パーティ結成
「やー、こいつは驚いた。ごめんな、厄介なもん拾ったとか思って」
「正直は時と場合によって美徳じゃないわよ」
「おお、そうか? 腹ん中に溜めてるよりゃ健全だと思うが」
「そうかもしれないけど」と納得いかなさそうなアンナにオウカは「まあ本気で認めてんだぜ。凄いぜ、お前」と何度も感心したように頷く。
「つーか、普通にナイトじゃねえか。それ前面に出せばいけたんじゃねえの?」
「ん、んんー……」
オウカの言葉にアンナは難しそうな顔で唸り始める。何か問題でもありそうだが、ひとまず放置しながら歩いていると、アンナがオウカの肩を掴む。
「なんだよ」
「……ないのよ」
「何が」
「スキルが全然ないの! 未だに覚えてるのって【ヘイトアップ】と【調理】だけよ!?」
「おお、【調理】はメイドのほうか」
「そうよ! おかげで見切り品のクズ野菜も美味しいわ!」
「よかったな」
「うわーん!」
「泣くなよ……」
抱き着いてくるアンナを引き剥がしながら、スキルに覚醒してもそういうのがあるんだな……とオウカは溜息をつきたい気持ちになってくる。
まあ、あるのだ。そういうのは。スキルを全然覚えないジョブというのは存在していて、しかし何らかの条件を満たすと突然会得したりする。
大抵のジョブは先人の知識により「スキルツリー」という形で調べられるのだが……メイドナイトのものはない。表向きには「ゴミジョブだから誰も知らない」ということになっている。
「ま、いいじゃねえか。アタシなんか料理は焼く、煮るの2種類だけだぞ」
「そんなのと比べられて嬉しくないもん」
「おー、そうだな。んじゃさっさと先進むぞ」
「フォローが雑……雑人間……」
「置いてくぞ?」
「あ、待ってよ!」
追いかけてくるアンナだが、先程の戦闘の後も息が上がっていない。
先程聞いたスキル情報が本当なのであれば、アンナの体力や先程の剣術はスキルの補正を受けない「素」のものだ。
「剣術」も「体力上昇」も、何もない。その上で先程の戦闘を出来るのであれば。
それはつまり、アンナは結構鍛えている……そういうことだ。
「くっくっ……」
「うわ、悪役みたいな笑いね。どうしたの?」
「悪役たぁなんだ。アタシは自慢だが、お天道様に顔向けできない真似はしたこたぁねえぞ」
「え、本気で? ちょっと意外。生きる為ならどんな手でも躊躇わない派かと思ってた」
「何言ってんだお前。どんな手でも使うに決まってんだろ」
「は?」
理解できない、といった顔で疑問符を浮かべるアンナにオウカは「分かってねえなあ……」とため息をつく。
「いいか。たとえばあそこに、コソコソ隠れてこっちを弓で狙ってるゴブリンアーチャーがいるな?」
言いながらオウカは懐から石を取りだし放り投げる。
通路の角の先から隠れながら様子を伺っていたゴブリンアーチャーは自分の目に当たった石に「ゴブッ!」と悲鳴をあげ、弓を取り落とし顔を押さえる。
それはいわば当然の反応であり、しかし致命的な反応でもある。何故ならば、地面を蹴り走ったオウカがすでに目の前まで来ているからだ。
ゴブリンアーチャーは即座に切り倒され、隠れて出番を待っていたゴブリンが慌てたようにオウカに襲い掛かろうとして、その顔面に蹴りを入れられる。
ゴブリンの顔面からミシミシと響く音をそのままに、オウカは容赦なく蹴り抜く。
転がるゴブリンが立ち上がろうとするその時はもう、オウカがシミターを振り下ろしてトドメを刺す。
「こういうことをすると卑怯だなんだとほざく輩もいるんだが、アタシは躊躇わんぞ」
「ちなみに卑怯って言ったの誰?」
「盗賊どもだな。もう居ないけど」
「何も問題ないじゃない。まあ、そういう小技を嫌いな奴もいるとは思うけど……私もその辺の石拾っとこ」
アンナは周囲を見回し「そういえば此処石なんかないじゃない!」と今更ながら声をあげる。しかし、そんな様子が面白くてオウカはまたクックッと笑う。
「変な奴だなあ、お前」
「えー……言われたくないんだけど。今は組んで良かったと思ってるけど、組むのは最後の手段と思ってた程度にはアンタのほうが変人なんだけど」
「お、なんだ解散か?」
「しないわよ」
オウカの袖を掴むアンナからオウカが視線を逸らすと、アンナが結構必死な顔で回り込む。
「今は組んで良かったと思ってるってば!」
「そうかあ? 無理しなくていいんだぜ?」
「してないし! あ、ちょっと! からかったわね!?」
「うははははは! まあな!」
「ひっどい! 私、結構本気でビビッたんだけど⁉」
「悪い悪い。これからそういう距離感も掴んでいこうぜ」
「ええ、そうね」
スタスタ歩いていくオウカに頷き……アンナはふと気づいたように「ん?」と声をあげる。
これから。その意味するところは、つまり。
「待って、ちょっと待って。今のって『お試し』じゃなくて正式に組もうってこと?」
「どうかなあ。お互い見極めていこうぜ?」
「そういうの、もういいじゃない! はい決定!」
興奮したように駆け寄ってくるアンナだが……そんなアンナから見えない位置で、オウカも薄く微笑んでいた。