チンピラ
3人の男が、オウカたちの前に立ち塞がった。見た目には少し錆びた鉄の装備と使い古した服を纏った、極めて一般的な冒険者だ。しっかり手入れをすればこうはならないはずだが……長期のダンジョン探索などやむを得ない状況下でそうなったり、色々あってめんどくさくなる。そうなると、気にしなくなるまではそうかからない。
見た目とは高い倫理観で維持されているというのがよく分かる姿だが……時としてそうやって汚物の如き汚れを纏っていた方が生き残れる可能性が高くなったりするという事実が、そうした歩く汚物を正当化する理由になっていたりもするのだが。
ともかく、目の前にいるのはそういう連中で。そういった価値観に染まっていないオウカたちは目に見えて嫌そうな顔になる。
「お前等は世渡り覚えろよ。いつもに増してひでぇぞ」
「臭っ、キツッ……」
「ふ、ふざけんなよ! こいつぁ伝統ある迷宮迷彩っつー」
「ゴチャゴチャうるせえんだよ。洗う金がねえのか洗う気がねえのか、どっちなんだオイ」
「ダンジョンの中で許されても外じゃ許されないわよね」
こういうのが標準だから冒険者は嫌われる。逆に言えばレクスみたいなのがモテているのは、見た目に気を使っているからでもある。そういう意味ではオウカもアンナも周囲から見れば上澄みの方……なのだが。それはあくまで一般的観点からの基準でもある。
「つーわけでどけ。邪魔だ」
怒りでプルプル震えている先頭の男にオウカがそう言えば、男は「嫌だね」と声をあげる。その表情には嗜虐的なものが浮かんでいるが……青筋も浮かんでいるので、相当「効いた」ようだ。
「なあ、小銭稼ぎ。お前みたいなのが半端者と組んで、どうやって1階層をクリアしたんだ?」
「あ?」
「無理だろ、スキルに目覚めてねえ雑魚と、ロクなスキルもねえ半端者じゃゴブリンナイトを倒せるはずがねえ」
「だな。旅行屋にでも頼んだか? いけねえぜ、そういう身の程知らずはすぐ死んじまうもんだ」
「俺等に言えばよかったんだ。そしたら手取り足取りレクチャーしてやったってのによお!」
ゲラゲラ笑う男たちを見ながら、アンナは首を傾げオウカの袖を引っ張る。
「えーと……親切?」
「ピュアかよ。ありゃセクハラだ。前にアタシが玉ァ蹴り上げたからな。ビビって直接的な言葉じゃ言えねえんだよ」
「よく分かんないけど、バレたら同じなんじゃ」
「そういうこったな」
言いながら、オウカは拳を軽く鳴らして男たちに近寄る。
「グダグダくだらねえ言いがかりにセクハラの合わせ技。こりゃ一族断絶しかねえよな」
「はあ!?」
「元々続く予定ぁねえだろうが、お前の家系はお前で終わりだ」
「お、おい待て!」
「待たねえよ」
キュッと内股になった男のすねを蹴り、ガードが緩んだところでオウカのブーツが男の股間を蹴り抜く。
「へぐぅ」
ぐるん、と白目を剥いた男に、男の仲間たちが「ウ、ウェイザアア!」と悲痛な声をあげる。そして1人の男が、腰の剣に手をかける。
「てめえ、小銭稼ぎィ……!」
「やるってのか? そのナマクラ抜いたら、もう後にゃ引けねえぞ」
「小銭稼ぎがなんちゃって冒険者になった程度で調子乗りやがってよぉ!」
「オウカ!」
盾を構えて前に出ようとしたアンナを遮ると、オウカは突っ込んできた男を軽い足払いで仰向けに転ばせる。手からすっぽ抜けた剣が近くの壁に飛んでいって刺さ……らずに跳ね返って落ちるが、聞こえてくるのは悲鳴どころか歓声だ。まあ、無法者がやられていることに対する喜びではなく派手な喧嘩に対する盛り上がりなので、オウカからしてみればどうでもいい類のものだ。
「な、なな……」
「よし、おつかれ」
オウカが男の顔を思いきり踏んづけ、ブキュッと汚い悲鳴をあげさせる。
ついでに踏みにじるとビクンと震えて気絶するが、残ったもう1人の男が椅子を構えて突っ込んでくるのを指の間に挟んだ10イエン銅貨を手裏剣のように男の顔面に投げて視界を潰し、そのまま突っ込み脛を思いきり蹴り抜く。
「いっ……ぐあ!」
耐えきれず落とした椅子が男の頭に命中し、そのままどさりと倒れて気絶する。
それで、終わり。判定も審判も必要ない程の、オウカの完全勝利だった。




