第15話:秘書見習いの誓い
研修期間は、テロリストによる龍宮襲撃事件やユキナの入院により大幅な延長を経て、ついに幕を閉じた。
ユキナが龍宮を去る日、正門には、未だ襲撃の爪痕が残っていた。
石畳には焦げ跡が散らばり、破壊された門の一部は応急処置が施されているものの、完全に修復されるにはもう少し時間がかかりそうだった。
その場に立つ数十名の総統親衛隊員たちは、厳格な態度で周囲を警戒している。
ユキナは正門の前に立っていた。
目の前には、つい昨日まで自分も着ていた制服を纏った四天秘書の姿。
「もう、お別れかぁ……」
チェルシーが寂しげに呟いた。
「ユキナちゃんがいなくなると、少し静かになってしまいますわね……」
ソニアが微笑む。その優雅な表情に、どこか名残惜しさが滲んでいた。
「まあ〜、どうせ帰ってくるんでしょ〜? だったら、そんなにしんみりすることないじゃなぁ〜い?」
ラァーラは少し茶化すように言ったが、その口元には柔らかい笑みが浮かんでいた。
「はい! 絶対に戻ってきます!」
ユキナは力強く答えた。
そして、サクヤと目が合う。
「――ユキナ」
サクヤは静かに彼女を見つめていた。
「あなたは、本当にすごい子よ」
そう言ったサクヤの瞳は、これまでの厳しさとはちがった、どこか優しい光を宿していた。
「ここで、あなたを待っている」
ユキナの胸が熱くなる。
気づけば、彼女はサクヤに駆け寄っていた。
「サクヤお姉さま!」
ユキナはサクヤを強く抱きしめた。
サクヤも、そっとユキナの背を撫でる。
「あなたは……私の誇りよ」
低く、穏やかに囁く声。
「だから、待ってるわ」
ユキナの目に涙が滲んだ。
「……はい!」
しっかりと頷く。
これが、彼女の誓いだった。
2年後、ユキナは必ずこの龍宮へ戻る。
閣下のために。
四天秘書のために。
そしてなにより、自分自身のために。
――もう、両親のためではない。
送迎車のドアが開く。
ユキナは、最後に四天秘書たちにふりかえり、笑顔を浮かべた。
「必ず、帰ってきます!」
そして、車に乗り込む。
エンジンが静かに唸りを上げ、車はゆっくりと動き出した。
四天秘書たちは、そんな彼女を見送るように、静かに手をふった。
龍宮の門が、ユキナの背後で遠ざかっていく。
その光景を焼きつけるように、彼女は何度もふりかえった。
「必ずまた、帰ってくるから! 待っててください、閣下! お姉さまたち!」
聖歴2032年11月28日。
近江ユキナはもうすぐ16歳を迎える。
少女は、過去より未来に多くを持つ年齢であった。
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ちなみに、まだまだ続きます!
ユキナに関しては、最終章にて正式に再登場します!