道に迷った!
オウカとアンナの2人はゴブリンを倒しながら進み……そうして、見事に迷っていた。
「……やべえな、迷った」
「何処行っても同じに見えるんだけど⁉ これヤバくない⁉」
「結構やべえな。つーかおかしいな。地図通りに進んでたはずなんだが」
地図を取り出し眺め始めるオウカにアンナはキョトンとしていたが……やがて「地図ゥ?」と訝しげな声をあげる。
「やけに迷いがないと思ったら、そんなもの持ち込んでたの?」
「おう。ま、全部覚えたから見る必要もなかったはずなんだが」
「……それは凄いけど。今回に限っては……」
言いながら、アンナは地図を覗き込む。
「これ、途中までは合ってたの?」
「おう」
「そりゃ凄い偶然ね」
アンナは言いながら、オウカの手から地図を抜き取る。
「どうせ、あの何でも屋で買ったやつでしょ?」
「よく知ってんな。随分前に何かの役に立つかと思って買ったんだよ」
「あの親父の売り文句は?」
「無事に生きて帰ってきた冒険者の直筆だ。お守りにゃあなるかもな、だったかな」
オウカの言葉にアンナは溜息をつきながら地図を放り投げる。
「あ、コラ。何すんだ」
「アレはゴミよ」
「あ?」
「知らないの? この階層、日付が変わるごとに道も構造も変わるのよ?」
言われてオウカは「はあ?」と声をあげてしまう。日付が変わるごとに構造が変わる。
それが本当なのであれば……1階の地図を買う意味など、ゼロだ。
しかも確かあの親父はこう言っていた。「無事に生きて帰ってきた冒険者の直筆」と。
つまり、買った時点でゴミだった可能性が高い。
だがこうも言っていた。「お守りにはなるかもな」と。つまり、それは。
「あ、あの野郎……マジで『お守り』として売りつけやがったな!?」
「むしろ、なんで騙されてんのよ」
「仕方ねえだろ!? アタシはダンジョンのこと知らねえんだよ!」
「普通調べるでしょ」
「アタシがダンジョンのこと聞くと情報屋ども、最低で50万イエンからとか言い出すんだよ」
「足元見られてる……」
ちなみに冒険者ギルドは情報屋と提携しているので情報を教えてくれたりはしない。
あーあ、と天を仰ぎながらオウカは壁に背中を預ける。
騙されないように警戒していたつもりだったが、とんだ不注意をさらしてしまった。
自分が思ったよりもバカだったことに憂鬱になるが……それも一瞬。
「よし、切り替えよう。とりあえず2階層に行けばどうにかなる」
「ちょっと。2階層行くにはボス倒さなきゃでしょ」
「心配要らん。ホブゴブリンくらいなら斬ったことはある」
「それは凄いけど!」
ホブゴブリン。ゴブリンの上位種で、体格も全然違うパワーファイターだ。
以前オウカは盗賊退治の際に出会って、死闘の末に仕留めたのだが……。
「あん時ぁ、剣をオシャカにしちまったけどよ。今はもう少し上手く殺れる気がすんだよな」
「そもそもホブじゃないわよ、1階層のボス」
「マジか。なら何が出るんだ?」
「ゴブリンナイトよ」
「ほー」
言いながらオウカは壁から背を離し、ニッと笑う。
「ま、どうにかなるだろ」
「どうにかって……」
「人生、生きるか死ぬかの二択だ。サックリいこうぜ。何処にそれ居るか知らんけど」
まさにオウカの言う通りではある。現在進行形で迷子なのだから、ボスがどうとかいう問題ではない。しかしまあ、オウカが覚醒していないとは思えないほどの強さを持っているのを見れば、意外にどうにかなるかもしれないとアンナは思ってしまう。
問題があるとすれば、だ。
「そういえば、なんでボス倒す必要があるんだ?」
「ほらあ……やっぱり知らないし」
ダンジョンの各階層には「階段」を守るボスがいて、倒さなければ先には進めないようになっている。倒しても一定期間で復活するので、雇われて「ボス狩り専門」としてやっている冒険者もいるくらいだ。
まあ、階段を降りた先にある「記録のオーブ」なるものに触れれば、外に出てもダンジョンの入り口の「転移のオーブ」で、またその階層から再開できるせいで目標の階のオーブに記録させる「旅行屋」を営む者も存在したりする。
「あー、旅行屋な。連中のことは知ってるぜ」
「それ知ってるのに、なんでボスのこと知らないのよ……」
「教えてくれよ。覚えるからさ」
「フン、仕方ないわね! 私が! 仲間として! しっかり教えてあげるわ!」




