人間みたいに生きるには金が要る
そうしてオウカたちが冒険者ギルドを出て、しばらくたって。冒険者通りを抜けると、アンナがようやく立ち止まる。
「ふうー……ここまで来れば大丈夫ね」
「別にそんなに引き離さんでも、お前とパーティ解消する気はねえぜ?」
「うっ……違うのよ」
「何が違うんだ」
「何がって……あんな有象無象に今更すり寄られてもなんかこう……ヤじゃない!」
「あー。まあ。それは分かる」
オウカとしても「何を今更」感はある。今まで散々バカにしといてなめんなよ、と手の1つくらい出てもおかしくはない。
「ま、戦力に不足が出りゃあ探さなきゃいかんがな。今のところそういうのも無し。なら追加人員も要らんだろ?」
「それはまあ……うん、そうね」
「よし! ならこの話はこれで仕舞いだ」
手をパン、と叩くとオウカは軽く伸びをして「んー!」と声をあげる。
「さてと。アンナ、後で送ってやるからよ。アタシの宿に来い」
「へ!? な、なんで!?」
「なんでってお前。さっきの金を分けねえとよ。タダ働きする気か?」
「あー……そういうこと」
「他に何があんだよ」
そういえばお金を受け取っていなかったとアンナは思い出す。確かに、それを受け取らなければ少々懐が寂しい頃ではあった。
「その辺で金なんぞ広げてたら、ロクデナシがわんさか寄ってくるからな」
「確かにね。スリに強盗……泥棒も出るわね」
多少であろうと纏まった金があると知れば、奪う算段をたてるクズはたくさんいる。
そういう奴は宿に侵入も企てるので、安心して寝たければ高級な宿に泊まるしかない。そういう宿は自分たちの価値を上げる為に不審者は喜んで狩ってくれるし客の安全も守ってくれる。それが評判になって金になるからであるからであり、つまるところ金は力だ。
「ま、そういうこった。金がありゃあ人間みてえに生きられる。綺麗汚いを問わずにな」
「私は問いたいけど」
「アタシもだ。気が合ったな」
「……そうね」
少し照れながらアンナは微笑む。こういう時、オウカはまるで子供のように笑う。それがオウカという人物の本当の姿を現しているかのようで、アンナはなんとなくくすぐったいような、嬉しいような……そんな気持ちになるのだ。
この冒険者というごみ溜めのような仕事をやっている中で、オウカにはしっかりとした倫理が根付いている。それがどれだけ貴重なものか分かるだけに、アンナは自分の幸運を再確認せざるを得なかった。たとえギルドに金を払ってマッチングサービスを依頼したところで、オウカのような人間と組めたとは思えないからだ。
「で、何処まで行くの?」
「何処ってお前……中央通りだよ。こんなとこで泊まるなんざ、淑女の考えじゃねえぞ」
「ええ……?」
まあ、確かに冒険者通りの「近く」はまだ微妙に治安が悪い。町の中心に行けば行くほど治安が良くなるのだが、その中でも中央通りは特に治安が良い。実際、先程からつけていた連中の何人かが中央通りと聞いて舌打ちして去っていくのが見える。
「しかしまあ、その為にゃ風呂行かねえとな。汚い恰好はよろしくねえ」
「え。あ、そ、そうね!?」
「おいおい大丈夫かよ。着替えは持ってんだろな」
「や、宿にはあるわよ」
「宿何処よ」
「この近く……」
ちょっと目を逸らしながらアンナが言えば、オウカはあからさまに呆れたような表情を向けてきてアンナはちょっと傷ついてしまう。
「……マジかよ。金か。金の問題か」
「うう、お察しの通りよ。中央通りに泊まるお金なんかないわよ」
「あー、まあ、お前の現状考えるにそうだよな。こいつぁアタシが気が利かなかった」
オウカは言いながら自分の額をぴしゃりと叩き、アンナに促す。
「よし、そこ引き払うぞ。案内しろ」




