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【期間限定公開】 我ら、総統に捧ぐ。 〜極東の島国の国家元首と四人の美少女秘書はかく戦えり〜  作者: アサヒナ
第2章:四天秘書編(ソニア、ラァーラ、サクヤ、チェルシー編)
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第26話:サクヤvs陸軍3

翌日。再び龍宮地下、防衛軍司令室。


サクヤは扉を開けた瞬間に感じた。


空気が――張り詰めている。


鷲尾大将の視線が、突き刺さるように冷たい。


彼の目には怒りが宿っていた。


昨日のことをまだ引きずっているのは明らかだった。


今にも爆発しそうなほどだ。


(当然よね……)


サクヤは自分の胸中を整理し、静かに深呼吸する。


彼女は司令室の中央に進み、鷲尾の真正面に立った。


「――鷲尾大将。先日の私の非礼を、お詫びさせてください」


そして、深々と頭を下げた。


その場の空気が変わる。鷲尾を含めた軍の高級将校たちが、驚いたようにサクヤを見た。


「私は、数多の英霊への敬意を欠いておりました」


サクヤは、さらに深く頭を下げる。


「陸軍は常に最前線に立ち、この国を守り抜いてきました。その歴史的事実と貢献を無視し、軽々しく『解体する』などと申し上げるべきではありませんでした。深く、反省しております。私の無礼を、どうかお許しください」


彼女の声には、嘘偽りがなかった。


(――これは、私にとって屈辱よ。でも……)


それが必要であることも、彼女は理解していた。


サクヤは、自分の内心を噛み締めながら、それでも動じずに頭を下げ続ける。


陸軍は伝統のある誇り高い軍隊であり、鷲尾大将はまさにその象徴だ。彼のような男に対し、若くして出世した高学歴な彼女が正論で論破するだけではなにも変わらない。それはむしろ対立を煽る害悪だ。


(ときには、間違っていなくても頭を下げ、謝る必要がある……)


それが昨日、総統閣下から学んだことだった。


――長い沈黙。


やがて、鷲尾が腕を組み、低く息を吐いた。


「……そうか。まあ、わかったのならいい」


鋭い視線が、少しだけ和らぐ。


娘ほどの年齢の若い女性が、真剣に頭を下げている。鷲尾大将も、許さないほど冷酷な男ではなかった。それに、周囲の目もある。彼がここで意固地になれば、他の将校たちに「器の小さい男」と思われかねない。


(よし……ここまでは順調)


サクヤは、ゆっくりと顔を上げる。


ここからが「本題」だ。


「――鷲尾大将」


彼女は、冷静な声で言った。


「そこで、代替案を提案させていただきたいと思います」


鷲尾の眉がピクリと動く。


「……今度はなんだ? また『海兵隊』か?」


彼の声には、まだ警戒が滲んでいた。


「いいえ」


サクヤは、静かに首を振る。


そして、はっきりと告げた。


「『陸軍海兵師団』の創設です」


その瞬間、会議室の空気が変わった。


驚きの声が上がる。


陸軍の高級将校たちがざわつく。海軍大将も、興味深そうにサクヤを見た。


――ただ一人、総統閣下だけが、微笑んでいた。


これは彼と二人で、彼の寝室にて早朝まで練り上げた案だった。


サクヤはゆっくりと視線を巡らせ、全員の顔を確認する。


そして、言葉を続けた。


「陸軍は、歩兵を主力とする日之国の唯一無二の軍種です。ならば、そのノウハウを活かし、さらなる発展を遂げさせるべきではないでしょうか?」


真剣な眼差しで、サクヤは鷲尾大将を見つめる。


「これは陸軍の縮小や解体ではありません。むしろ、さらなる強化です。陸軍を、陸・海・空すべての領域で戦える『最強の機動兵力』に進化させるための計画です」


その言葉に、鷲尾が目を細める。


「なるほど。お前の考えはなかなか筋が通っているようだ」


険しかった表情が、少しだけ和らぐ。しかし、それでもまだ完全に納得したわけではないのだろう。鷲尾は腕を組み、サクヤをじっと見据えた。


「だが、まだわからんな。おまえのその『陸軍海兵師団』とやらについて、詳しく聞かせてもらおうか」


会議室に微かな緊張が走る。


サクヤは表情を崩さなかった。


「はい。もちろんです」


彼女はゆっくりと頷くと、場を見渡した。


すでに軍の高官たちの注目は、自分へと向いている。


ここで説得できなければ、すべてが無駄になる。


だが、焦る必要はない。


昨日の自分とは違う。


サクヤは背筋を正し、はっきりと口を開いた。


「現在の水陸機動旅団は、確かに日之国(わがくに)の海洋防衛における即応戦力ですが、4千人規模の陸軍の一小規模部隊としての枠組みを超えてはいません。しかし、もし陸軍内に2万人規模の正式な『海兵師団』を設置できれば、状況は大きく変わります」


鷲尾が、少しだけ身を乗り出した。


サクヤはすかさず話を続ける。


「たとえば、現在の水陸機動旅団が作戦を遂行する際、輸送を行う海軍との協力が必須となります。しかしそれは同時に、陸軍と海軍の間で作戦指揮系統の調整が必要になることを意味します。結果として、迅速な作戦展開が難しくなる局面もあるのです」


「ふむ……。まあ、そうだな……」


鷲尾は頷くが、まだ慎重な様子だった。


サクヤは微笑む。


今のところ、彼は話を聞いてくれている。


「ですが、もし陸軍海兵師団が正式に編成されれば、陸軍の主力部隊とは別の独立した指揮系統を創設し、独自の作戦展開が可能になります。海兵師団としての一貫した戦略のもとで、より迅速に強襲上陸作戦を展開できるのです」


「つまり、専門分野に特化することにより、即応性を飛躍的に向上させるということか?」


「その通りです、大将」


鷲尾の目が鋭く光る。


「さらに、現在の水陸機動旅団は陸上防衛隊時代から変わらず規模が小さく、持続的な作戦能力と遠征打撃能力に限界があります。海兵師団としての独立運用が可能になれば、部隊規模を拡大し、長期間の作戦展開も現実的になるでしょう。そしてなにより、陸軍海兵師団の創設は、敵国への抑止力にもなります。日之国の陸軍が本格的に復活したと世界全体に知らしめるのです」


「なるほどな……」


鷲尾は目を閉じ、腕を組む。彼の頭の中で、すでに構想が組み立てられているのがわかる。


陸軍軍人としての自尊心をくすぐる、サクヤの巧みな言葉選びの影響だ。


それはすべて、サクヤの計算通りだった。


「もちろん、これは陸軍の伝統的な役割を損なうものではありません。組織の分離独立は決して行いません。これは陸軍こそが持つ戦闘能力と機動力を次の時代に適応させるための『進化』だと私は考えております。鷲尾大将が指揮される陸軍が目指すべきは『アジア最強』です。陸軍海兵師団の創設は、その目標へ向けた大きな一歩です」


アジア最強。その絶妙なフレーズが、決定打となった。


「……ふむ。『アジア最強』か。……悪くない響きだ」


鷲尾は、しばし沈黙した。


やがて、彼は重々しく頷くと、静かに言った。


「――総統閣下」


彼は総統の方を向き、告げた。


「私は、サクヤ嬢のこの提案を大いに歓迎いたします。『陸軍海兵師団』――素晴らしい提案ではありませんか!」


サクヤは、その言葉に安堵した。


そして、総統閣下の口が開く。


「そうか。異論はないな?」


閣下は司令室を見渡し、告げた。


「まあ、私としては強襲揚陸艦に乗せられる海兵が手に入るのであれば、海兵隊でも陸軍海兵師団でもどちらでもいいのでね」


海軍大将の柊が低く笑う。


風向きが変わった今、陸軍を攻撃することは得策ではなかった。


海軍もそこまで馬鹿ではない。


「では、サクヤ。おまえの案を採用しよう」


彼の言葉に、サクヤの胸が高鳴る。


実態としては彼と二人で練った案だが、彼はあえてそれを述べず、この場でサクヤの顔を立てた。サクヤはそこに、閣下の優しさを感じた。


総統が立ち上がる。


「水陸機動旅団を再編し、『陸軍海兵師団』を創設する」


その瞬間、サクヤの表情が、満たされたものへと変わる。


「ありがとうございます、閣下」


彼女は、深々と頭を下げた。


鷲尾大将が、満足そうに頷く。


彼は立ち上がり、サクヤのもとへ歩み寄った


「サクヤ嬢。君は見どころのある娘だな。ぜひ、総統閣下と共に陸軍の訓練を視察していただきたい。君のような美女がくれば、兵たちもよろこぶだろうしな」


「ありがとうございます、鷲尾大将」


サクヤは、迷いなく答える。


そして、彼女と鷲尾大将は、力強く握手を交わした。


この日、サクヤは学んだ。


(正論だけでは、人は決して動かない。大切なのは、相手の誇りを理解し、共に進む道を探ること。閣下はそれを、私に教えてくれた)


彼女はまた一つ、人生の階段を登った。


――戦略家として。


――一人の若い女性として。

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