知らないうちにモテてそう
(ぜったいダメ、ねえ。そういう倫理観残ってるたあ、絶滅危惧種なんじゃねえか?)
冒険者であれば自分が得する機会は絶対に逃さないものだ。それがまさか「何が何でもお金の問題を起こさない」的な考えの人間に会ったのは、オウカとしては初めてだった。しかも冒険者でだ!
「なあ、アンナ」
「何よ?」
「お前さ、食事の時も割り勘するタイプか?」
「基本的にはね」
「例外は?」
「そいつのお祝い!」
なるほど、非常に分かりやすい。そして非常に気持ちが良い。オウカは素直にそう思った。
そういう倫理観には共感できるし、好感も持てる。正直、好きだった。
だから、オウカはクックッと笑いがこみあげてくる。
「いいねえ。好きだぜ、そういうの」
「何よ突然。褒めても何も出ないわよ?」
「出されても困る。単純に褒めてんだ」
そう、アンナみたいなのはオウカはとても好きだ。何処ぞのハーレム男も情熱だの正義感だのという意味では非常に「良い」冒険者だが、オウカは関わりたくはない。
しかしアンナは良い。非常に良い。組みたいと思ったのは、正直初めての感覚だった。
だからこそ、組んで良かったとオウカは思う。性格良し、実力良し。こんな好物件を拾えたのは正直運が良い。
カタナを見つけるには今のところダンジョンしかないが……正直、低層で見つかるとは思っていない。かなり奥に潜る必要があるだろうが、それには信用できる仲間は必須だ。アンナはその条件を、恐らく満たしている。こんな幸運はそうあるものではないだろう。
「ハハッ……いいな、実にいい」
「オウカ。さっきから気持ち悪い」
「んだよ、ひでぇな。出会いに感謝してたとこだぜ?」
「ならいいけど。私も嬉しいし」
「だろ?」
言いながら、オウカとアンナは冒険者ギルドへと歩いていく。
「そういえばオウカって魔石列車乗ったことある?」
「ねえな。死ぬ程高ぇだろ、アレ」
「まあねえ。大人しく馬車乗った方がずっと安いし」
そう、魔石が大量に手に入るようになってからたくさんの魔道具が生まれた。
道や家を照らす魔石灯、各種の魔法の武器に防具、便利な家庭用魔道具……どれも高いものばかりで普及したとはいえないが、その中でも一番高いものが魔石列車だ。
線路と呼ばれるものを敷き、幾つもの車両を連結したムカデの如き「列車」を走らせる超高価にして最新の巨大魔道具。
魔石をエネルギー源にして走る列車は今まででは考えられないほどの速度での移動を可能としたが、一部のならず者には走る宝石箱に見えるらしく……襲撃率が高いことでも有名だ。
「あ、走ってるわね」
「だな」
ガッシュガッシュと音を響かせる魔石列車は、町の比較的端のほうを縦断するようにして走っている。これは何やら建設計画が立ち上がった際に色々とあった結果らしいのだが……オウカは詳しくは知らない。
しかし魔石列車が通れば相応に煩いので、そのせいではないかともオウカは思っている。
まあ、結果として冒険者ギルドとそう遠くない場所に駅が出来たのはなんとも皮肉なものではある。
「どけどけ冒険者ども! 馬車が通るぞ!」
「おっと」
道のど真ん中を走ってくる豪華な馬車から守るようにオウカはアンナを引っ張って道の端へ行き、そのまま抱き留める。
あの大きく豪華な馬車は魔石列車を利用する客専用で、安全な中央街と駅を往復しているのだ。
まあ、此処がどう危険と考えられているか……を考えれば、どうにも微妙な気分にはなるのだが。
そんなことを考えていたオウカがふと気付くと、腕に抱えたままだったアンナがオウカをじっと見上げていた。
「……なんだよ」
「オウカってさー。モテるでしょ」
「いや、そんな記憶ぁねえが」
「そうかしら。知らないうちにモテてんじゃない?」
「覚えがねえよ」
アンナからするりと離れるとオウカは歩きだし……その後を追うようにアンナが小走りで近づき横に並び歩きだす。




