次なる層へ
ゴブリンナイトの死骸が消えていったその後に、ゴブリンナイトのロングソードが鞘ごと落ちていた。
剣の良し悪しなどオウカに詳しく鑑定できるはずもないが、まあナマクラではないだろう。勿論、直剣など使うつもりもない。
「要るか?」
試しにアンナにそう聞いてみると……アンナは「いいの!?」と嬉しそうに声をあげた。
「おう、いいぞ。アタシは使わねえし。使う奴が使うのが一番だろ」
「やったー! これ、ナイトソードよ!? もう返せって言っても返さないんだから!」
「お、おう。よく分からんけど、そんなに嬉しいもんか?」
「騎士ならまず最初に目指す剣よ! これで……あ、やっぱり!」
「んお?」
「スキルが浮かんできたわ……! 新しいスキルを覚えたわよ!」
「おう、よかったな。どんなのだ?」
「えーと……【メイドナイト流剣術:無銘剣】だって。やった、流派スキルだわ!」
そう、剣術とは人が考案するものではない。才能のある者がスキルとして流派の技を授かるものであり、ただし……それらは、一般的なスキルとは大きく違う点がある。
「確か流派スキルってな、修行が必要だったはずだが?」
「うっ……そうなのよね」
そう、流派スキルは覚えることで流派の全ての技の「やり方」を伝授されるものだ。
だが実際に使うにはその技の型を身体に叩き込むなどの修行が必要だ……攻撃スキルを覚えるよりお得だと思う者もいれば、損だと思う者もいる。
勿論、最終的に考えれば奥義を含む流派スキルが良いことは間違いなく、後輩やスキルの真似事をしたい者のために道場を開いたりする者もいる。
頭の中に秘伝書が入っている状態だ、そうして教えてもらった方が効率がいいし、評判の良い流派スキルはスキルという形でなくとも覚えておきたい者もいる。
「アタシの知る限りじゃ、この迷宮都市にメイドナイト流なんて看板はなかったはずだが」
「……私も知らない」
「ま、頑張れ。やり方自体は頭の中にあんだろ?」
「うう、ちなみにオウカって剣術とかって」
「アタシは我流だ。しかもカタナのために曲剣使ってんだぞ?」
「そうよねえ……」
直剣と曲剣では使い方がだいぶ異なる。協力してやりたい気持ちはあるが、こればかりはアンナが自力で覚えたほうがいいとオウカは思う。
「ま、頑張ってみろよ。流派スキルは大器晩成、覚えりゃお前が道場主も夢じゃねえ」
「誰が習いに来るのよ、メイドナイト流」
「知らん」
少なくともオウカはメイドナイト流の門下生でござい、とは名乗りたくない。
もし習ったら義理ゆえに名乗るだろうから、意地でも習う気はない。さておいて。
「ま、手に入れたもんは大きかったわけだし。これで心置きなく2階層に進めるってもんだ」
「え、オウカは何も手に入れてないじゃない」
「何言ってんだ、仲間が強くなりゃアタシも嬉しい。そういうもんだろ」
言われて、アンナはポケッとした表情になる。
なんだろう、鳩がたまにこんな顔をしている気がする……とオウカは思う。
「アンタって……」
「なんだよ」
「ううん。そうね。私が強くなった分、アンタも楽できるわよ」
「そうかい。期待してるぜ」
「任せなさい」
言いながら、アンナはオウカと組んで良かったと心の底から思う。
得だとか損だとか、そういう話ではない。オウカからあまりにも自然に与えられる信頼が、ひどく気持ちが良いのだ。
まだ会ったばかりだというのに、どうしてそんなに普通に懐に入れてくれるのか?
アンナ自身は、そんなものは返せていないというのに。
でも、だからこそアンナは思う。信頼には信頼で応えねばならない。
「じゃあ行くわよ、ご主人様!」
「……」
「だからなんで嫌な顔すんのよ」
「ガラじゃねえよ……普通でいこうぜ、普通で」
オウカがそんなに嫌ならアンナとしても強要する気はないが……ノってくれてもいいのに、と思わないでもない。
ともかく、2人は階段を降りていく。カツン、カツンと響く音は不思議と高揚感を高めていく。魔法的なものではないだろう……未知への期待だろうか?
「へへっ、なんかワクワクしやがるぜ」
「私も。なんだか楽しいわ!」
1階層は「始まりの迷宮」。誰もが迷宮と聞いて想像するような、比較的スタンダードな場所だ。
そして2階層は……。




