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第3話:秘書見習いの最初の日

朝の光がカーテン越しに差し込み、部屋の中を柔らかく照らしていた。


ユキナは鏡の前に立ち、じっと自分の姿を見つめる。


深いダークブルーのコートドレス。ターコイズブルーのリボン。軍服と女子校の制服を掛け合わせたような、四天秘書と同じ制服。


胸の奥がドクンと高鳴る。この制服はただの衣服ではない。それは、「閣下の専属秘書」――表向きにはそう呼ばれる立場であり、実際には「閣下の愛人」としての象徴でもある。


(信じられない……。わたし……本当に四天秘書のお姉さまたちと同じ制服を着ているんだ……!)


その制服は幾度となくテレビや報道で見たものだ。それを今、自分が身に纏っている。


制服の生地をそっと指先でなぞる。冷たい感触が、現実を突きつけてくる。


首席であったとはいえ、今までは休日に「養成機関」で訓練を受ける数十人の「愛人候補生」の一人に過ぎなかった。けれど、今日からはちがう。


「おーい、ユキナちゃーん! 準備できたー?」


廊下の向こうから、チェルシーの明るい声が響く。


「は、はいっ! すぐ行きます!」


大きく深呼吸をして、拳をぎゅっと握る。




ダイニングルームに入ると、すでに全員が揃っていた。


煌びやかなシャンデリアの下、豪華な朝食が並ぶテーブル。その周りには、総統閣下と四天秘書。彼女たちは、自分と同じ制服を纏っている。


ユキナは緊張しながら歩を進める。


「あっ、ユキナちゃん、めっちゃ似合うじゃん!」


チェルシーが満面の笑みを浮かべて、手をふった。


「ふふ、ようやく『こっち側』に来たって感じねぇ〜」


ラァーラが意味ありげに微笑む。


「……まずまずね」


サクヤが冷静に評価する。


「とてもお似合いですわ、ユキナちゃん」


ソニアが優雅に微笑んだ。


ユキナは少し顔を赤らめながら、小さく頷く。


「ユキナ。そこに座れ」


閣下の低い声が響いた。


ユキナはハッとし、すぐに席につく。


「は、はいっ!」


緊張で背筋がピンと伸びる。


四天秘書たちは、それぞれ優雅に朝食をとっていた。フォークを軽やかに操り、洗練された所作で食事を進める。


ユキナは恐る恐るフォークを手に取り、慎重に口へ運んだ。


と、そのときだった。


「――ユキナ」


閣下が再び名前を呼ぶ。


「っ! はいっ!」


ユキナは即座に顔を上げる。


閣下はまっすぐに彼女を見つめ、静かに告げた。


「今日は、俺の仕事に同行しろ」


「――えっ?」


ユキナの瞳が大きく揺れる。


サクヤが静かに彼女の反応を観察する。


「それは……つまり閣下の執務に同席するということですわね?」


ソニアが慎重に尋ねる。


「そうだ」


「ふぅ〜ん。それはまた、随分早いデビューねぇ〜」


ラァーラが唇をゆるく歪める。


「えっ、じゃあユキナちゃん、今日はわたしたちと一緒に会議とかに出るの⁉︎」


チェルシーが驚いたように身を乗り出す。


閣下は淡々と頷いた。


「そのつもりだ」


ユキナの喉がごくりと鳴る。


(わ、わたしが……閣下のお仕事に、同席……⁉︎)


ユキナは緊張し、戸惑った。


だがこれは、父と母がこの世で最も尊敬する男の仕事を間近で学ぶ貴重な機会だ。


「なにか、問題があるか?」


閣下の鋭い声がユキナの思考を断ち切る。


「ありません!」


ユキナは勢いよく返事をした。


「閣下のお仕事を学ぶ機会をいただけるなら、全力でやります!」


しっかりとした口調。


その言葉を聞いて、閣下は少しだけ目を細める。


わずかに満足そうな表情。


「そうか」


それだけ言い、彼は再び食事へと視線を戻した。


ユキナは自分の拳を強く握りしめ、決意する。


これは、「ここにいる」ための試練。


(絶対に……乗り越えてみせる! お父さまと……お母さまのために!)




広々とした会議室に、一瞬の静寂が満ちていた。


龍宮の執務棟、最高評議会会議室。


重厚なテーブルの向こうには国家の運命を握る七人の最高評議会メンバーが座り、壁際には武装した総統親衛隊員が控えている。そして、部屋の中心に堂々と座るのは、総統閣下。隣には、四天秘書たちがいた。


ユキナは閣下のすぐ後ろに立ち、緊張した面持ちで周囲を見渡した。


(すごい……! 閣下が、この国の中心に立って、すべてを動かしている……!)


彼女の目の前では、1億人の国民とその未来を決める議論が交わされている。四天秘書たちはそれぞれの役割を全うしながら、閣下を静かに支えていた。


柔らかな口調と表情で外交問題の報告をするソニア。


真剣な表情で精密なデータ分析を進めるサクヤ。


閣下が即座に判断できるよう、資料を手渡すラァーラとチェルシー。


ユキナは、ただそれを目で追うことしかできなかった。


(……どうしよう。わたし、ここにいるだけでいいの?) 


不安に苛まれる。


だが、ユキナはそれをすぐに振り払った。


(いや……そんなはずはない! 閣下はわたしに「同席しろ」と命じた。ただ傍観するためじゃない。わたしはここで、なにができるのか考えなきゃ!)


「……次の議題だ」


閣下の落ち着いた声が響いた。


瞬時に場の空気が引き締まる。


「先日の外交交渉の件ですが、欧州連邦側は新たな表明をしました」


「これに対し、どのように対応すべきか、閣下のご判断を仰ぎます」


最高評議会メンバーの大臣たちが次々と報告を行う。


ユキナはそのやり取りを必死に理解しようとしていた。


しかし、情報量が多すぎる。知らない専門用語も飛び交う。


一瞬、思考が追いつかなくなる。


(……ダメだ、集中しないと!)


サクヤに渡された資料のコピーをめくる。視線を走らせながら、今までの議論を整理する。


――そのとき。


(……これ、もしかして……!)


外交関連資料の原文を見比べていると、一つの矛盾があることに気づいた。


過去の資料と、今回の資料。その中で、相手国「欧州連邦」が「should not make concessions(譲歩するべきではない)」と明言していた部分が、今回の条件では「should not rule out making concessions(譲歩の余地を否定するべきではない)」になっている。微妙な英語のちがいだが、実は全く意味が変わってくる。その変化が、最新版の翻訳には反映されていない。


そして、最高評議会のメンバーたちは翻訳された資料しか見ていない。


誰も、原文のちがいに気づいていない。


(これって……交渉の余地があるんじゃ⁉︎)


ユキナは一瞬躊躇した。


果たして、この場で自分が声を上げて良いのか?


しかし、ここで黙っているべきではないと決意した。


彼女は勇気をふりしぼり、思い切って声を上げた。


「あ……あのっ!」


会議室の空気が凍りついた。


四天秘書、最高評議会メンバー、そして閣下が、無言でユキナを見つめる。


「……なに?」


サクヤが、冷静な声で問いかける。


「この、新しい文書についてなのですが……!」


ユキナは震える手で資料を持ち上げ、サクヤへと差し出した。


「過去の記録と照らし合わせると、欧州連邦は以前、『譲歩するべきではない』と明言していた部分が、今回の条件では『譲歩の余地を否定するべきではない』になっています! 英語の表現が若干ちがいます! これって……交渉の余地があるんじゃないでしょうか⁉︎」


サクヤが資料を受け取り、目を走らせる。


数秒の沈黙。


「……確かに、原文は少し異なるわね。でもそれが翻訳には反映されていない。……誰のミスかしら?」


サクヤの言葉に、ソニアが驚いたように資料を覗き込む。


「まあ……本当ですわね」


ラァーラは口元に手を添え、面白そうに微笑んだ。


「ふぅ〜ん」


「ユキナちゃん、すごいじゃん!」


チェルシーが目を輝かせる。


「た、確かに……これは重要なポイントです! 見落としていました!」


「ということは……欧州連邦側に、もう一押しできるということか?」


最高評議会メンバーたちも、慌ただしく資料をめくり始める。


外交における翻訳を起因とする齟齬は、実は極めて日常的なことだ。


「では、戦略を練り直す」


閣下の判断が下されると、最高評議会のメンバーたちは一斉に頷き、修正方針の策定に入った。


ユキナは小さく息をのむ。


(……わたし、やった……!)


彼女は、確かにこの場で「役に立った」。


初めての「貢献」だった。


「――ユキナ」


閣下の低い声が彼女を呼ぶ。


彼が自分を直視する。


「は、はいっ!」


ビクッとしながらも、すぐに返事をする。


閣下は微かに目を細め、静かに告げた。


「よくやった」


その言葉を聞いた瞬間、ユキナの頬が熱くなる。


(閣下が……褒めてくれた……⁉︎)


サクヤが腕を組みながら、小さく頷く。


「まあ、悪くないわね」


「ふふ……将来が楽しみですわね」


ソニアが優雅に微笑む。


「かわいい顔して、やるじゃなぁ〜い」


ラァーラが口元に指を当てながら、いたずらっぽく笑う。


「ユキナちゃん、すごいすごい!」


チェルシーが無邪気に頭を撫でる。


ユキナはそのままぎゅっと拳を握った。


(これからも……もっともっと成長していかなきゃ!)


彼女は、改めて決意した。




夜。豪華なシャンデリアが煌めき、上品なクラシック音楽が静かに流れていた。


ここは龍宮の晩餐会場。今、ささやかな規模の晩餐会が繰り広げられていた。


格式高い雰囲気が広間を満たし、各国の外交官たちが会場のあちこちで洗練された会話を交わしている。


そして、ユキナもまた、その場にいた。


彼女は深いネイビーブルーのドレスを纏い、黒髪を優雅なサイドポニーテールにまとめている。


初めての公式な外交の場。その重みを全身で感じながらも、ユキナは深く息を吸い、心を落ち着かせた。


(わたしは、ここにいる資格があるの……?)


ふと目を向けると、四天秘書たちはすでに堂々とふるまっていた。


ソニアは気品のある微笑みを浮かべ、流暢な英語で他国の外交官たちと談笑している。


ラァーラは柔らかな仕草とセクシーな微笑みで、通訳を介しながらも巧みに相手の懐に入り込んでいた。


チェルシーは英語を喋れないにも関わらず持ち前の明るさで場を和ませ、サクヤは知的な切り口と洗練された英語で会話をリードしている。


彼女たちはまるで、この場にいることが当たり前であるかのようだった。


そんな中――


「――ユキナ」


低く落ち着いた声が、ユキナの名を呼ぶ。


彼女はハッとしてふりむいた。


閣下が静かに彼女を見つめ、短く言い放つ。


「おまえの英語力を活かせ。自分で考えて動け」


ユキナの心臓が強く跳ねた。


(自分で考えて……動く……!)


彼女はぎゅっと拳を握りしめ、強く頷いた。


「はい!」


ゆっくりと、意を決して外交官たちの輪へと足を踏み入れる。


ユキナはまず、仲間内で話す合州連邦(がっしゅうれんぽう)大使館の若手外交官集団へと歩み寄った。彼らにはまだ、日之国側の要人がアプローチをかけていなかった。


(合州連邦は、日之国(わがくに)の最も重要な同盟国。……まずはこの人たちから!)


外交官たちはカクテルグラスを手にしながら談笑していたが、彼女が近づくと興味深げに視線を向ける。


「おや? こんな若いレディがいたとは。君は誰かな?」


不意に向けられた英語の問いに、一瞬ドキッとする。


しかし、すぐに表情を引き締め、にっこりと微笑んだ。


「Good evening. My name is Yukina. I am an assistant secretary-in-training under the Grand Leader. It is a pleasure to meet you(こんばんは、皆様。私はユキナと申します。私は総統閣下のもとで研修中の秘書補佐を務めております。お会いできて光栄です)」


彼女のしっかりとした英語の挨拶に、外交官たちは驚いたように顔を見合わせた。


「おお! 研修中とはいえ、君のような若いレディがこの場にいるとは驚きだね! まだハイスクールに通っている年齢だろう⁉︎」


「それに君の英語は素晴らしい! 留学経験でもあるのかい?」


「いいえ、留学経験はありません。幼少期から英語を学んでいましたが、まだまだ学ぶべきことが多いです。こうして皆様とお話できるのは、わたしにとって大変貴重な機会です」


外交官たちは感心したように頷いた。


「ほう、謙虚な姿勢だな。君は外交の場でもきっとうまくやれるだろう。君のような若いレディがこれほど堂々としているとは、この国は大したもんだ」


「ふふ、ユキナはまだ学びの途中ですが、大きな可能性を秘めていますわ。その才能を総統閣下に見抜かれ、ここにおります」


流れるような美しい英語が響く。


ソニアが微笑みながら会話に加わったのだ。


彼女の堂々とした佇まいに、外交官たちは一層興味を示した。


「ミス・ソニア。あなたのような優雅な方に学ぶのなら、彼女は立派な外交官になるでしょうね」


「ありがとうございます。精一杯頑張ります!」


ユキナは笑顔で答えた。




――その様子を、総統は少し離れた場所からじっと見つめていた。


「どう思われますか、閣下?」


サクヤが控えめに尋ねる。


閣下は短く答えた。


「まだ未熟だ」


「……ですが、成長の兆しはあります」


「ああ」


閣下はグラスを置き、静かに視線を移した。


「ユキナはまだ『使える駒』ではない。だが……『使える駒になる可能性』はある」


サクヤの瞳がわずかに揺れる。


「……閣下がそこまで言うとは、期待されているのですね」


「……」


閣下はそれには答えず、ふっと視線を逸らした。




晩餐会は終盤に差し掛かっていた。


外交官たちが席を立ち、満足そうな表情で帰路につく。


ユキナは最後まで笑顔で見送り、深くお辞儀をした。


「君と会えてよかったよ、ユキナ。君がどれほど成長するのか楽しみにしている」


「ありがとうございます! 皆様の期待に応えられるよう、努力いたします!」


「おっ、ユキナちゃん、やるじゃん!」


チェルシーが軽くユキナの背中を叩いた。


「ふふ、初めてにしては上出来よねぇ〜」


「よく頑張りましたわ」


四天秘書たちがそれぞれの評価を口にする。


ユキナは嬉しそうに微笑んだ。


今日、彼女の成長の第一歩は、確かに刻まれた。




晩餐会が終わり、長い一日がようやく幕を下ろした。


居住棟のリビングには心地よい静けさが広がり、四天秘書たちは思い思いの姿勢でくつろいでいた。


ソファに腰掛けたソニアは優雅に紅茶を口に運び、チェルシーはクッションを抱えながらリラックスしている。ラァーラは脚を組んでワイングラスを揺らしながら微笑み、サクヤはタブレット端末を真剣に操作していた。


そして、ユキナは緊張の糸が解けたのか、ほんの少しだけ疲れた表情で座っていた。


「ふぅー! なんか、めっちゃ疲れたー!」


チェルシーが大きく伸びをしながら、ソファに体を沈める。


「まあ、外交の場ってのは気を遣うものよねぇ〜」


ラァーラがワイングラスを揺らしながら、艶やかに微笑む。


「特に今回はユキナにとって初めてだったしぃ〜」


「ええ、とても大変でしたわね。でも、ユキナちゃん、よく頑張りましたわ」


ソニアが優しく微笑みながら、ユキナへと視線を向けた。


「……ありがとうございます!」


ユキナはまだ少し緊張が抜けきらない様子で、小さく笑う。


「それにしてもユキナちゃん、最初の晩餐会にしちゃ、なかなかやるじゃん! わたしなんて通訳いないとみんなと喋れないのに!」


「い、いいえ。わたしはただ……必死でした」


「ふふ。『必死』になれるのは、才能がある証よぉ〜?」


ラァーラの言葉に、ユキナは少し驚いた表情を見せる。


「……まあ、悪くなかったわ」


クールな声が響いた。


ユキナが驚いてサクヤを見ると、彼女は相変わらずの冷静な表情のまま、視線をタブレット端末から外さない。


「……サクヤお姉さま?」


「初めてにしては、上出来ね。少なくとも、あの場に立つ資格はあったわ」


サクヤの言葉は淡々としていた。だが、そこには確かな評価が込められていた。


ユキナは目を丸くし、そして、じわりと頬を赤らめる。


「あ、ありがとうございます……!」


「ユキナちゃん、サクヤに褒められるなんてすごいじゃん!」


「ふふ、サクヤに褒められたときは素直に喜んでおいた方がいいわよぉ〜?」


「本当に、これからが楽しみですわね」


「……はいっ!」


ユキナは力強く頷いた。




夜が更け、龍宮は静寂に包まれていた。


ユキナは自らに与えられた小さな部屋のベッドに座り、そっとスマートフォンを取り出した。


両親へ連絡する時間。


今日のできごとをきちんと「報告」しなければならない。


それが「約束」だった。


(……今日は、本当に色んなことがあったな……)


胸の奥に残る高揚と不安。これまでの人生で経験したことのない感情が渦巻いていた。


彼女は深呼吸をして、スマートフォンの画面をタップした。


プルルル……プルルル……


『――ユキナか』


父親の落ち着いた声が響く。


内務省のエリート官僚として働く父。貧困母子家庭出身にも関わらず国津橋(くにつばし)大学を卒業した彼は昔から厳格で、ユキナにとって心から尊敬できる存在だった。


「はい、お父さま……! 昨日は連絡できず、申し訳ございませんでした。今日、閣下の執務に同行しました!」


『そうか。それで、どうだった?』


ユキナは少し言葉に詰まり、今日一日のできごとをふりかえる。初めての執務参加、そして晩餐会での外交官との会話。


「……とても、すごい場所です。四天秘書の皆様はとても素晴らしくて……わたしとはちがう世界にいるような気がしました」


『当然だろう。彼女たちはすでに『選ばれた存在』だ。おまえはまだ『候補』に過ぎない』


「……はい。でも……わたし、頑張りたいです」


『……そうか』


父親の声が、少しだけ柔らかくなる。


『おまえは、幼い頃からなにごとにも全力で取り組む子だった。だからこそ、俺は総統閣下の愛人候補におまえを送り出した。決して中途半端なことは許されない。『未来の閣下の女』として、誇りを持て』


「……はい」


ユキナは拳を握りしめた。


父は、彼女が「総統閣下のために生きる」ことを望んでいる。


その期待に応えなければならない。


『四天秘書からすべてを学べ。そして、閣下にふさわしい女になれ。しっかりやるんだぞ』


その言葉は、命令のようでもあり、励ましのようでもあった。


ユキナは、ぎゅっとスマートフォンを握りしめる。


「……はい。わたし、必ず閣下のお役に立てるようになります」


『……よし』


ユキナの返事に、父は深く頷いた。


「あの……お母さまは?」


『夏子は、心配しなくていいと言っていた。おまえならできると』


「……そっか」


ユキナは小さく笑う。


「それじゃあ、おやすみなさい、お父さま」


『ああ、おやすみ。体調にも、気をつけるように』


ピッ――


通話が切れた。


ユキナは静かにスマートフォンを枕元に置き、天井を見つめた。


(……わたしは、ここで生きていくんだ)


そう決意すると、彼女はゆっくりと目を閉じた。


明日もまた、学ぶべきことがたくさんある。


最愛の両親の期待に、答えるために。


「おもしろかった!」

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