


まずは目の前の仕事に集中しよう。

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