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【期間限定公開】 我ら、総統に捧ぐ。 〜極東の島国の国家元首と四人の美少女秘書はかく戦えり〜  作者: アサヒナ
第2章:四天秘書編(ソニア、ラァーラ、サクヤ、チェルシー編)
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第24話:サクヤvs陸軍1

「ふざけるなッ!」


低く響く怒声が、龍宮地下の防衛軍司令室に轟いた。


部屋の空気が一瞬で張り詰める。


緑色の軍服を纏った頑強な体躯の男――防衛陸軍大将「鷲尾直親(わしおなおちか)」が、顔を真っ赤にしてサクヤを睨みつけていた。


「水陸機動旅団を陸軍から切り離し、海軍の傘下に移すだと⁉︎ そんな勝手が許されると思うのか⁉︎」


サクヤは涼しい顔で、自身の防衛軍再編成案が記された書類をテーブルに置く。彼女の長い黒髪は、きっちりとしたハイポニーテールに結ばれており、その姿はどこまでも端正だった。整った顔には、感情の波は見えない。ただ、静かに淡々と、まるで学術論文を読み上げる大学教授であるかのように語る。


「許されるかどうかではなく、必要かどうかが問題です。日之国は島嶼国家。陸軍中心の軍構造は、時代遅れです。現代戦において、即応性と機動力を兼ね備えた独立した『海兵隊』を持たないことこそが、国防上の最大のリスクとなります」


鷲尾大将の眉間に深い皺が寄る。


「馬鹿を言え! 陸軍は戦前から日之国を守ってきた! 大陸でも、南方でも、どれだけの血を流してきたかわかるか⁉︎ 本土防衛のための強大な陸軍なくして国家は成り立たん!」


「本土決戦を想定すること自体が時代錯誤です。現代の戦略では、離島防衛と機動力の確保こそが最優先課題。水陸機動旅団を独立させ、機動的な『海兵隊』として編成することで、日之国と合州連邦が共同作戦を行う際の即応性も向上します。合州連邦海兵隊との連携強化は、戦略的にも不可欠です」


サクヤの声は冷静だった。感情を込めず、ただ事実を述べる。


彼女は二年前、皇国大学法学部に首席で入学したギフテッド。無論、サクヤは閣下の愛人になる際、皇大を中退している。だが、彼女の学歴は私立最高峰の一角である上叡(じょうえい)大学英語学科を中退したソニアと、大学進学をそもそもしなかったラァーラとチェルシーはもちろんのこと、国内文系最高峰の国津橋(くにつばし)大学法学部を卒業した総統閣下をも超えるものだった。論理的思考こそが彼女の最大の武器であり、感情的な議論に巻き込まれることをなによりも嫌う。


「そもそも、あなたがた防衛陸軍が陸上防衛隊時代からこの水陸機動旅団を適切に運用できていたとは到底思えません。だからこそ、より適切な指揮系統のもとに組み込むべきです。つまりは防衛陸軍ではなく防衛海軍の一組織にするのです」


「貴様……!」


鷲尾の拳が机を打った。ゴツゴツとした手が、分厚い木の表面に鈍い音を響かせる。


だが、サクヤは一歩も引かない。むしろ、彼のその怒りの反応に、内心では冷ややかな微笑を浮かべていた。


(権益を害されるから怒っているだけの野犬ね。実際に国防を憂いているわけではない。だから男は全員愚かだ……閣下以外は)


「防衛軍の中で陸軍の影響力は低下し続けています。あなたはそれを恐れているだけでしょう? 水陸機動旅団が独立し『海兵隊』となれば、陸軍の兵力はさらに縮小し、将官のポストも減る。単純にそれが嫌なだけでは?」


「貴様のような女がなにを知る!」


鷲尾の目が冷たく光る。


サクヤは続けた。


「もっと言うと、できれば今の陸軍は完全に解体し、より少数精鋭の機動的な『海兵軍』に再編成すべきです。日之国に陸軍は必要ありません」


「ふざけるな!」


彼は本気で怒鳴った。


「総統閣下の寵愛を受けてその座に収まっただけの小娘が軍事を語るとはな! 貴様はただ身体(からだ)を売ってその地位を得た(けが)らわしい売春婦に過ぎん!」


室内が静まり返った。


サクヤの瞳が、鋭く鷲尾を睨みつける。


「……なるほど。要するに、論理で反論できなくなったから人格攻撃に走るしかなくなったということですね? それも女性の尊厳を侮辱する最悪の差別で」


鷲尾は唇を歪める。


「黙れ! 貴様ごときに、国防のなにがわかる⁉︎」


「本土決戦論に固執し、陸軍の縮小を恐れている時代遅れの軍人に言われる筋合いはありません」


「っ……! 総統閣下!」


鷲尾は総統を振り返る。まるで最後の頼みの綱のように。


だが、総統は沈黙を保っていた。その表情は、まるでなにも感じていないかのように静かだった。


「ちょっとよろしいですか?」


海軍大将「柊征司(ひいらぎせいじ)」が口を開く。彼は微笑みを浮かべながら、サクヤに視線を送った。


「お言葉ですが、鷲尾大将。私は、この提案に全面的に賛成しますよ。聡明なサクヤ殿の言う通り、日之国(わがくに)は海洋立国です。我々海軍の観点から見ても、独立した海兵隊の創設は必要不可欠な施策です。海兵隊が創設された暁には、ぜひ我が機動打撃群に組み込みたい」


大和級強襲揚陸艦とその護衛からなる「機動打撃群」を6部隊創設しようとしている防衛海軍にとって、独立した海兵隊は喉から手が出るほど欲しい組織であった。


「私も同意見だ」


航空宇宙軍大将「篠原智久(しのはらともひさ)」が短く言い放つ。


「新しい時代には、新しい軍の編成が必要だ。陸軍の伝統に固執することが、最善の選択とは思えない」


陸軍と予算の奪い合いを行う海軍と航空宇宙軍にとって、サクヤの提案は願ってもいない最高の攻撃材料であった。


鷲尾の顔が紅潮した。


「くっ……! 貴様らぁ……!」


味方がいない。


この場において、陸軍は完全に孤立していた。


「ふざけるな! 誰が今まで日之国(このくに)を守ってきたと思ってる⁉︎ こんなもの、数多の戦場で散っていった英霊たちへの侮辱だ! 軍の崩壊だ! 絶対に認めんぞ!」


彼は椅子を乱暴に引き、立ち上がると、総統閣下を睨みつけ、サクヤを指差した。


「総統閣下! あなたはこれを許すのですか⁉︎ この小娘の暴挙を!」


会議室は静寂に包まれる。総統閣下は微動だにせず、ただ腕を組んで考え込むようにしていた。


「……閣下?」


サクヤは、その沈黙に疑問を覚えた。 


(なぜなにも言わないの? 私の言っていることは完全に正しいのに。いつもなら、すぐに支持してくださるはずなのに)


鷲尾はなにも言わない総統閣下に苛立ったのか、荒々しく肩を怒らせると、乱暴に扉を開けて会議室を後にした。ドアが閉まる音が、重く響いた。


「ふっ。頭が固すぎるな……。だから陸軍はいつの時代も無謀な戦争を始める」


柊が呆れたように呟き、篠原も肩をすくめる。


「仕方ないさ。陸軍はずっと、化石のように古い考えを引きずっている。変われないのさ」


サクヤは総統閣下の表情を探る。


彼はただ静かに、小さく呟いた。


「−−−−まずいな」


その言葉に、サクヤは困惑する。


「えっ……?」

「おもしろかった!」

「続きが気になる!」

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