ダンジョンは精神に良くない
本日3話目です
「わあ、応援してます!」
「うっせーよ」
やるしかない。ないが……ダンジョンに潜るなら潜るで、これまた金がかかる。
なんとも世知辛い話だ。世の中、何をするにも金の話が付きまとうのだ。
たとえば、冒険者ギルドの隅で薄汚れた椅子に座っている男についてもそうだ。
オウカが先程手に入れた金袋を男の前の机に置けば、男はオウカをチラリと見る。そう、この男は情報屋なのだ。
「追加の情報はあるか?」
「少なくとも追跡できる限りじゃあ、現存するカタナは無い。そもそもサムライが珍しいジョブだからな……カタナも長く需要がない。一応サン帝国周りもツテで探っちゃみたが、何もないみてえだ」
「……どうしようもねえな」
「ダンジョン潜れよ。そいつが一番可能性がある」
「チッ」
「毎度。とはいえ、俺もこんな悲しいネタは売りたかねえ……次はもうちょい明るいネタを買ってくれや」
そう言う情報屋の男に適当に手を振ってオウカが冒険者ギルドを出ると、そこには何とも酷い光景が広がっているのが見える。
道端に座り込んで騒いでいる汚い恰好の冒険者に、冒険者向けの安くて粗悪な諸々を売っている店。売る時は半値買う時は倍値の何でも屋。安酒と不味い料理を出す酒場。
なんだかんだと言ってはいても実際に冒険者をどう思っているか、そして具体的に冒険者のイメージがどんなものか、これ以上ないくらいによく理解できるラインナップだった。
「おー、オウカじゃねえか。まだ小銭稼ぎやってんのかよ」
「ハハハ、言ってやるなよ! それしか出来ねえんだから!」
「ったく、俺たちゃ命懸けでダンジョン潜ってるってえのに雑魚退治たあ、気楽なもんだぜ」
「ああ、そうかい。じゃあな」
相手にするだけ無駄だ。いつものことだし、そんな些事に体力を使っていられない。だからこそオウカは適当に返してその場を後にしようとして。道の向こうからやってくる「それ」を見てゲッと心底嫌そうな声をあげる。
そこから反射的に何でも屋に入り扉を閉めると、何でも屋の親父の面倒くさそうな視線が向けられてくる。
「カタナならねえぞ貧乏人」
「期待してねえよ業突く張り」
互いに視線で火花を散らすと、何でも屋の親父は新聞を広げ始める。この辺では売っていない、多少信用のある新聞屋のものだ……わざわざ取り寄せているらしい。
「じゃあ何しに来やがった。その腰に提げてるもんなら2000イエンで買ってやってもいい」
「ざけんなクソが。表通りで20万イエンのシミター様だぞ」
「おおそうかい。冒険者の使ったもんを買い取ってやるのはウチくらいのもんだがな」
事実だ。冒険者はロクなのがいないから、長い……長い時間をかけて信用というものを損なってきた。冒険者を支援する為という目的で出来たはずのこの町で一番嫌われているのが冒険者だというのは、どんなギャグだろうか?
……とはいえ、勿論例外もいる。ちゃんと実績があって偉い人からの覚えも良く、見た目に気を使っている冒険者には、彼等も愛想は良い。
「いつか刺されても知らねえぜ」
「やってみろってんだ。ただじゃ死なねえぞ」
まあ、この店の親父は誰に対してもこうなのだが……溜息をつくオウカの背後で、店のドアがバンと音をたてて開く。
「オウカ! やっぱりお前か!」
「人違いだ。余所をあたりな」
「何言ってんだ! この町にサムライなんかお前しかいないだろ!」
回り込んでくる、やけにキラキラした赤髪男。聖剣士のレクスである。商品説明に「イケメン」と書いてありそうな程に顔の整った男だが、実力もある。ついでに人望もある。そしてモテモテのハーレム野郎でもある。今日も神官と罠師……どちらも当然のように女だが……そんな2人を連れている。その2人からの視線がキツいのは、主にこのレクスに原因がある。
「で、何の用だ。お前のハーレム入りなら断ったはずだが?」
「パーティーメンバーだよ! 俺たちはストイックにダンジョンの奥を目指しているんだ!」
後ろの2人はそういう感じじゃないがな……とは流石に言わない。余計なことをやって痴情のもつれとかに巻き込まれるのは勘弁願いたいのだ。
「やだよ。お前ら、いつか刃傷沙汰になりそうだし」
だが言った。オウカは言った。遠回しにモノを言えないのでダイレクトに言った。
オウカはあまり頭が良くない。そんなに世渡りも上手くない。だから言ってしまった。どうしようもない。
「心配するなよ。俺たちはお前が思うより仲がいいんだぜ!」
「そりゃよかった。で、断ったはずだが?」
「俺は諦めてない!」
だがレクスはレクスでしつこかった。これで何回目だっただろうか。両手の指の数を超えた辺りでオウカは数えるのをやめていた。
「お前にカタナとかいう武器を探してこれるのは俺しか居ないとも思ってる。なのに断る理由が分からない」
「アタシ、お前嫌いだし。暴れたらあの親父が幾ら吹っ掛けてくるか怖えーから暴れねえけどよ。近付いてくんじゃねーよ。視線がネバいんだよ」
「なっ……あ、おい!」
レクスと2人を避けて、オウカは店を出る。ぶっちゃけた話、「そういう視線」に気付かないはずがない。オウカは自分が人並み以上に顔の出来が良い自覚はあるのだ。まあ、レクスは隠している方だ。冒険者にしては、という注釈はつくしオウカは普通に不快だが。
「ダンジョンばっか潜ってるとああなんのかねえ……くわばらくわばら」
とはいえ、自分もその仲間入りをしようというのだ。それは非常に不本意極まりないのだが……1度腹を決めた以上は、覆すつもりもなかった。
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