冒険者ギルドにて
「ふーん? ま、いいけど。オウカがソロだったおかげで私も組めたんだし」
「そもそもモテたって嬉しかねえよ。アタシが欲しいのはカタナだっての」
「カタナ、ねえ……確かにそんな名前の武器は見たことないけど」
「アタシもねえよ」
見たこともない武器であるというのに、それでなければスキルが解放されないと分かる。
誰もが生まれた時から持っている「ステータスウインドウ」なる仕組みのおかげだが、そのせいでオウカはずっとスキルを使えずにいる。
「昔は東方出身の鍛冶師がそういう技術を持ってたらしいけどな」
「あー……知ってる。サン帝国でしょ? 凄い昔に滅びたっていう」
「らしいな」
技術は絶え、当時の現物などすでに朽ち果てて。オウカがカタナを手に入れられる手段は、そう多くはない。東方に行けばカタナが手に入るというのであれば、こんな場所にいる必要などないのだから。そうではないからこそ、オウカは此処に居る。
「ま、可能性が一切無いってわけでもねえんだ。充分技は磨いた……あとはダンジョンに希望を求めるとするさ」
「そうね。ダンジョンには全てがあるっていうもの。きっとカタナだってあるはずよ」
「ハハッ、そうだな」
言いながら、オウカたちは冒険者ギルドのドアを押し開ける。冒険者ギルドは香りまで落伍者の香りがする……とはどこぞの吟遊詩人が歌ってタコ殴りにされた歌詞だが、ダンジョンに長い間潜って風呂など入っているはずもない、そんな連中が1つの空間に集えばそれは確かに独特の香りもするだろうし、汚れを落とす魔法や魔法具があることを思えば、落伍者の香りと歌うのもそう間違ってはいないだろうとオウカは思う。その吟遊詩人の間違いは、場末の……冒険者が集まるような酒場でソレを歌ったことだ。殴られても仕方がない。
さておいて、オウカたちが入ると中にいた連中の視線がオウカたちへと向く。
「へえ、小銭稼ぎの奴、ついに組んだのか」
「あっちはメイドナイト……だったか?」
「まあ、半端者同士丁度いいんじゃねえ?」
そんな陰口を聞きながら、オウカたちはカウンターへと進んでいく。
そしてオウカがカウンターに魔法の道具袋からゴブリンの魔石を出して積み上げる。
1つ1つは小さめでも、集まればかなりの量になる魔石がザラザラと積まれるのを見て、受付嬢はポカンと口を開けていた。
それだけではない。今までクスクス笑っていた連中も驚きの表情を浮かべているのが見える。
「おい、仕事」
面白そうに笑い声を漏らしているアンナの前でオウカがカウンターを指で叩けば、受付嬢はハッとした表情になる。
「あ。は、はい! まさか初ダンジョンでこれだけの量を……え? どうして今まで潜らなかったんですか?」
「どいつもこいつもダンジョンはキツいっつーからな」
「へ?」
「どんだけ魔境なんだと今まで二の足踏んでたが、仲間と一緒ならそうでもなかった。ま、そういうことだな」
「え、えーと。今回は何処まで」
「1階層はクリアした」
仲間と聞いて嬉しそうにニヤニヤしていたアンナがナイトソードを鞘に納めたまま持ち上げてみせると、受付嬢は「ナイトソード……」と呟く。
「それをドロップするなんて、運もお持ちみたいですね」
「んなこと言われてもな」
「大体の場合は魔石をドロップするんですよ。武具を落としたっていう事例は100回に1回くらいです」
「へえ」
興味無さそうにオウカは返事を返すと、再度カウンターを指で叩く。
「それよりこれ。買い取ってくれよ。魔石はいつでも買い取りしてんだろ?」
「ええ、勿論です。すぐに計算しますね」
慣れた手つきで何かの魔道具に魔石を入れながら、受付嬢はオウカに微笑む。
「ところでオウカさん。本格的にダンジョン探索するとなると色々物入りでしょう? 当ギルドでは提携した商会と共同でご提案するお得なローンが」
「ハハッ、寝言言ってねえでさっさと買い取り金渡せや」
「チッ」
「舌打ちしやがったなコイツ」
「ではコレが買い取り金です。ところで投資などにご興味は」
「一切ねえ」
金袋をひったくると、オウカはアンナの肩を掴んでクルッと回転させ、そのまま出口に向かって歩いて行こうとして。
「よう、小銭稼ぎ。随分世渡りが上手くなったじゃねえか」




