第14話:真実
――意識が、ゆっくりと浮上していく。
どこか遠くで、誰かの声が聞こえた。
「……ユキナちゃん!」
目を開けた。
眩しい光が差し込んでくる。
視界がぼやけて、天井の白がゆらめく。
「ユキナちゃん!」
次の瞬間、強く抱きしめられる感触があった。
「よかった……本当によかった!」
ソニアの声。
「……ソニア……お姉……さま……?」
声がかすれていた。
「ユキナちゃぁぁぁん!」
チェルシーの顔が視界に飛び込んできた。
「うわあああん! 本当によかったあ!」
「……泣きすぎよ、チェルシー」
ラァーラが微笑みながら言ったが、その目には涙が光っていた。
「ユキナ……」
サクヤが、静かに名前を呼んだ。
彼女の表情はいつもとちがっていた。
普段の冷静さはなく、目尻が赤く腫れていた。
サクヤが、泣いていた。
「……馬鹿よ」
サクヤが絞り出すように言った。
「あなたは……本当に……馬鹿!」
ぎゅっと、サクヤの手がユキナのシーツを握りしめる。
「……サクヤ……お姉さま……?」
「あなたは……あなたは……っ!」
サクヤは、唇を噛みしめた。
「……ありがとう……ユキナ。あなたがいなかったら……閣下は――」
(――そうだ、閣下は⁉︎)
部屋を見渡すと、そこに彼が立っていた。
「……閣下?」
ユキナの目が見開かれる。
病室の入り口付近に、閣下と、ユキナの両親が立っていた。
「私は娘さんに、命を救われました。このご恩は、一生忘れません」
そう言って、閣下は静かに、深々と頭を下げた。
ユキナの父と母は、一瞬呆然とした。
そして――
「……娘がお役に立てたのであれば、光栄です」
父が、震える声で答えた。
母は、目に涙を浮かべていた。
「……閣下もご無事で、なによりです」
閣下は、ユキナの方へ向き直る。
そして、一歩ずつ彼女の側へ近づいてきた。
ユキナの心臓が、静かに鳴る。
閣下の目が、真っ直ぐにユキナを見つめていた。
「ユキナ――」
病室の静寂を破るように、閣下は口を開いた。
「まずは、礼を言う」
ユキナは驚き、目を見開く。
「おまえが時間を稼いでくれなかったら、俺は確実に死んでいた」
閣下の低く穏やかな声が、静かな病室に響く。
「ありがとう。おまえのおかげで、俺は助かった」
ユキナの胸が熱くなった。
閣下が、自分に直接「ありがとう」と言ったのは、初めてだった。
「閣下……」
声が震えた。
「……どうして、戻ってきた?」
閣下は静かに問いかける。
ユキナは、迷わず答えた。
「……知りたかったんです」
「……なにを?」
「……どうして……わたしを突き放したのか」
病室が、静寂に包まれる。
四天秘書も、ただ黙って閣下を見つめていた。
誰もが、答えを欲していた。
閣下は少しだけ目を伏せ、静かに息を吐いた。
「……おまえは、純粋すぎる」
ユキナは、目を瞬かせる。
「俺は、おまえのような純粋な少女を愛人にすることに――深い罪悪感を覚えた」
静かで、それでいてどこか苦しげな声音だった。
「だから、俺はおまえを突き放した」
ユキナの胸が、ぎゅっと締めつけられる。
「俺の元にいれば、おまえは汚れる。おまえは、まだ何者でもない。だから、出て行けと言った」
閣下の言葉は、淡々としていた。
しかし、その目の奥には、たしかな苦悩が宿っていた。
ユキナは息を呑む。
(閣下は……わたしを……守ろうとしていた?)
涙が、滲む。
「……ちがいます」
ユキナは、そっと首をふった。
「わたしは……ずっと考えていました。やっと……わかったんです!」
閣下の目をまっすぐに見つめる。
「わたしのいるべき場所は、閣下のお側です! 龍宮でお姉さまたちと一緒に、閣下に仕えること。それが、わたしの生きる道です!」
涙を拭いながら、はっきりと告げた。
閣下は、彼女の瞳を静かに見つめる。
「――ユキナ」
その声が、彼女の心に深く染み渡る。
「おまえは、俺の愛人にふさわしい」
ユキナの心臓が、跳ねた。
「戻ってこい。龍宮に」
涙が、頬を伝った。
「はい……!」
「おもしろかった!」
「続きが気になる!」
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