今後の予定は
ちなみに、魔石シャワーというものは金に余裕のある家庭にとっては一般的な代物だ。
魔道具師と呼ばれる職人の領域になるが、主にダンジョンから産出する魔石を使った便利道具の1つだが、大量の水やお湯を身体を洗うためだけに使用するというのは、それだけで贅沢なものだ。
しかし魔石を燃料に無から水やお湯を生み出せるという事実は、そうした生活力向上の礎となっている。
すでに薪だの井戸だの……そうしたものを使うのは旧時代の文化となっているのだ。
……勿論、そういった文化に不慣れなものにとっては「なんだか不思議ですごいもの」として認識されるわけで。
「うわ……すご……」
全身でざあざあとお湯を浴びるアンナは、初めて文化というものを体験したかのような顔をしていた。
「なにこれ……お湯がこんな簡単に、たくさん……ああ、贅沢……すごい……」
大量のお湯に質の良い石鹸、洗髪剤まで置いてある。アンナの気分は、まるで貴族だ。
……実際には貴族ではなく裕福な庶民程度のものだが、そんなものはどうでもいい話だ。
お湯をこれでもかというほどに浴びて……浴びながら、ふとアンナは思うのだ。
(すごい……けど。これがダンジョンに潜らない庶民の生活だとして。魔石を採ってくるのは冒険者よね? そんなに普及してるなら値段も下がってそうなものだけど、どうして私が泊まってた宿にはそういうのなかったのかしら)
うーん、と悩むアンナはお湯をシャワーから出しっぱなしだが、お金の問題がないなら常識の範囲内で遠慮しない、というのはアンナのよいところだ。
石鹸もたっぷりと泡をたてて身体を洗うが、そうするだけでなんかこう、全てが報われたような気がするのだ。
小銭稼ぎのオウカ。
なるほど、確かに「ギルドでの稼ぎ」だけを見ればそう「見える」のだろう。
ダンジョン探索による魔石などの成果物はギルドの中抜きがひどいだけであって、それなりに儲かる仕事だとされている。
一般人からの依頼など、その中抜き分を引けば相当に安い仕事であるのは間違いない。
ないが……結果的にオウカは、こんな宿に泊まれるくらいには儲けている。
それは勿論、既存の仕組みを上手く利用したオウカ独自の稼ぎ方というものがあるわけだが……そう考えるとアンナは自分が「生きるのが下手」であったと認めざるを得ない。
(……ま、私が盗賊退治を出来るかって聞かれたら別なんだけど)
盗賊だって、そういう人生を選んでいるという意味では愚かではあるのだが、盗賊行為自体は馬鹿であれば成り立たない。
奪った荷物を処分するルート、奪えそうなものを見極める選定眼、何よりも実力。
盗賊として生き残るのは、決して楽なことではない。
場合によってはしっかりとジョブを覚醒させスキルを使う盗賊だっているのだ。
そんな連中を相手にアンナがオウカと同じことを出来るかといえば……当然、「無理」が答えになる。
「……やっぱオウカがすごいってことかあ」
どう考えても、それが結論だろう。やり方を知っていて、それを実行できる実力がある。
殊更にそれをアピールする気がないせいで全く評価されていないが、もしこれが知られればオウカの人気は、とんでもないことになるはずだ。
真っ当な手段で金を稼いでいる。
それは、これ以上ないくらいの実力証明だ。金を稼げない理想派より、金を稼げる実践派が強いのは何時の時代も共通だし、それが真っ当で人様に顔向けの出来る立派な仕事であるのなら……そう、本来困っている人を助けるのは良いことだ……それが出来るのであれば、大人気だ。
そして当然、オウカの実力も証明されている。
シンボル武器もないのに盗賊団を潰して回る実力派の剣士。おまけに美人だ。
冒険者ではなく自分の護衛にしたいという貴族だって多いだろう。
カタナをどうやってでも見つけてきて説得の材料にしようという者だって出るかもしれない。
(……あれ?)
もしかして、と。そこでアンナは、とあることに気付く。
(もしかして私……すっごい確率の当たりを掴んでるわよね?)
誰かに気付かれる前の原石……いや、もうカッティングされ、その輝きに誰も気付いていないだけの、誰もが欲しがる超大粒の宝石を掴んだようなものだ。
だって、だって。もう、オウカはアンナが見つけたのだ。アンナが仲間になったのだ。
その事実に気付いてしまうと、なんだかゾクリとするような感覚がアンナの中に生まれてくる。
幸運。そんな言葉では片付けられない。
だから、アンナはオウカに乗っかったままではいられない。
自分がもっと役に立つと、オウカの隣に相応しいと証明するのだ。
「よし、やるわよ! ぜーったい、『アンナしかいねえよ……』って言わせてやるんだから!」
グッと拳を突き上げるアンナだが……その僅か後に、シャワー室の向こうに人影が現れて。
扉が、そっと開けられる。
「……あのな? うるせえよ。意味わかんねえこと言うのは自由だけどよ、もうちょい静かにな」
「……あ、うん。ごめん」
「おう」
去っていくオウカをそのままに、アンナがそのまま落ち込んだのは……言うまでもない。
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