サムライというジョブ
本日2回目の更新です
迷宮都市セルクレオ。それはダンジョンと呼ばれるモンスターの巣窟への対処の為に集まった人々と、それを支える諸々が集まって出来た「迷宮都市」の1つである。無限にモンスターの出現するダンジョンは放置すれば外へと溢れ出るが、適切に間引けば魔石などの様々な成果を持って帰ることが出来る。
それはまさに恵みの尽きぬ鉱山の如きであり、しかしダンジョンに挑むことは常に命をかけ続けることでもあった。
故に、その人々を冒険者と呼び、彼等を統括する組織を冒険者ギルドと呼んだ。
それは勇気に対する敬意であり、そんな生き方への嘲りであり……それらを含めた、社会としての承認でもあった。あくまで建前としては。
ともかく冒険者は迷宮都市に集い、時には一攫千金を成し遂げ時には無様に迷宮で命を落とす。そんな中……「そうではない」冒険者というのも、まあ多い。
たとえば今、冒険者ギルドにやってきた少女……オウカもそうだ。
「よっす」
「オウカさん、こんにちは。また小銭稼ぎですか?」
「まあね。そいつに少々義憤とかそういうのも振りかけてある」
「私たちとしてはそういうのよりもダンジョンに挑んでほしいんですが……」
冒険者ギルドは一般からの依頼も受け付けているし、その中には側溝の泥掃除だの迷子のペット探しだの、盗賊退治なども含まれている。そうしたものを中心にこなす冒険者を「賞金稼ぎ」と呼ぶ者もいるが、低額のモノばかりを受けていると「屑拾い」や「小銭稼ぎ」などと呼ばれることもある。
勿論仕事に貴賎は無いし、低額だろうと助けが必要な人が依頼を出している。いるが……迷宮探索や高額依頼専門の冒険者からしてみれば、安全圏でフラフラしているようにしか見えないのだ。
「もう依頼主に報告も済ませてある。こいつは完了証だ」
オウカが焼き印の押された木札をカウンターに置くと、受付嬢は「確かに」と頷き金袋を代わりに置く。
「もったいないですねえ……オウカさんならダンジョン潜っても稼げますのに。まだ探してるんですか? カタナとかいう武器」
「あったりめえだろ。そいつがなきゃアタシはスキル一つ使えやしないんだぞ」
そう、全ての人間の運命は生まれながらにして定められているという。それがジョブであり、農夫や料理人といった生活系、戦士や剣士、魔法士といった戦闘系が存在している。別に農夫でなければ農業を出来ないわけではないし、戦士でなければ戦えないわけでもない。
しかし、ジョブにあった適切な武器や道具を持った時、その者は「覚醒」という段階に至り「スキル」と呼ばれる特殊能力を使えるようになる。
そうしたものを「シンボルアイテム」と呼ぶが、これがあるとないでは天と地ほど違ってくる。
たとえば農夫であれば農具の扱いが上手くなる「農具マスタリー」や収穫量に繋がる「植物成長」などを使えるようになる。
戦士であれば武器や防具によって打撃攻撃スキルの「バッシュ」などを使えるようになる。
ただ、ジョブの中にはかなり特殊なものもあって、その縛りが物凄くキツいものも存在する。
それがオウカのジョブ「サムライ」である。このジョブ、カタナなる武器がなければ全ての攻撃スキルが使用不可能なのだ。
それだけではない。適切な武器や道具を持つことによる「覚醒」を経験しなければ、全てのスキルが使えないままなのだ。
つまり……サムライのシンボルアイテムである「カタナ」がなければ、オウカは本人の言う通り、一切のスキルを使えない……ということなのだ。
そして厄介なことに、これは偽ることが出来ない。
「ステータス」と呼ばれるものでそうした情報は確認できてしまう上に、他人の情報を鑑定できる者もいる。
そしてオウカの場合は……おおよそ、こんな感じである。
名前:オウカ
ジョブ:サムライ
シンボルアイテム:カタナ(未所持)
装備:一般的なシミター
:一般的な鎖帷子
:なんちゃって着物
:一般的なブーツ
スキル:未覚醒
「アタシがこんなことしてんのも、元はといえば顔を広くしてカタナの話を仕入れるためだってえのに……どいつもこいつも凶賊見るような目でアタシを見やがる」
「だから言ったじゃないですか。一般人にとって冒険者も盗賊もそんな変わんないんですって。冒険者はダンジョン潜ってこそですよ」
「ソロで潜れってか? お前、そんなにアタシ嫌いか?」
「ダンジョン潜ってくれない人は嫌いです」
「はー……」
大きく溜息をつくと、オウカは軽く頭を掻く。そもそもスキルに目覚めてさえいない……しかもその見込みすら不明な者を好んで仲間に入れる奴は居ない。居るとすれば詐欺師か何らかの事情で他と組めない奴くらいのものだ。つまるところ、オウカと同じ弾かれ者だが……オウカのような事情でもなければ、相当に問題のある奴だ。そんなのとはオウカも組みたくはない。
「大体そのカタナだってダンジョンから出るかもしれませんよ」
「……そんなものがあるならとっくに買ってるが?」
「カタナとかサムライ以外が使うとも思えませんし、捨てられてるんじゃないですかね」
「一理あるけどよ……」
結局はダンジョン。ダンジョンの外で情報を集められないなら、そちらに頼るしかない。外で信用を得る手段は散々やってはみたが、どれだけ人を助けても遠巻きにされるばかりだ。ならばもう、潜るしかないのは間違いない。
「……しゃあねえな。潜るか、ダンジョン」
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